『幸せ。』

ガチャっ

ころんが目を覚まさなくなって、一週間が経とうとしていた。

突然倒れて、病院に運ばれて、そのままピクリとも動かない。

お医者様が、原因は過度な疲労とストレスって言ってたな。

笑って我慢してちゃ、誰も気づかないっていうのに、一人で抱え込んでさぁ。

さとみくんだ〜！✨

お久しぶりです!!(｡>ω<｡)

生放送嬉しい♡

決めてなかったんですか笑笑

さとみくんらしい…w w

適当w w

質問かぁ…好きなタイプはなんですか？？

異性の好きなタイプ！！

どういう人を好きになりますか！！

私めっちゃ元気です！！！

三年間一度も風邪ひきませんでした！

アーーーーーッ！！！！

メンバーの中で言うと誰ですか？w

学校でよくうるさいって言われます！！

アーーーーーッ！！！！

分かります！！そこが良いところですよね！！

さところだぁぁ✨

ころちゃんといえば、最近体調崩してるんですか？？

前回の生放送いませんでしたよね…

インフルエンザですか！！大変ですね…！！

冷水シャワーで悪化w w

待ってます！！

私が看病したい…

学生時代、どれくらいチョコもらいました？

メンバーと同居するなら誰が良いですか？

おつさと！！

ありがとうございました✨楽しかったです！！

プルルルルっ

ピッ

ブツッ

タッタッタッ

ガラガラガラッ！！

びくりと肩を揺らして、こちらを振り返る。

その瞳はしっかりと開かれていて、ふわふわの髪の毛が少し揺れた。

ギュッ

ぎゅ、ときつく抱きしめながら、本当によかった、と安堵した。

もう一度目を覚ましてくれてよかった。

もう一度話せてよかった。

あんな何気ない会話が、最後の会話にならなくてよかった。

二人の会話が、遠くで行われているかのような気分。

ころんが、俺の事を赤の他人だと言った。

気持ち悪い、と…

ドンっ！！

軽蔑するような顔。

いや、違うな、怯えてるのか？

そりゃそうだ、赤の他人が突然泣きついてきたら、怖くもなるだろう。

でもさぁ、ころん。

俺、もう十分待ったろ？

毎日、俺がお前のお見舞いに来てたんだよ。

花、持ってきてさ。

お前の動画のストックも、毎日投稿してた。

絶対、また隣に並べるって信じてたから。

…なのに、なのにさぁ。

こんな仕打ち、ないだろ。

違う。

なぁに、って優しく笑うんだよ、ころんは。

そんな尖った声で話さないし。

すとぷりは、俺も含めて6人なんだけどな。

ころんの記憶の中に、俺はいないのか。

少し下がった眉に、なんだか懐かしさを覚える。

あぁ、そうだ。

ころんは、俺が泣くといつも決まって困った顔をするんだ。

優しい奴だから、心配なんだろうなぁ。

その顔が、俺は少し好きだった。

ムスッとして俯く顔。

それも、ちょっとお気に入りだった。

俺が他のメンバーと遅くまで飲んできた時とか、よくしてたけどさ。

明らかに嫉妬してて、可愛かったし。

頭撫でてやったらすぐ機嫌直すところも、なんか犬みたいで可愛かったな。

ガラガラガラッ

ガラガラガラッ

コンコンッ

ガチャっ

悲しそうな瞳。

人のためにそんな顔が出来るなんて、やっぱり莉犬くんは優しいなぁ。

それに比べて、僕は？

僕は、何をしただろう。

好きって言われたら、うるさいって返して。

特に恋人らしく甘えることもせず。

さとみくんが何でもかんでもしてくれるのをいいことに、自分からは何も行動しようとしなかった。

僕が隣にいて、さとみくんは何が幸せだったのかな。

周りからの視線ばっかり気にして、ろくに外で会うこともしなかった。

家デートばっかりで、でも、ずっとその関係が続いたとしても結婚なんて出来ない。

子供もつくれないから、親不孝って言われるかも。

嫌だなぁ。

あんなに良い人なのに、僕に縛られて、ちっちゃい幸せをさも人生最大の幸福のように感じている。

それが、どうしようもなく嫌で、耐えられなかった。

ぎゅってされる温かさも、そばにいてくれる嬉しさも、ドキドキして落ち着かない気持ちも。

僕は、十分貰ったからさ。

もう、解放するべきだ。

僕が与えられるものなんて、結局それくらいしかないんだから。

グイッ

ドサッ

じゃあ絶対、離してやんねぇ。

とある、なんでもない日の、ごく普通の病院での話。

でも、二人にとっては二度と忘れられない、幸せな日になった。

Fin