コメント
37件
初コメ、フォロー、ブクマ失礼しますm(*_ _)m どの作品も本当に大好きです!ありがとうございます<(_ _*)>
好きです…まじで… 家に親いないことをいいことに叫びまくってました、ありがとうございます 場面場面の表現はもちろんのこと人物の言葉一つ一つにもその場面を想像させたり想いを感じたりできてすごく素敵です🥲🥲 黒さん、青くんそれぞれの想いの移り変わりが細かく表現されていて、そんなところも好きです… 桃くんの"会いたくなった。"(間違っていたらすみません💦)というところがすごく心臓に刺さりました…w
素敵すぎませんかっ!? 『嘘ついてた』この嘘も、悪気のあったものではなくて。自分の為でも、青さんのためでもある素敵で、悲しい嘘… “花屋でバイトしてる友達”の白さんもやっぱり応援してて、さり気なく全員繋がってるんですね… 青さんが得意な英語で、“伝わらない”想いを伝えてるのが素敵です。ふたりとも、他の人に教えてもらって真実に気づく…少しのすれ違いもあって、どうなってしまうのかどきどきしてました…!
注意!! ・地雷さんは今すぐUターン! ・青黒、白水、赤桃要素あり ・nmmn ・ご本人様方とは何も関係のないフィクションです ・口調&キャラ崩壊あり ・通報❌
当たり前の日常は案外、一瞬にして崩れてしまうらしい。
激しいブレーキ音が耳をつんざく中、俺の目の前には自転車が迫っていた。
その場から逃げる余裕も無いのに、自転車に乗る人の焦りと恐怖が滲んだ表情だけは鮮明に見えた。
ああ、これは駄目だ。
頭の中でそんなことを考えた次の瞬間、体を衝撃が襲った。
青
青
窓の外を眺めながらメロディを奏でていれば、背後から聞こえてきた声にギクリと肩を揺らした。
青
そう言って去っていく看護師さんの背中を見送り、はぁと溜息を一つ。
この病院の看護師さんや先生が良い人達なのは知っている。今の注意が負の感情から来たものではなく仕事を全うしているからこその発言だということも分かっているのだが、それでもこの退屈な生活はどうしようもなかった。好きな歌を歌うくらい許して欲しいものだ。
なんて心の中で小さな不満を垂れ流して、窓の外を眺める。視界はいつも変わらない。この白い箱のような病室も、変わり映えしない外の景色も。
この間、事故に遭った。ぼーっと歩いていた俺も、イヤホンをつけながら自転車を漕いでいた向こうも悪い。双方に非があった。
見事に右脚を骨折した俺は、特に後遺症が残ることはないらしいが、まだリハビリ期間に入れる程でもないため、毎日ベッドから動けない生活を余儀なくされている。
そう、暇なのだ。とてつもなく暇。
だからこうやって時折看護師さん達の目を盗んで、好きな歌を口ずさんでいるのだが。それすら取り上げられるとなると、いよいよ何をして良いのか分からない。
退屈な曇り空に、俺は再度溜息を吐き出した。
とある昼下がり。今日も今日とて退屈な時間を過ごす。
青
事故に遭う前、よく聞いていたお気に入りの曲を口ずさむ。前回も怒られたのに学ばないなって?知らん。
サビも良いけどこの曲はAメロからいいんだよな。ラスサビで転調してるのも良い。
ベッドの上、呑気にそんなことを考える平凡な俺の日常に風が吹いたのは、その時だった。
黒
青
突然の声に驚いて、思わずベッドから落ちそうになった。動けないけど。
声がした方を見れば、そこには髪の長い女の子・・・、ん?さっきの声割と低かったよな。え、男?
青
黒
青
黒
青
黒
青
黒
こちらが圧倒してしまうほどどんどん話を進めて行っていた彼は、俺の問いかけにしっかりと立ち止まり、明るい笑顔を浮かべた。
黒
その太陽の様な笑顔に、俺は一瞬呼吸をするのを忘れてしまった。
青
黒
青
黒
青
黒
フレンドリーな人だな、と思った。
まだ出会って間も無い俺でも分かる人柄の良さと、おまけにその笑顔。きっと人気者なんだろうなぁ。
青
黒
青
黒
青
黒
青
彼の突然の提案に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
黒
青
咄嗟に絞り出したのは偽りの無い本心だった。口に出してから、もしかして凄く恥ずかしいことを言ったのでは、と思ったが、目の前の彼はきょとんとしてからまた笑顔を浮かべた。
黒
青
黒
青
太陽の様な笑顔を浮かべる彼は、風の様に去って行った。
まるで嵐が過ぎ去った後の様に、俺の中では様々な感情が渦巻いていた。
廊下の方から、「廊下は走らないでください!」なんて看護師さんの声が聞こえて来て、思わず口元が緩んだ。
青
ぽつり、口に出す。
・・・口に、出す?
