若井滉斗side
元貴に部屋に呼ばれる
できるだけいきたくないから、ゆっくりゆっくり歩いていく
なのに、一分もせずにリビングについてしまった
リビングからは二人の話し声が聞こえてくる
行きたくない
入りたくない
俺が入って、なんになるんだろ
二人とはどうせ、話さないのに
大森.
元貴がリビングから出てきた
きっと今から曲を作りにいくんだろう
大森.
若井.
大森.
若井.
元貴にそう言ってしまった
でも、本当の気持ちだった
なんで喋らないくせに俺を呼んだのか
二人で盛り上がってるなら、俺を呼ばなくたってよかったのに
大森.
元貴の言っている意味がわからない
元貴は言った “俺のときも同じだった” と。
元貴に、“こんな”ことをした覚えはないんだけど。
大森.
元貴はそう言ってへらりと笑った
有無を言わせない、完璧な笑みだった
じゃあ、無視すんなよ
そんな言葉が喉まででかかった
でも、言わなかった
言える勇気がなかったから。
元貴は作業部屋に行ってしまい、廊下には俺だけが残された
リビングに入るのは気まずいことこの上ないけれど、意を決して入ることにした
リビングの扉を開けると、ソファに座った涼ちゃんがいた
藤澤.
若井.
一瞬涼ちゃんと目があった
でも、涼ちゃんの方から逸らした
涼ちゃんはびっくりするほど無言だった
涼ちゃんがミセスに入りたての頃の方がまだ喋っていたはずだ。
涼ちゃんの斜め向かいの、なるべく遠い場所に座る
気まずい沈黙を埋めるように携帯をいじる
お互いがお互いを必要としなくなったから会話すら成立しない
涼ちゃんをこっそり盗み見る
びっくりするほど真顔だった
びっくりするほど綺麗な、真顔。
俺の方を見向きもしない
涼ちゃんって、こんな顔をするんだっけ?
少なくとも、俺は見たことない、涼ちゃんの表情。
付き合っていた頃も、涼ちゃんはずっと笑顔だったから
俺は涼ちゃんを付き合っていた頃より、別れてからの方が涼ちゃんをよく知れている気がする。
今だってそう
涼ちゃんの初めて見る表情
涼ちゃんの初めてみる激しい独占欲
嫉妬。
なんでだろう
俺と付き合ってる時と、元貴と付き合っている時、
何がどう違うの?
なんでか急に涙が出そうになる
目を手の甲で擦る
なんで、こんなに俺ばかり無理しないといけないんだろう
いい加減二人に言いたい
『なんで無視するの』
そう、言ったところで返事なんてもらえないだろうけど。
携帯に目を移す
ホーム画面は三人で撮った写真だった
仲良さそうに三人くっついておどけた表情をしている
そう、この写真を撮ったときは、まだ“こんな”じゃなかったから。
ホーム画面を変えたくなっていい写真を探そうとフォルダを開く
写真のフォルダには俺と涼ちゃんの写真が沢山あった
数え切れないほど、涼ちゃんとの写真が、沢山。
写真の中の涼ちゃんは楽しそうに笑っている
今の涼ちゃんとは、何もかもが違う
だって涼ちゃんは変わってしまったから。
その事実に耐え切れなくなって、俺は一人で元貴の家を出た
帰る、と涼ちゃんに言ったけれど返事はなかった
一人で公園のベンチに座る
さっきの空間よりもずっと暖かくて優しくて気持ちがいい
携帯を取り出して、写真を消すために指を動かす
一つ一つ、写真を見ていく
遊園地の入口で両手をあげて笑う俺と涼ちゃん。
デパートの飲食店できのこパスタを食べながらピースする涼ちゃん。
こっちを向いて変顔をしている元貴。
手を繋いで花火大会に行った時の花火。
ライブの後に三人で撮った疲れ果てた笑顔。
綺麗な夕焼けに照らされて寝ている涼ちゃん。
こんな思い出ばかりの写真を消せなかった
消せるわけがなかった
この頃に戻りたい
未だに夢を見る
前みたいに話しかけてくれる涼ちゃんと元貴の夢。
この写真の中で息をしてる、あの頃の元貴と涼ちゃんに会いたい。
いつから、どうして、変わっちゃったの?
消せない写真の上に涙か溢れていく
消したら、ないものになってしまうでしょう?
二人との楽しかった思い出も、
涼ちゃんとの楽しかったデートのことも
全部無くなっちゃう気がした
実際、もう二度とあの幸せは戻ってこない
視界が歪む
画面にぽたぽた涙が溢れる
携帯をベンチの上に置き、手で目を抑える
でも、受け止め切れなかった涙がズボンを濡らしていく
次から次に、涙がとまらない
陽の光だけは、俺を優しく包んでくれている気がした
こんにちは✨
2000いいねありがとうございます😭 コメントも沢山きていて、有り難く読ませていただきました✨
この作品もいいねと感想よろしくおねがいします🤲
次は大森さんサイドです 若井さんがでて行っちゃった後から始まります✨
それではまた!
コメント
8件
この作品大好きです
もうほんとにつらい😭 若さんもうちょっとしか生きれないのに… 大森さんサイド楽しみです! 若さんだって強い訳じゃないのに… 救われてくれ〜😭