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◯◯者シリーズ

9 - 脅迫者

♥

69

2020年03月07日

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報告する

溝口忠男

俺はあんたの秘密を握っているんだよ、松永さん

溝口忠男

あんたが同僚の忠告も聞かず酔っ払って車を運転し

溝口忠男

通行人を跳ね飛ばした挙句、そのまま逃げたというネタをね

溝口忠男

もしこのことが会社内部に知れ渡れば

溝口忠男

折角の係長昇格のチャンスもフイになっちまうだろうなぁ

中堅家電メーカーに勤務する松永栄治は昼休み、行きつけの食堂での昼食中、

突然現れた溝口と名乗る男から発せられた言葉に愕然とした。

松永栄治

…どうしたらいいんだ?

溝口忠男

俺の要求はただ一つ

松永栄治

松永栄治

金か

溝口忠男

1千万で手を打とう

松永栄治

いっ、1千万!?

松永栄治

そんな大金、俺にはとても整えられない

溝口忠男

そんな簡単に決断してもいいのか?

溝口忠男

俺が警察に駆け込んで話してもいいんだぜ

溝口忠男

そしたらあんたは責任を問われ

溝口忠男

係長昇格の話も無かったことになる

溝口忠男

…いや、会社自体辞めざるを得なくなるかもね

松永にとって痛いところを、溝口は徹底的に突いてくる。

1千万円…とてもそんな大金は…。

…いや、待てよ。

松永栄治

松永栄治

1千万円払えば秘密を守ってくれるんだな?

溝口忠男

守るとも

溝口忠男

俺は約束を守る質だから安心しな

松永栄治

心配事はまだある

松永栄治

こういうのは永遠に脅迫が続くのがお決まりのパターンだが…

溝口忠男

1千万頂いたら秘密は守っておたくの前から消えるよ

松永栄治

分かった、しっかり用意する

そういうと、溝口は満足げに頷いて水だけ飲むと食堂から出て行った。

竹村行夫

もしもし

竹村行夫さんだね?

竹村行夫

そうですが、どちら様ですか?

名乗る必要はない

私は君を脅迫するために電話をしたんだ

竹村行夫

きょ、脅迫?!

随分と驚いているようだが

心当たりはあるんじゃないのかい?

竹村行夫

そ、そんなことは…

児島朱美、Rホテル、といえば分かるだろう?

竹村はドキッとした。

次期係長候補でもあるあんたがキャバクラの女をホテルに無理矢理連れ出し

抵抗する彼女を暴行し負傷させたなんてスキャンダルは

後々、面倒ごとに発展するんじゃないのかね?

彼女は結局、泣き寝入りしたみたいだが

俺には全てお見通しなんだよ

竹村行夫

証拠がなけりゃそんなもの…

残念、ちゃんとあるんだよ

ファックスを送った、面白いのが写ってるぞ

数分後。

竹村行夫

…確認した

よく撮れてるだろう?

抵抗する児島朱美を強引にホテルに誘う君の姿がね

竹村行夫

…お前、誰なんだ?

名乗る必要はないと言ったはずだ

いいか、よく聞けよ

俺の要求額は1千万円だ

1千万支払えば黙っててやろう

竹村行夫

そんな大金払えるわけがないだろ

ウソは困るね(笑)

君は竹村財閥の御曹司だろう?

そんな君が平凡な中堅家電メーカーの冴えないサラリーマンを選ぶなんて

我々金に飢えた者にとっては嫌味以外の何物でもないんだ

竹村行夫

何処でどう働こうが俺の勝手じゃないか!

そう、おたくの自由だ

本題に戻るが、俺は1千万円が欲しいんだ

実家が資産家の君にとっては端金だろう

竹村行夫

竹村行夫

分かった

竹村行夫

1千万、指示通り揃えて渡そう

それでいい

3日後の午前1時、溝口の指示した場所に松永は赴いた。

廃車や壊れた家電機器などが大量に放置された廃品置き場に、溝口は待ち構えていた。

溝口忠男

金は?

松永栄治

ここに入ってる

松永は抱えていたアタッシュケースをポンと叩いて見せた。

溝口が近寄り、アタッシュケースを受け取った。

中を開き、1万円札の束を数え、間違いなく1千万あると確認した。

溝口忠男

無事、交渉は成立したみたいだな

松永栄治

なにが交渉だ、立派な脅迫じゃないか

松永が不満げに言うと、溝口が不敵な笑い声を上げた。

溝口忠男

あんたも歴とした脅迫者だろう

松永栄治

なんのことだ?

溝口忠男

とぼけても無駄だよ

溝口忠男

この金、おたくと同僚の竹村って男を強請って得たんだろう

松永栄治

なっ…!

