しばらくすると、 洗面所から甚爾が出てきた。
こうして突然来ることも 少なくはないからと、
念の為私が用意しておいた 男物のスウェット。
近寄って顔を覗くと、 その瞳は虚ろだった。
嵌永優莉
嵌永優莉
ソファに座って手招きすると、
私の足元のカーペットに 腰を下ろす甚爾。
頭を撫でるように なるべく優しく乾かして。
嵌永優莉
気になるけど、 敢えて聞かなかった。
いや、聞ける立場じゃない。
私たちはただの仕事仲間で、 友達でも恋人でもない。
曖昧な関係がそれは それで心地よくて、
私はそれ以上望まないし 進む気もなかった。
嵌永優莉
嵌永優莉
髪を乾かし終えて 電気を消し、
ベッドに寝転んで呼べば、
甚爾は黙ってベッドに潜り、 私を抱きしめた。
私の首に顔を埋め、 深く息を吸って吐く。
それが自身を落ち着かせるための 行為だと気付いて、
何かに苦しんでいるんだと 推測した私は、
甚爾の頭をそっと撫でて 眠りについた。
翌朝、私が起きた時には 甚爾は家に居なかった。
干してあった着てきた服は 消えていて、
逆に貸したスウェットだけが ソファに散乱していた。
嵌永優莉
勝手に来ては勝手に甘えて、 恩を返す事もなく去っていく。
だけど、それで甚爾が 元に戻るなら。
この関係を保てるなら。
たとえ「都合のいい女」 だとしても、
あの男に必要とされるなら 良いと思えてしまった。
コメント
2件
切ない...!なんだか泣きそうになってしまいます......続き楽しみにしてます!