テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
愛奈 @多分低浮上
2
おい、そこで何してんの。邪魔なんだけど
頭上から、低くて、驚くほど整った、けれどどこか気怠げな声が降ってくる。心春がハッとして顔を上げると、階段の上段に、完璧な端正な顔立ちをした少年が立っていた。
ブレザーを崩して着こなした、先輩 一ノ瀬蓮。(いちのせ れん)
心春は咄嗟に、条件反射で涙を引っ込め、口角を無理やりきゅっと上げて微笑みかける。
蓮はポケットに手を入れたまま階段をトントンと下りてくる。そして、心春のすぐ目の前で足を止め、その綺麗な、けれど底意地の悪そうな瞳で、心春の顔をじっと覗き込んできた。
誰にも覗かせないはずだった完璧な壁を、いとも簡単に粉々に踏み荒らされる。言葉が出ない心春を見下ろしながら、蓮はフッと冷たく、けれどどこか引き込まれるような歪んだ笑みを浮かべた。
言葉が出ない。いつもなら、どんな言葉をぶつけられても「100点満点の笑顔」で受け流せたはずなのに。家での拒絶、美乃莉の眩しさ、陽菜の冷たいナイフ。今日1日で削られ続けた心春の心は、蓮の容赦ない一言で、ついに完全に決壊した。
ボロッ、と大きな涙が、心春の瞳から溢れ落ちて床に染みを作る。声も上げず、ただ涙だけを流して震える心春を見て、蓮はわずかに眉をひそめた。
心春は声を絞り出し、重ための前髪の隙間から、涙で濡れた瞳で蓮を真っ直ぐに睨みつける。それは、誰にも見せたことのない、彼女の「本当の本心」が剥き出しになった瞬間だった。
叫ぶように本音をぶちまけ、心春はまた膝に顔を伏せて声を殺して泣きじゃくる。静まり返った階段に、彼女の微かな泣き声だけが響く。
蓮は深くため息をつくと、階段を一段下りて、へたり込む心春の前にしゃがみ込んだ。そして、乱暴に心春の頭に手を置き、その重ための黒髪をわしゃわしゃと雑に撫でる。
蓮の口元には、相変わらず底意地の悪そうな、歪んだ笑みが浮かんでいる。けれど、その手は驚くほど温かくて、なぜか心春の凍りついた心を、無理やり溶かしていくような錯覚を覚える。
完璧で、誰よりも捻くれている先輩。けれど、この世界で初めて自分の「本当の傷」に真っ直ぐ向き合ってくれた彼の手を、心春は拒絶することができなかった。
蓮の大きな手が、心春の重ための黒髪を不器用そうに包み込んでいる。生まれて初めて、嘘の笑顔ではなく「本当の傷」を見つめてもらえた安心感に、心春の胸がトクン、と跳ねる。
──あーあ、見ちゃった。蓮、何女の子泣かせてんの? 最低〜
コン、と軽い足音と共に、階段の踊り場の入り口から、からかうような明るい声が響く。ハッとして二人が視線を向けると、そこにはブレザーをゆるく羽織り、いかにも世渡りが上手そうな少年が壁に寄りかかっていた。蓮の親友であり、もう一人の先輩──長谷川駿。(はせがわ しゅん)
(チッと舌打ちして、心春の頭からパッと手を離す)
駿はニカッと悪戯っぽく笑いながら、階段をトントンと下りてきて、心春のすぐ横にしゃがみ込む。そして、心春の涙で濡れた目元を、自分の指先でそっと、けれど躊躇なく拭った。
心春は咄嗟に身体を引こうとするが、駿のその触れ方は、驚くほど強引で、それでいて熱を帯びていた。
背後から、蓮の低く冷え切った声が飛ぶ。普段はどんなことにも動じない完璧な蓮の瞳に、明らかな不快感と焦りが混じる。
駿は心春を覗き込み、いつも通りの軽い笑顔を浮かべている。けれど、その瞳の奥にある光は、ちっとも笑っていなかった。密かに心春へと向けられた、執着に似た本気の熱線──。駿はわざと蓮を挑発するように、心春の肩を自分の方へと引き寄せた。
(息を呑む。蓮との間に、バチバチと火花が散るような、息の詰まる空気が流れる)
完璧で捻くれた蓮と、その関係を悪びれもなく引っ掻き回す駿。二人の先輩に挟まれ、心春の学校生活の歯車は、さらに狂い始めていく──。
コメント
1件
読み終えたよ〜😌💭 この第2話、めちゃくちゃ刺さった……。 蓮くんの「目が笑ってねえよ」「中身空っぽだな」って言葉、心春の心の鎧をバキバキに割ってきた感じがして、読んでてこっちも息できなくなった。 でもそのあとの「やっとまともな顔したじゃん」とか「付き合ってやってもいいけど?」は、ツンデレすぎてキュンってきた(笑) 最後に駿先輩が現れて、蓮との間にバチバチした空気が流れたのもすごく好き。 2人の先輩の間で揺れ始める心春、次が気になりすぎる……。続き、待ってます🌙