青
待て、今自分はなんて言った??
“かわいい”??
悠佑って、男だよな。“俺”ってちゃんと言ってたし、声も低かったし。うん、正真正銘の。
そんな彼に、かわいい??
青
誰に対するなんの否定だろうか。ぶつぶつととりあえず否定の言葉を呟いてみるが、心の声は変わらなかった。
そして何より、頭に浮かぶのは彼の笑顔。
太陽の様に眩しくて、くしゃっと笑うその笑顔は、なんだかこちらがくすぐったくなってしまうような。
───かわいい。
青
彼の動きに合わせてさらりと揺れる長髪も、とても綺麗だった。
あぁ、これは。
事故に遭ってから続いていた、退屈で窮屈な日々。
そんな平凡な日常は、どうやら終わりを迎えたようだ。
黒
青
ガラッと開いたドアから、相変わらずの眩しい笑顔を浮かべた悠佑が顔を覗かせた。寸前まで暇を持て余していた俺は、自分の表情がぱっと明るくなったのを自覚してなんだか気恥ずかしくなる。
青
黒
誇らしげに笑った悠佑に、俺まで笑みが溢れる。
黒
青
そう!と楽しそうに頷いた悠佑は、イヤホンの片方を俺に差し出した。
黒
青
黒
元々、音楽を聴くのは好きだった。更に、彼に趣味が合うんじゃないかと言われて、彼のオススメを聴けるとなれば、嬉しくない筈がない。
青
黒
カチカチとミュージックプレイヤーをいじり始める彼の横顔を、その画面を見るフリをしてこっそり見つめる。
綺麗な顔だ。大きな瞳と長い睫毛。さらりと流れる長髪もあって、まるで女の子みたいに可愛くて。
そんなことをぼんやり考えていると、イヤホンから曲が流れ始め、彼が顔を上げた。ぱっと逸らした視線は、バレていなかっただろうか。
黒
青
黒
青
黒
青
黒
青
黒
青
会話が弾み、音楽も弾み、笑顔が弾ける。
まるで魔法にかけられたかの様な彼との時間は特別で、かけがえのないものになっていく。
少しずつ、しっかりと時間をかけて、俺達はお互いのことを知っていった。
彼は俺と2歳差で、大学3年生であること。
「俺より2個も下なん!?絶対年上やと思ってたわ羨ましいな高身長!」と、周りの友人と比べて身長が低いのを気にしているらしい彼に言われてしまった。
更に大学は案外近くだった。まぁここの病院で会うんだからそりゃそうか、なんて思いながらも、俺が退院したら何処かへ出かけようなんて約束までしてしまった。その日は浮かれてしまって、ご飯を運んで来てくれた看護師さんに、なんでニヤニヤしてるの?なんて言われてしまったほどだ。表情筋鍛えないとな。
彼は大学の友人達とバンドを組んでいて、ボーカルをしているらしい。この間ワンフレーズだけ口ずさんでいたけど、めっちゃ上手かった。ライブ開いて欲しい。絶対行く。
なんでそうなったのかはよく思い出せないが、まろ、あにき、とそれぞれ呼び方も変わって、距離も縮まった。
あにきと話しているとなんだか幸せで、動けなくても楽しくて。
あにきと過ごす日々が俺の中では当たり前になって、退屈でモノクロだった俺の日々を確実に色付けていった。
青
窓辺に立って、外を眺める。
ぼんやりと眺めていた視界の端で見慣れた長髪が揺れて、俺は口を開いた。
青
また声がでかいって怒られるとかは知らない。
俺の声を聞いたあにきが顔を上げ、一瞬驚いた顔をしてから大きく手を振ってくれた。
そして、見えなくなる。今にこちらに来てくれるだろうあにきのことを考えて、俺はベッドへと戻った。
黒
青
黒
青
そう笑って頰を掻く。ついこの間からリハビリがスタートし、松葉杖生活が始まった。とは言ってもまだ短距離しか移動出来ないのだが、ベッドから動けるようになっただけでも俺にとっては大きかった。
それにしても初めての松葉杖。生まれてこの方特に骨折をしたこともなく健康に過ごしてきた俺には、未知の体験すぎて全然慣れない。
黒
青
彼の言葉に、ぶわっと顔が熱くなるのが分かる。
あにきはずるい。時々こういう言葉を、無自覚で軽々と投げてくる。
青
黒
青
言いかけた言葉もそこそこに、黙り込む。
黒
急に黙り込んだ俺を心配したあにきが首を傾げる。が、それに上手く答えることもせず、俺はあにきをじっと見ていた。
青
黒
