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これは、ある夏の日の出来事だった。
⬛︎⬛︎
学校が終わり家に帰ろうとしていると、
明快で前向きな印象のある声の持ち主が私目掛けて飛びついてくる
流夏
藍
藍
彼の名前は流夏。
流夏は私の保育園からの幼馴染で、ちょうど今日が誕生日だった。
流夏
流夏
流夏
藍
藍
流夏
藍
藍
流夏
流夏
流夏
藍
流夏
そんないつも通りの毎日で、
他愛無いけれどどこか愛おしい
そんな会話を交わしていたその時だった。
流夏
藍
妙に真剣な表情をした彼の瞳の先を追っていくと、
自然豊かでのどかなこの地にはそぐわない
真っ黒なインクで塗られた損傷の激しい 『不気味』という言葉がぴったりのトラックが
ぽつんと、森の奥の道路の真ん中に停まっていた。
流夏
藍
その時なにを思ったのか、
当時幼かった私達はそのトラックに
近付くことにした
2人で禍々しいオーラを放っているトラックに近づくと
激しい傷や凹みはより鮮明に見え、森の中が怪しげに揺れている
その奥から男性らしき話し声が聞こえた気がした。
流夏
藍
流夏
そう言い、お互いに手を伸ばして固く手を繋ぐと、 後ろからエンジンが掛かる音がした。
どことなく嫌な予感がして後ろを振り向こうとした瞬間
勢いよく先程のトラックが走り出す。
藍
流夏
恐怖から慌てて逃げようとしたせいか脚がもつれて盛大に転び、
手を繋いでいた流夏も一緒に転んでしまった。
藍
この状況からパニックになり、若干涙目になりながら必死に謝る
流夏
そう言うと優しい幼馴染は、大きく膝を擦りむいているのに
起き上がって私の側に駆け寄ると、温もりのある小さな手が背中を撫でてくれる。
流夏の優しさに触れて我慢していた涙がぽろぽろと溢れ出す。
流夏
流夏
藍
流夏
藍
突然首元を掴まれたような感覚になり、流夏の方を見ると
彼は黒い服に身を包んだ人に殴られて乱暴に持ち上げられ、深い森の闇に連れていかれる
藍
⬛︎⬛︎
藍
上からから声がして見上げると、 流夏を連れて行った人と同じような服装の人が私を掴んでこちらを睨んでいた
藍
藍
⬛︎⬛︎
藍
小学4年生といえど子供の抵抗も虚しく、トラックの荷台の中に投げ込まれ
リヤドアが大きな音をたてて閉まり、真っ暗な世界に包まれた。
藍
藍
藍
真っ暗で、怖くて、幼馴染の姿も見当たらないその場所で
彼女は小さく丸まりながら大きな瞳を濡らし、彼の名前を静かに呼んでいた。
目が覚めるとそこは森の奥だった。
流夏
流夏
身体を起こすと頭が鈍器で殴られたようにどくどくと痛む。
さっきの黒い男に殴られた…?
それでも優しい彼は、藍が泣いていたのを慰めなければと彼女の名前を呼ぶ
流夏
流夏
辺りを見回しても彼女の姿は見当たらず、
風に靡く森や草木が不気味に笑っていて余計恐怖が込み上げる
重たい頭を無理矢理持ち上げて幼馴染の名前を叫ぶが返事はない
流夏
流夏
⬛︎⬛︎
流夏
流夏
近所のおじさん
流夏
近所のおじさん
流夏
近所のおじさん
流夏
そして、そのままおじさんに抱えられて家に連れていかれた俺は
両親に起こったことを全て話し、警察で事情聴取されると
次の日にはニュースや貼り紙などで藍が誘拐されたと大規模に報じられた。
その日から5年経った今でも藍に関することはなにも見つかっていない
もう、少女誘拐事件は少しずつ世間の興味から薄れていった。
1年前には警察から『1つの可能性として藍さんはもう…』と伝えられたこともあったが
それでも俺は今も彼女を懸命に探している
俺は絶対に諦めないという決意と共に。
.˖ ࣪ ⊹♪⭑ ⭑♪⊹ ࣪ ˖.
