水の中を泳ぐ夢を見た。
海は透き通っていて、水の中でも自由に呼吸をすることができた。
しかし、その代償と言わんばかりに、音が聞こえることはない。
真っ直ぐな沈黙の中、終わりのない海の中を漂い続けていた。
ーーピッピッ
機械音が規則正しく鳴っている。
しかし、その音は海の中のようにまるで響かなかった。
壁越しに音を聞いているような気分だった。
大陽
大陽
きっとこれも、意識を取り戻したばかりだからで、単なる意識障害だと思った。
しかし、次の瞬間、心臓がどきり2回、と嫌な音を立てた。
大陽
大陽
大陽
大陽
気が付いたら、ナースコールのボタンを押していた。
バタバタと忙しない足音が水の中で聞こえる。
大陽
大陽
医師
医師
大陽
大陽
医師
医師
医師
医師
大陽
大陽
医師
大陽
それはもう、心地よい海の中ではなく、冷たく暗い底なしの水槽に沈められたようだった。
その暗闇に光などない。
行く先などない。
しかし、心のどこかは冷静にその出口を探している。
大陽
医師
大陽
大陽
大陽
医師
大陽
医師
大陽
医師
医師
医師
大陽
医師
医師
大陽
医師
大陽
医師
医師
大陽
大陽
医師
医師
医師
医師
大陽
大陽
医師
大陽
大陽
医師
カーテンが開かれる。
隣で眠る彼は、思いのほか穏やかな顔つきだった。
大陽
彼の言葉が頭に響き渡る。
''来世では絶対一緒になろう''
まるで最後のような言葉。
左手の薬指には、指輪が輝いている。
''来世''
そんな言葉は信じない。
信じたくない。
視界が曇っていく。
頬に熱いものが蔦る。
大陽
大陽
大陽
大陽
気が付けば医者はおらず、カーテンで囲まれたこの空間だけが、別世界のように思えた。
全てが運命の定めであって、偶然のような必然だとしたら、こんな日が来ることも決まっていたのだろうか。
その運命の波に乗って泳ぎ続けたとしたら、これからどんな未来が待っているのだろう。
心の矛盾に耐えきれず、涙が溢れる。
メトロノームのようになる心拍を打つ二つの機械音のテンポが、次第に寄り添っていく。
暗い水槽の中に、彼の姿を認めた気がした。
患者
大陽
患者
大陽
患者
大陽
患者
大陽
患者
患者
大陽
患者
大陽
今日もいつものように彼の病室に向かう。
あの日から1か月。
彼の意識はまだ戻らない。
その間、事件は解決し、燐は今、裁判中である。
奴の拳銃は、刑事から奪ったものだったという。
隆は、姿を消していた1か月の間、燐を起訴するための準備をしていたのだと聞いた。
長かった1か月の、その後の一瞬の幸せ。
その一瞬はさも簡単にその長い時を洗い流し、残酷な一瞬はそれすらも奪っていく。
永い悲しみの先に光が待っているなど、ただの綺麗事だ。
悲しみの後に待っているのは、必ずしも後悔と罪悪感だ。
しかし、光とはいかずも小さな幸せは必ず来る。
僕らはその幸せのために悲しみを乗り越え、苦しみ、耐えるのかもしれない。
そんなことを、治療室に向かう白い廊下で考えていた。
空気の音。
その音で目が覚めた。
見上げた空は真っ白。
ふと、手に温かい何かを感じた。
お腹の辺りに重みもある。
ぼやける視界を掻き分け、そちらに目をやる。
そこには、茶髪の若い男が眠っている。
大陽だ。
隆
声を出そうとしても上手くできない。
ここは天国なのか。
そうではないことに、微かに香る消毒液の匂いで気がつく。
隆
麻痺していた感覚が少しずつ戻り始める。
力の入らない指で、なんとか彼の手を握り返す。
大陽
大陽
彼が起き上がる。
視界は未だぼやけているが、彼がどんな表情をしているのかは予想がつく。
大陽
大陽
大陽
隆
大陽
大陽
声が震えている。
そして、彼の温かい手を握る。
隆
大陽
大陽
彼は両手で手を握り、そこに頬をあてる。
鼻をすすって泣いている。
本来ならば自分が拭ってやらねばならないその涙を、そうできないのが悔しかった。
大陽
大陽
大陽
隆
大陽
大陽
大陽
大陽
隆
大陽
そう言って彼は顔をくしゃっとして笑った。
その安心した笑顔が輝いていたのか、涙が光っていたのか、いずれもなのかは、覚えていない。
しかしその姿が美しかったのは、鮮明に記憶されている。
深い悲しみの後にやって来たのは、大きな後悔とそこに見えた小さな光。
後悔の階段を一段ずつ踏みしめ、光へと向かっていく。
その道がどれだけ長くても、暗くても、彼と一緒ならそれすらも幸せだと思う。
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
主
コメント
1件
タカちゃん目覚まして、良かった😭 もう最終回か、、、 楽しみに待ってます🥲