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気持ち悪いほど真っ赤に燃える空の下、 一人の少年が街を背に佇んでいた。
今年で16回目の秋を迎えたが、その実感はまるでない。
目の前を通り過ぎる人々を眺めながら、新しく買ったノートの入ったビニール袋を握りしめる。
聞こえる会話は、どれもが幸せで、思わずこちらも笑を零した。
ふと、耳に入ったのは「懐かしいね」という言葉。
少年は反射的に俯いて、その話から意識を無理矢理引っ剥がし、未だ巣に戻らないアリをじっと見た。
その人が通り過ぎて顔を上げると、空はいっそう赤くなっていた。
少年は思い出す。
こんなことになったのは、そう、ちょうど今日のような真っ赤な空の日の、次の日だった。
明日は、記憶が無くなる日。
少年は、今日のなんでもないことをノートに綴るために、家路を辿った。
少年は新しく買ったノートを取りだし、悲壮的になりながらも、1日のことを綴り始める。
習慣となったこの行為は、長らく続いてきた。
彼の家にある本棚─本棚でないところもあるが─には、6年分の日記がびっしり詰まっている。
彼はふと、先程の言葉を思い出す。
───懐かしいね。
和樹
和樹
少年は、自身が本当の意味でそれを言うことが出来ないことを理解していた。
理解していたが、 その言葉を言えないことに対しての悲しみが癒えることはなかった。
少年にとって、人と違うことは不安であり、自身が抱える悩みであった。
彼はゆっくりとペンを置き、手を休める。
和樹
少年は、頭の中でぐるぐると巡る思考が鬱陶しくてたまらなかった。
次の日のことを無駄に考えてしまって、いつもこのように、眠れない。
彼は、これから先、自分の未来が閉ざされているような気がしてならなかった。
外から差し込む光には、夕方に見た赤色がまだ少し混じっている。
彼は、未来への不安と希望を抱えながら、静かに眠りについた。