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🌙『言えなかった、けど』🌷
足湯からの帰り道。 ふたりで並んで歩くこの夜の静けさが、なんだか名残惜しく感じていた。
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えとさんが両腕をぎゅっと抱えてるみたいにして歩くから、 僕は自分のパーカーの袖を伸ばして、そっと彼女の手にかぶせた。
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そんな風に冗談めかして言ったのに、えとさんはすぐには笑わなかった。 それがなんだか寂しくて、僕も静かになる。
病室の前まで来たとき、ふたりとも自然と立ち止まった。 何かを言いたいのに、言葉がのどの奥でつっかえてる。
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僕は、視線を合わせないまま、口を開く。
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彼女が急に言葉を遮って、ポケットから何かを取り出した。 小さな、折りたたまれた紙のメモ。
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えとさんの指先から受け取ったそれには、 手書きの文字でこう書かれていた。
「なおきりさんのこと、話したいことがたくさんあります。 でも、いっぺんに伝えるのは、ちょっと怖いので…ゆっくりでもいいですか?」
僕はそれを読み終えてから、視線を上げた。 えとさんは笑ってた。小さくて、でも少しだけ震えてる笑顔だった。
……ああ。 言えなかったけど。 伝えられなかったけど。
それでも、僕らはちゃんとつながってる。
そのとき、えとさんの頬がすっと染まった。 そして、いつもみたいに言葉を返してきた。
💌『届かなかった手紙』
朝、目が覚めたときからそわそわしていた。 昨日の夜、あのタイミングで気持ちを伝えられなかったからーー
だから、今日は絶対に。 私の気持ちを、ちゃんと伝えようって決めてた。
「なおきりさんへ」って書いた手紙。 枕の下に隠しておいたのを取り出して、病室を抜け出す。
なおきりさんの病室のドア。 こっそり少しだけ開けて、静かに枕元に手紙を置いた。
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ちゃんと届きますように、って小さくつぶやいたあと、私はそっとドアを閉めた。
それから数時間ーー 待っても、なおきりさんは何も言ってこなかった。
アイスココアをくれたときも、いつもの調子で笑ってて、 昨日みたいな、ちょっと照れた顔は見せなかった。
「……読んでないのかな」 それとも……気づかなかった? ……それとも、読んだけどーーなにも返せないってこと?
考えれば考えるほど、心がざわついて、胸の奥がちくちくする
📮『探しても、見つからなかった』
えとさんが、どこかそわそわしてたのは気がついてた。 でも、理由がわからなくてーー少し距離を感じていた。
夕方、病室に戻ったとき。 ふと、ベッドの下に落ちてた白い封筒が目が入った。
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拾い上げて、封を開くと……中から出てきたのは、えとさんの字だった。
「本当は昨日、なおきりさんが言おうとしてた言葉、聞きたかったです。 私も、伝えたいことがあるんです。大好きな、あなたに。」
一瞬、呼吸が止まった。 それと同時に、あの時の空気、目の前のえとさんの表情が、 全部思い出されてきた。
……これが、伝えたかったこと。 でも、僕は気づけなかった。
ずっとそばにいたのに、すれ違った。
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紙をそっと胸にしまって、えとさんの病室へ走った。
🚨『届かないままの想い』🌷
封筒を胸ポケットに入れて、病室を飛び出した。 えとさんにーー僕の気持ちを、今すぐ返したくて。
心臓がバクバク鳴ってるのは、走ってるせいだけじゃない。 ようやく繋がった、彼女の「想い」にーー 僕の気持ちを重ねたくて。
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階段を駆け下りていこうとした、そのときだった。
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足元が、ふっと軽くなる。
つまずいた?いや、違う。 急に目の前が揺れて、息が苦しくなる。
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視界が、ぐらぐら揺れて、壁にもたれかかる。 心臓の鼓動が、痛いくらい速くなってる。 呼吸が上手くできないーー
やばい、これ……。
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くやしい。 ほんの少しだけ、間に合ってればーー
ほんのちょっとだけ、早く気づいてればーー
僕は今頃、あの子に「好き」って伝えられたのに。
💨『信じたまま、駆け出して』🍫
手紙をおいてから、ずっと落ち着かなかった。 ドアの向こうで聞こえたような足音、遠ざかる気配ーー
なのに、来ない。
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いつもなら、すぐ来るのに。 だって、あの人は、そういう人だった。
真っ直ぐで、どこかちょっと子どもみたいで。 でも優しくて、かっこつけたがりで……ずっと私の隣にいてくれた人。
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嫌な想像が浮かんで、思わずベッドから飛び起きる。スリッパを履くのももどかしく、 病室のドアを開けた。
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名前を呼びながら、廊下を駆ける。 エレベーター前、デイルーム、階段ーー 胸がどんどん苦しくなる。焦りで、怖くて。
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そんなときだった。
「ーーえと、さん……?」
階段の踊り場。 壁にもたれかかるように、しゃがみこんだなおきりさんがいた。
顔色は真っ青で、肩で息をしててーー でも、その手には……私の手紙を握っていた。
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駆け寄って、思わず抱きしめた。
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抱きしめた腕に力がこもる。 そのぬくもりが、確かで、愛おしくて、涙があふれた。
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その瞬間だった。
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私を抱きしめていた腕から、力がふっと抜けた。
「え……?」と思う間もなく、彼の体が私にもたれかかってきた。
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揺さぶっても、返事がない。 目は半分閉じられて、息が浅くてーー
怖い。 頭が真っ白になる。
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廊下に響く私の叫び声。 ナースステーションから走ってくる白衣の足音が、遠くで聞こえた気がした。
その手からは、まだ私の手紙が離れずに握られていて。 「……言うよ」って。 あんなふうに笑って、優しい声で、強がってたのに。
どうして、どうして…… たったひとこと、「好き」って言葉が、こんなに遠いの?
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私の声は震えて、涙が彼のシャツを濡らしていった。
🕊️つづく