お風呂場で1回、リビングで1回、ジョングクのベッドで2回。 カウントはジョングクがイッた回数であって、俺はこれの倍以上。 正確に何回かなんて数えていない。
時間という概念とか人間がどうであるべきかとか、そういう小難しくて厄介な物を全て取っ払って、ただ動物的本能のまま身体を重ねて、疲れ果てて泥のように眠った。
勿論、俺もジョングクも何一つ身につけないまま。 だから目が覚めて隣を見た時、うつ伏せのジョングクの綺麗な形のお尻が目に入って静かに布団を掛けた。
自室に寄って適当な下着だけを着てリビングに向かった。
暗いけど今何時なんだろう。 そう思って放置したセリーヌのバッグから携帯を取り出した。
午前0時過ぎ。 それから着信あり。
ジミン
不在着信
携帯を操作する手に焦りが出る。 着信は数時間前だ。 一瞬だか迷って"発信"をタップする。
前にもこんな事があったっけ。 あの時はジミンが寝てて寝惚けた声で出てそれでーーー
ジミン
ジミンの声に思考を止めた。 やっぱり、電話だと少し鼻にかかった声に聞こえる。
ホソク
"ごめん"などと言う事なのかどうなのか。 今はそれより大事な事があるから構わない。
ジミン
ジミン
なのに次に聞こえた言葉は想像してなかったもので、返す言葉に迷って止まる
ジミン
ジミン
ジミン
饒舌で焦りにも似た物を声に乗せるジミンに、俺の胸は安易に高鳴る。 ジミンに胸の奥を鷲掴みにされてるみたいに。
セリーヌを投げつけようとしたのに。 ただの面倒なやつだったのに。 そんな俺にジミンがごめんって。
携帯を持っていない方の手は気付いたら自分の心臓の位置を押さえていた。 好きが溢れて零れて苦しい。
ジミン
その声に名前を呼ばれただけでモノが硬くなる。
ジミン
電話の向こう側で騒がしい音がして切れた。 俺も慌ただしく自室に向かった。 放置されていたセリーヌのバッグをしっかり手にして。
どうしよう。 どうしよう。 頭の中にはそれだけが反芻しては消えて、部屋の中をうろうろと彷徨い歩く。
行きたい、行く。 それはそうなんだけど、しっかり覚醒しているし意識もハッキリしているのに何故か上手く行動に移せない。
次は何だっけ、髪を整えて、服を着替えて。 いや、まずは顔を洗って歯を磨いて、でも一度軽くシャワーを浴びるくらいしないと…
そうやっていつもやってるはずの手順が散らばって収拾がつかないのだ。 でも何とかシャワーを浴びて髪は仕方なく適当にセットした。 顔も洗ったし歯も磨いた。
慌ててるのは分かってる。 でもジミンが来るから待たせちゃいけないという、その気持ちだけで慌ててる訳じゃない。
ジョングクがいて、そのジョングクと散々情事にふけ込んだ後でジミンに会おうとしている事。 3人がここで鉢合わせする事。 別に俺を取り合うとか、仲が拗れるとか、そんな事は思ってない。 そうじゃなくてーーー
ピンポーン
インターホンが鳴った。 なんとか着替えが丁度終わった直後に。
足音をなるべく立たずに、でもそれなりに急いでインターホンを確認するべくリビングに向かった。 モニターに赤い髪を丁度かき上げたところのジミンが映っていた。
ホソク
無言で手をヒラヒラと振っただけのジミンにそう言って、招き入れるボタンを押す。 自分のどの部分かは分からないが、そわそわとする。
慌てているのと、落ち着かないのと、気が気じゃなくて。
ピンポーン
2回目のインターホンが鳴って背筋に力が入った。 来た、ジミンが。
片手にはセリーヌのバッグ。 顔も服も髪も適当だけど、もう仕方がない。 玄関に向かう足が急ぐ、でもどこか躊躇している。
ドアノブを捻ってそっと開けると、そこには勿論ジミンがいて。
ジミン
なんて、目をよくよく細めて笑うと俺の顔を温かい両手で包んだ。 その両手もその笑顔も俺の心をギュッと掴んで離すことはしてくれない。 俺の勝手な思い込みだけど、俺にとってはそうなのだ。
ジミンの両手の上に同じ様に手を重ねると何も言ってないのに、軽いキスがやって来て。 甘くて危ういその唇にまた心が色めき出す。
ホソク
⁇
俺の名前を口にしたのはジミン、じゃなかった。 俺の口を塞いでいたのはジミンだったからで、じゃあ誰かって。
グク
少し離れた所の壁に凭れていたジョングクだ。 最後に見た時は何も着てなかったのに、上半身はさておき下半身はスウェット姿で呟いた。
ジョングクはそう呟いたけれど、そこに怒ってるとか不機嫌とかは感じ取れない。 表情が曇ったりもしていない。
グク
首を傾げたジョングクのその質問は俺をまたソワソワとさせた。 どうしたらいいのか分からずジミンを見ると
ジミン
同じような事を聞かれてしまった。
行くか、行かないか。 それは俺以外の誰も決める事はなくて、誰が決められる事でもないらしい。 俺が決める事で、俺だけに委ねられた事。
俺が好きなのはジミンだ。 それは変わらない、行く。 でもジョングクは俺にとって必要だ。 それも変わらない、行かない。
どうして俺はこんな埒のあかない状況に陥ってしまったんだろう。 いや、陥ったんじゃない。 自分から望んでこうなったのだ。
どうする。 ジミンかジョングクか。
どちらの手を取ってもーーー
次回 最終回
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