題名未定の物語

カチ...パキ...と、

何かを割る音が頭に響く

その音が、彼の本当の記憶を呼び起こすのだ

誰かが何かを叫んでいる

それはとある小さな子供に向けての言葉であった

彼は何も思わない

ギャンブルに依存し金に狂った者の言葉をまるで聞こうとしない

大人は癇癪を起こした子供のように彼を殴り付ける

だがこれにも彼は何も思わない

安直に言うと、彼の感情は故障していた

普通の子なら泣きながら許しを乞うだろう

だが彼は

普通とは何か知らない

彼にとってのおかしいは“フツウ”である

日に日に増えていく『人の証』

何故『人の証』かだって？

それは生きている者にしか付かず、彼にとっては普通だったからだ

だがある日、彼から『人の証』が消えた

彼が目を覚ましたのは薄暗い病室の中だった

つんと鼻を刺す薬品の匂いに自分の腕から繋がった点滴の管、

今彼に注がれている液体は奇妙な色をしておりとてもじゃ無いが良いものとは思えない

大人が言うには彼は1000年に1度の神童だそうな

彼は心底どうでも良かった

神童も、自分の力も

全て

彼は大きくなるまで研究所で暮らした

だが彼には1人の時間がなかった

周りの人にとっては普通なのだろう

だが彼にとっては異常であった

そして

彼は自由を求め逃げ出した

だが、銃声が聞こえ彼の意識は途絶えた

これは今の彼には存在しない記憶である