木造の集合住宅「R荘」に1ヶ月前、織田真人という男が越してきた。
家主の森村によると大学教授らしいが、
織田の風貌は教授というよりインテリヤクザを彷彿とさせ、
全身から他人を近寄らせないオーラを漂わせていた。
結果、住民たちはなるべく関わるのを避けるようになった。
それは同じ「R荘」に住む岩佐浩一も例外ではなかった。
岩佐は常に無愛想で人を威嚇するような目付きの織田に辟易していた。
不運なことに彼の隣に越してきたが、岩佐はなるべく関わるのを避けた。
が、ある日、織田の方から岩佐の前に現れたのだ。
ドアをノックする音が聞こえ岩佐が出ると、怖い顔をした織田が立っていた。
岩佐は思わずぎょっとした。
岩佐浩一
織田真人
織田真人
岩佐浩一
織田真人
岩佐浩一
岩佐浩一
岩佐浩一
岩佐が恐縮そうに頭を掻くと、織田はなおも不機嫌そうな顔を浮かべたまま、
織田真人
織田真人
織田真人
織田真人
岩佐浩一
岩佐浩一
織田真人
岩佐浩一
織田真人
織田は人差し指で岩佐を小突きながら、
織田真人
織田真人
織田真人
織田真人
そう言うと、織田は岩佐の目の前で勢いよくドアを閉めた。
岩佐浩一
岩佐浩一
岩佐浩一
岩佐はドアに向かって小声で毒付いた。
後日、家主の森村と右隣に住む三木晴美にそのことを話すと、真っ先に晴美が、
三木晴美
三木晴美
岩佐浩一
岩佐浩一
三木晴美
三木晴美
森村久男
森村の冗談にも岩佐は真っ青になった。
岩佐浩一
岩佐浩一
三木晴美
森村久男
森村久男
温厚な森村の言葉に、岩佐と晴美は不本意だが「そうですね」と頷いた。
しかし、織田の挙動は日に日に荒れるばかりだった。
ドアを強く閉める、壁を蹴る、怒号を上げる、暴言を吐く、部屋で暴れる、など。
住民の一部は織田の挙動に恐怖を覚え、
アパートを出て行ってしまう始末だった。
森村久男
隣同士の岩佐を気遣いに現れた家主の森村の顔はげっそりとしていた。
岩佐は不憫に思えてならなかった。
岩佐浩一
岩佐浩一
森村久男
森村久男
森村は深刻そうに深い溜め息を吐いた。
岩佐も平気を装っていたが、内心では織田の挙動にストレスを抱いていた。
織田の左隣に住んでいた住民も音を上げ、つい先日「R荘」を出て行ってしまった。
岩佐浩一
そんな気持ちもよそに、織田の暴走は止む気配がなかった。
仕事の疲労を抱えた岩佐のストレスも次第に重なり、
いつしか織田に対する憎悪が岩佐の頭の中に渦巻き始めていた。
そして、ある日の午前3時過ぎ。
岩佐はザーッという音で目を覚ました。
放送休止中のテレビ画面に流れるスノーノイズから発せられた音だった。
どうやらまた、テレビを点けたまま眠ってしまったらしい。
岩佐は織田の怖い顔を思い出し、テレビを消そうとリモコンに手を伸ばした。
岩佐浩一
岩佐浩一
ふと、岩佐は疑問を抱いた。
岩佐浩一
岩佐が不審に思い、ザーザーと耳障りな音を立てる画面を見やった。
すると、途端に画面が真っ暗になり、その下から文字が上昇してきた。
岩佐浩一
「織田真人」
まるでスタッフロールのように織田の名前が下から上へと流れて行った。
岩佐がテレビを消すのも忘れてポカンと画面に見入っていると、
今度は別の言葉が流れてきた。
「おやすみなさい」
突然、映像は元の白いブツブツが散らばる砂嵐に切り替わった。
そこで急に眠気に襲われ、岩佐は視界がボヤけ始めた。
すぐ目の前の壁の奥から悲痛な叫び声が聞こえた気がしたが、
岩佐はそのまま気を失うように深い眠りに落ちた。
翌日、岩佐は激しいノックの音で目を覚ました。
寝惚け眼のままドアを開けると、三木晴美が青い顔で立っていた。
三木晴美
岩佐浩一
晴美は息を弾ませながら、
三木晴美
晴美は興奮のあまり「さん」を付けるのも忘れていた。
岩佐浩一
岩佐浩一
三木晴美
三木晴美
三木晴美
岩佐はふと深夜の出来事を思い出し、部屋のテレビを振り返った。
岩佐は自分がテレビを消す前に突然深い眠りに落ちたのを辛うじて覚えていた。
テレビでは、アナウンサーが朝のニュースを読み上げていた。
その後の警察の捜査により、織田真人殺害の犯人として、
家主の森村久男が逮捕された。
森村は織田のせいで住民が「R荘」から離れて行ったことで精神的に疲弊していた。
いつしか傍若無人な織田に対する憎悪が増幅し、それが殺意に変わったと自供した。
森村の憎悪がいかに大きかったかは、胸に出来た刺し傷の数で容易に想像出来た。
今度の事件で岩佐は大きなショックを受けたが、同時にあの出来事に恐怖も抱いた。
森村が織田を殺害した時刻が、
岩佐が不思議な砂嵐と織田の名前をテレビで見た直後だったからだった。
2020.04.12 作