流夏
スマホの爽やかなアラームと共に目が覚める。
……朝は 憂鬱だ。
昔を、大切な人を守れなかったことを思い出してしまうから
藍がいなくなってからの5年間はまともに寝られた日はなく、
身体のだるさを感じながらゆっくりと起き上がる
流夏
流夏
藍にそっくりなリスのぬいぐるみに挨拶をする
そのリスはミニ机にちょこんと座ったまま、ただ一点を見つめ続けている。
……返事は、ない。
今日は9月3日
俺の誕生日でもあり藍がいなくなった日
あの日俺にくれる予定だったプレゼントは次の日藍のご両親が渡してくれた
袋は想像よりも大きく、封を開けるとふわっと甘い花の匂いに包まれる
中には丁寧に梱包されたケイトウの花束と 手のひらサイズの小さなリスのぬいぐるみがちょこんと座っていた。
ケイトウは俺の誕生日花で、花言葉は色褪せぬ恋。
……俺に、ぴったりだな
胸へこみあげてくる懐かしいような苦しい思い出を否定するように、 烈しく首を振っては両頬を叩く。
流夏
流夏
彼のその瞳には強い覚悟と寂しげな雰囲気を感じさせた。
●●
藍
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
藍
●●
藍
⬛︎⬛︎
藍
……もう、どれくらい経った?
私、まだ生きてる?
あの日、幸せだったはずの日、トラックで誘拐されてから私は暴力される毎日だった
この男の人たちが機嫌が悪くなると、
私に無理難題を押し付けてきたり
暴力を振るって憂さ晴らしをしてきた。
藍
もう何年も前の思い出の人の名前を心の中で呼ぶ
顔も、声も、性格も、なにも憶えていない。
けど
けど、
優しくて暖かかった人ということだけはしっかりと憶えている。
藍
彼女は心身共に
もう
限界だった。
●●
●●
●●
藍
声にもならないかさかさな音が喉から溢れ出る
満足にご飯を貰えず、空腹でいっぱいなお腹を殴られて意識が飛びそうになる。
藍
藍
彼女は人生を眠ろうとする身体に必死に抵抗したが、
それも虚しく意識を手放した
彼女は最期まで
大切な人を想っていた。
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
……誰かの声がする
鈴が鳴るような綺麗な声と涼しくて爽やかな風が私をくすぐる
その心地よさにまた意識を手放そうとする
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
いっっっった……!!
綺麗な声とは裏腹に鈍器で殴られたような痛みが頬に響く
そこではっと意識を取り戻すと穏やかな痺れを感じながら起き上がる
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
目を開き、辺りを見回すと見覚えのない草木に囲まれていて
薄い桃色の小さな桜の甘い香りを涼しげな風が運んできてくれる。
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
目の前にいる少女は、長く綺麗な空色の髪をしていて
星の耳飾りと髪を風に靡かせながら大きな瞳で私を覗き込んでいた。
何より特徴的なのは左右違う色の瞳で
こちらから見て左目はサファイアのような輝きをした青色で、 右目はひまわりを閉じ込めたような美しい黄色の瞳を持っていた。
近くで見ると吸い込まれてしまいそう___
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
ハル
ハル
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
……あれ…?
私の名前、なんだっけ…?
頭をフル回転しようとするが、白い霧が広がっていてうまく思い出せない。
ハル
⬛︎⬛︎
ハル
……とにかく思い出す間までの偽名を考えなくちゃ…
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
ハル
ハル
ハル
⬛︎⬛︎
⬛︎⬛︎
小さい頃は知らない人でもたくさん喋れていたはずなのに
しばらくまともに喋っていなかったせいかぼそぼそしてしまう。
ハル
ハル
⬛︎⬛︎
出会ったばかりなのに家にお邪魔するのは世間的には良くないのかもしれない。
けれど彼女の言う『物騒』という言葉が気になり、 お言葉に甘えて家に上がらせていくことにした。
ハル
ルル
彼女はくしゃっと笑い、ベットに座ると
そのままぱたんとベットに倒れ込む。
ふかふかの布団に埋もれて一息ついては私を綺麗な左右違う色の瞳で捉えるなり、
『ここに座って』というように彼女の隣をぽんぽん叩く。
ルル
ハル
ハル
ハル
ルル
私に『ありがとう』と整った顔で微笑むと 今年で16歳になったばかりで、このマンションに一人暮らしをしていることや
双子の兄がいるなど色々と教えてくれた。
ハル
ハル
ハル
ルル
今…なんて言った?
復活?破壊?
聞いたこともないワードが私の頭を叩く
脳が処理しきれず混乱しているとハルが驚いたような顔で私を見つめる
ハル
ハル
【始まりの物語】
#1
END