溝口忠男

そう驚きなさんな(笑)

溝口忠男

俺は狙った獲物の動向は徹底的に監視してるんだ

溝口忠男

昨夜、竹村の携帯電話に脅迫の電話をしたのも知っている

溝口忠男

そして、あんたが竹村を蹴落とそうとした目的もね

溝口忠男

上を目指す者同士、張り合うのは社会じゃ日常茶飯事だ

松永栄治

松永栄治

あいつは大人しく実家の仕事を継いでればよかったんだ

松永栄治

単に庶民的な生活に憧れてうちに来たばかりに

松永栄治

俺は係長昇格のことであんなボンボンと争うハメになっちまった

松永栄治

俺を差し置いて自分から係長昇進を志願しやがって

松永栄治

年下のくせに…俺の方が勤務歴が長いんだよ

溝口忠男

ボンボンらしい身勝手さだな

松永栄治

俺はとにかく、あいつといちいち争う必要もなく

松永栄治

簡単に係長候補から外す方法を考え続けた

溝口忠男

で、決定的な弱味を握ったわけか

松永栄治

あぁ、そうだ

松永栄治

まさかあそこまで女癖が悪いとは思わなかったが

松永栄治

おかげで次期係長候補から外すどころか

松永栄治

今の会社から追い出せるだけの材料が出来た

松永栄治

今回、脅迫目的で使うことになるとは予想もしてなかったがね

溝口忠男

あんたにとってはいい気分だろう

溝口忠男

やつの女癖の悪さを捉えた写真、つまり弱味を握った上

溝口忠男

金銭的にも精神的にも負担を与えたんだからな

松永栄治

そんなことより、本当に脅迫はこれっきりにしてくれるんだろうな?

溝口忠男

言っただろう

溝口忠男

俺は約束を守る男だ

松永栄治

どうだか(笑)

松永栄治

コロッと気が変わらないとも限らない

溝口忠男

疑り深いやつだな

溝口忠男

それならやつの脅迫のタネに使った写真を自宅にでも大事に仕舞っておけ

松永栄治

溝口忠男

つまり、俺がまた脅したときは

溝口忠男

もう一度竹村を強請って金を用意しとけって意味だよ(笑)

溝口の言葉が本気なのか冗談なのか松永には分からなかったが、

持ち続けていても仕方がないと思い、最終的に自宅のタンスへ納めた。

次期係長の内示が発表される前日、松永は社内の喫煙所で煙草を吹かしていた。

そこへ、同じく喫煙者の竹村が姿を現した。

2人だけで、他は誰もいない。

お互い無言で煙を吐き出していたが、少しして竹村が口を開いた。

竹村行夫

病気退職した前任者は誰が次の係長に相応しいと思うでしょう?

松永栄治

俺が知るかよ

竹村行夫

自分だと思ってるって認めればいいのに

松永栄治

それはお前も同じだろうが

竹村行夫

竹村行夫

ハッキリ申し上げましょう

竹村行夫

僕に次期係長の椅子を譲って下さい

松永栄治

イヤだと言ったら?

竹村行夫

なにもかも上司に報告します

松永栄治

なにを報告するんだ?

竹村行夫

松永さんが僕を脅迫したことです

松永は一瞬、煙草を落としそうになったが、すぐ気を取り直して苦笑した。

松永栄治

なにをバカげたことを言ってるんだ(笑)

松永栄治

俺がいつ君を脅迫したんだ?

竹村行夫

2日前の晩です

竹村行夫

受話器にハンカチを被せたような声でしたが

竹村行夫

あれ、松永さんでしょう?

今度は煙草を落としてしまった。

慌てて煙草を拾い灰皿にすり潰しながら松永は思った。

松永栄治

(どうしてそれを?)

竹村行夫

図星ですか?

松永栄治

手が滑っただけだ

竹村行夫

言っておきますがとぼけても無駄ですよ

竹村行夫

僕はちゃんと松永さんがしたという証拠を握っているんですから

というと、竹村はスーツのポケットからある物を取り出した。

小型のボイスレコーダーだ。

訝しげに見る松永をよそに、スイッチを入れる。

松永栄治

松永の動悸が激しくなり、顔色がどんどん悪くなっていった。

聞こえてきたのは松永と溝口の取引後の会話だった。

竹村がレコーダーをポケットに仕舞ったとき、松永は目を泳がせながら戸惑っていた。

竹村行夫

これにはハッキリと松永さんが僕を脅迫したことを含め

竹村行夫

あくまで僕を次期係長の候補から外そうと躍起になるのが記録されています

松永栄治

どうやってそんな物を手に入れたんだ…?

竹村行夫

簡単なことです

竹村行夫

僕が雇った溝口忠男がこっそり録音していたんですよ

松永栄治

雇った?

竹村行夫

えぇ、溝口忠男ですが

竹村行夫

彼は僕が雇った私立探偵なんですよ

松永栄治

なにっ?!

