テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
主
主
主
夜の街に、冷たい風が吹いていた。
えとは黒い外套の裾を翻しながら、黙々と歩く。手には漆黒の鎌。
彼女の役目はただ一つ——寿命を迎えた魂を刈り取ること。
それだけが死神としての存在理由であり、感情を交える余地など本来はなかった。
しかし、その夜。えとの視線の先に、思いがけない光が降り立つ。
えと
闇夜を切り裂くように舞い降りてきたのは、漆黒の髪に赤いメッシュを差した少年だった。
鮮やかな赤の瞳が、夜の闇を突き破るように輝いている。
ゆあん
無邪気な声に、えとは眉をひそめた。
死神に向かって声をかけてくる天使など、普通は存在しない。
えと
冷たく言い放つえとに、少年はにやりと笑った。
ゆあん
えと
オレンジ色の髪が月明かりに照らされ、ピンクとも赤とも言えない不思議な色を宿す瞳が揺れる。
つい名乗ってしまった自分に、えとは小さく舌打ちをした。
ゆあん
ゆあんは子犬のような瞳でじっと見つめてくる。
その純粋さに、えとは不覚にも心を乱された。
死神にとって、天使は正反対の存在。近づいてはいけない相手。それなのに——。
えと
えとは背を向け、鎌を振り下ろした。
薄い光を帯びた魂が空へと昇っていく。
仕事を終えた瞬間、ふと横を見ると、まだそこにゆあんがいた。
ゆあん
その言葉に、えとは胸の奥がひやりとした。
自分の心を覗かれたようで、逃げ出したくなる。
えと
そう吐き捨て、えとは闇の中へと姿を消した。
けれど、不思議なことに。
彼女の耳にはまだ、少年の明るい声が残響のように響いていた。