主
主
主
主
「お父さん、お母さん、そして夢香。 迷惑をかけることになってしまってごめんなさい でも、あたしにはもうこんな方法しかありません。 高村舞。熊澤有希。古池里央。小宮千尋。 そしてーー 諏訪美琴。 美琴、あんたの名前だけは、できればここに書きたくなかった。 けど...しょうがないよね。 とてつもなくひどいことを、あたしにしたんだから。 あたしは、あんたたちを、決して許さない。 死んでも許さない。 机の上に花が飾ってあったこと。 話しかけても無視され続けたこと。 掃除当番をあたし1人に押し付けたこと。 体育館の用具室に閉じ込められたこと。 そして、今日...トイレでの出来事。 その他色々...やられたことは詳しく、このサイトに書いてあります http:/noichigo.jp/read……. あたしは地獄の猛火に焼かれても、あんたたちを忘れることはありません。 この恨みを、思いを、次の人生にも持っていきます。 さよなら。 折原詩織」
折原 詩織
独り言を呟いて、ブルーの水玉柄の便箋を二回折りたたみ、お揃いの封筒に入れた
「遺書」って書く時、漢字を思い出せなくて携帯で調べた。「いしょ」じゃあ、なんかカッコ悪いし。
ドアの外でお母さんの声がする。
お母さん
折原 詩織
まもなく遠ざかっていく、聞きなれた足音。もうお母さんのうざい小言に悩まされることもなければ、大好きな手づくりコロッケも食べられない。そう思うと、少しだけ寂しくなった。
そのまま椅子に座って、ぼうっとして。家族が寝静まるのを待つ。
壁の時計が11時を回った頃、ひとつ深呼吸して立ち上がった。鍵を外してベランダに出ると、1月の冷たい風があたしを迎える。 寒い。寒すぎる。
でも、寒いって感じるのは、生きている証拠だ。死んでしまえば、何も感じなくなるんだから、、、
遺書を持ったまま外に出ちゃったことに気づき、手すりの前でスリッパを揃えて脱ぐと、封筒をその下に置いて重しにした。
氷みたいに冷たい手すりをよじ登り、鉄柵の外側に足を下ろす。後ろ手でしっかりと冷たい鉄の塊を掴んで、そのまましばらく夜景を眺めていた。
今夜は星ひとつない闇夜。 けれど、地上にはこんな遅い時間なのにいくつものあかりが灯っている。
あ、ひとつ消えた。またひとつ。 またひとつ...。 こんなふうに、あたしの命の日も儚く消えていくのだろうか。
9回建てマンションの最上階。こんなところから飛び降りたら、まず間違いなく死ぬよね。
恐怖は感じなかった。 むしろ、いじめから開放されることが、これでやっと、あいつらに復讐できることが、嬉しくて、たまらなかった。
びゅん、と一際大きな風が吹き、セーラー服の襞スカートをめくりあげる。
あーあ、死ぬ時だっていうのに、制服か。 これじゃあ筋金入りの優等生みたいじゃないの。パジャマで自殺、っていうのもいかにもで、ダサいけど。 せめて、お年玉で買ったピンクのドット柄のワンピース、来ておけばよかった。
今から着替える? ううん、やめとく。ここで死ななきゃ、もう死ねない気がする。
意を決して、手すりから手を離した。 強い風が吹いて、あたしの身体は闇の中で踊り出す。
あれ?意外と長いんだ、落ちてくのってあたしは自殺する人間だから、天国には行けないんだろうな。このまま地の果てまで、限りなく落ちていくはず。
重い衝撃が、全身に走って。痛い、と感じることもなく、あたしの意識はそこで途絶えた。
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