竹村行夫

僕はあなたの人間像を徹底的に分析した上で

竹村行夫

今回の計画を練りました

竹村行夫

僕が係長昇格を狙っているとあなたが知った場合

竹村行夫

まず間違いなく僕を蹴落とすための弱味を探ろうとすると読みました

竹村行夫

案の定、僕がキャバ嬢の児島朱美を強引にホテルに連れ出し

竹村行夫

暴行を加えて負傷させてしまったところをカメラに収めていた

竹村行夫

この時点から、松永さんは僕と溝口の罠にハマっていたんですよ

松永栄治

クソッタレがっ

歯をむき出し怒る松永をよそに、竹村が淡々と語る。

竹村行夫

女癖が悪いのは認めましょう

竹村行夫

しかし、それ自体は別に犯罪ではありません

竹村行夫

真の犯罪は松永さん、あなたが起こした人身事故でしょう

眉間に皺を寄せる松永の額から、小粒の汗が滴り落ちた。

竹村行夫

僕は溝口に依頼しました

竹村行夫

「松永さんに1千万円を要求してくれ」と

竹村行夫

どうしてかというと、そんな大金を持っていない松永さんは必ず

竹村行夫

朱美とのいざこざ現場を捉えた写真を利用して

竹村行夫

僕を強請ってくると予測していたからです

松永栄治

………

竹村行夫

そして読み通り、あなたは溝口に要求された1千万円を手に入れるため

竹村行夫

実家が裕福な財閥生まれの僕を脅迫する立場に回った

竹村行夫

…さて、これが欲しければ僕に係長の座を譲ってくれますね?

だが、松永の返事は小さな笑い声だった。

松永栄治

俺はお前に譲るつもりはない

竹村行夫

譲らないとレコーダーの音声を公表しますよ

松永栄治

いや、そんなことは出来ない

松永栄治

もしそれを公表すれば

松永栄治

お前の友達の溝口も警察に売るわけになるんだからな

竹村行夫

………

松永栄治

お前と溝口は示し合わせて音声を録画したらしいが

松永栄治

俺の脅迫どころか溝口自身も脅迫したという事実も残されてある

松永栄治

お前に仲間を見捨てる勇気がない限り無理だ

竹村行夫

竹村行夫

松永さん、誰がこれだけだといいました

松永栄治

なに?

竹村行夫

実はこれ以外にももう一つ、音声の記録を残してあるんですよ

松永はハッとした。

松永栄治

まさか…俺の脅迫電話か

竹村行夫

ご明察

松永栄治

で、でも声はハンカチを被せて誤魔化したし

松永栄治

名前も名乗っていない

松永栄治

俺が電話の主だという決め手はないはずだ

竹村行夫

それがあるんですよ

竹村行夫

僕と朱美のスキャンダルシーンを写した写真を思い出して下さい

竹村行夫

僕に掛けられた脅迫電話にはあの写真が言及されています

竹村行夫

つまり、脅迫者はその写真を所持している人間

竹村行夫

もし、松永さんの自宅にその写真が発見されたら?

松永は、溝口が最後に放った言葉を思い出して愕然とした。

「やつの脅迫のタネに使った写真を自宅にでも大事に仕舞っておけ」

竹村の携帯が鳴り、数秒のやり取りがあった。

竹村行夫

溝口からです

竹村行夫

スキャンダル写真を使った脅迫者の家らしい民家に警察と一緒に着いたそうです

竹村行夫

さらには人身事故を起こして逃げた可能性のある男の、ね

言うまでもなく、松永栄治の自宅前なのだろう。

竹村行夫

主の松永さんに捜索の許可を得たいらしいですがどうしますか?

竹村行夫

拒否すればそれなりに怪しまれると僕は思いますがねぇ

松永は、もうどう答えるべきか腹をくくっていた。

松永栄治

君に係長の椅子を譲るよ

竹村行夫

辞退するんですね?

松永栄治

…あぁ

力なく松永が言うと、竹村が電話を警察に代わるよう溝口に指示した。

一言二言話すと、竹村はおもむろに携帯を懐に納めた。

竹村行夫

警察には僕の見当違いだったと伝えておきましたよ

竹村行夫

あ、それから僕から奪った1千万ですが

竹村行夫

溝口が僕の手元に返してくれましたよ

松永栄治

………

竹村行夫

溝口は強面の一見がさつな印象を受けますが

竹村行夫

意外と律儀な男でしてね

松永には口を開く気力も無かった。

竹村行夫

それにしても松永さん

竹村行夫

脅迫を受けた人間が別の人間を脅迫する立場になるなんて

竹村行夫

中々面白いとは思いませんか?

竹村は、まるで自分の立案した計画に酔いしれるかのように、

愉快げに笑っていた。

2020.03.07 作

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