俺の気のせいかもしれない。でも、何処か違和感があった。出会ったばかりの頃は今よりももっと体格ががっしりしてたって言うか、なんだかこう・・・。痩せた、気がしたのだ。
黒
青
黒
青
黒
一瞬流れた言葉にし難い雰囲気も、あっという間に笑い飛ばしてしまった。
だから、俺は気付けなかった。
彼の笑顔の裏にある、抱えられた傷に。
相変わらずのリハビリ生活は続く。
夕暮れ時に、俺は病院の廊下を歩いていた。松葉杖にも少しずつ慣れてきて、以前よりも長く歩けるようになった。もうすぐ退院も夢じゃないらしい。
早く退院してあにきと出かけたいな、なんて思いながら、俺の心にはモヤモヤが抱えられていた。
実は今日、あにきが来ていなかった。
もう夕方なのに。そりゃ、大学生ともなればバイトや講義で決して暇ではないのは分かっている。でも、出会ってから彼はほぼ毎日会いに来てくれていたのだ。それが突然途切れると、なんとも言えない不安の様な気持ちに襲われる。
忙しいんだろうか、とあにきのことを考えながら廊下を進んでいると、ふと、視線の先で見慣れた長髪が揺れた。
青
黒
名前を呼ぶ。あにきがいたのだ。ただ、なんだか様子が変で。
こちらに背を向けて、背中を丸めしゃがみ込んでいた。具合でも悪いのだろうか。
青
その場から動かない彼の元へ行き、その顔を覗き込んだ俺は、思わず固まってしまった。
その大きな瞳から、涙が溢れて。
彼は、くしゃりと顔を歪め、静かに泣いていた。
息を呑み、呼吸を忘れた。彼の泣き顔なんて見たことがなくて、どう声をかければ良いのかも。
黒
青
俺が戸惑っている間に、あにきはその場から逃げ出す様に走って行ってしまう。
慌てて追いかけようとして、自分が松葉杖なのを忘れていた俺は、その場で見事に転倒。
打ち付けられる体の痛みよりも、あにきの涙の方が気になって、心配で。
俺が転んだ音を聞いて駆け寄って来てくれた看護師さんの言葉にも碌に答えず、俺はあにきがいなくなった方向をただただ見つめていた。
その日、あにきが俺の病室に会いに来てくれることはやっぱり無く。
それから数日、あにきと会うことはなかった。
松葉杖だがベッドから動けるようになったというのに、俺の世界はなんだか色褪せて見える。
動ける自由も、見える景色が広がることも、彼が居た日々には勝てないようで。
脳裏にこびり付いた彼の泣き顔だけが嫌に鮮明だった。
今日も会えないのだろうかと、ぼんやり窓の外に広がる空を眺めていた時だった。
後方で、病室の扉が開く音がする。看護師さんだと思って特に反応しなかった俺は、耳に届いた声にバッと振り返ることになる。
黒
青
声のした方を向いて、俺は息を呑んだ。
青
思わず、自分の目を疑った。
目の前に立つあにきは明らかに痩せて、やつれていた。
眩しい笑顔を浮かべていた彼の表情は、計り知れない悲哀に満ちていて。
青
知りたいけど、知りたくない。久しぶりに彼に会えて嬉しいはずなのに、迫り来る不安にそれを喜んでいる余裕は無かった。
黒
長い睫毛が震えて、伏せられる。その先の言葉を待ちながらも、何故か耳を塞いでしまいたい衝動に駆られていた。
黒
青
心臓が、止まってしまったみたいだった。
暗い表情で、あにきは語った。
重い病気にかかり、これから入院しなくてはならないこと。
病気を治すには手術をしなければならないこと。
その手術が、成功する可能性はあまり高くないということ。
・・・その手術が失敗すれば、あにきは。
静かになった一人の病室で、ベッドに拳を沈ませる。今胸を荒らすのは怒りだろうか、悲しみだろうか。
頭も心もぐちゃぐちゃだった。
思うことはいっぱいあるのに、俺の中で言葉が渋滞して、渦巻いて、バラバラに散って行く。
着実に治り始めている自分の脚に、喜びなんて微塵も感じなかった。
手術の日程はまだ決まってないんやけど、と言うあにきは、明らかに無理して笑っていた。
手術を行うことは既に決定らしい。分かってる、成功にしろ失敗にしろ、手術をしなければ彼が長生きできる見込みは限りなく低いと。
だからって、成功する可能性が低い手術をはいそうですかと納得して受けられるほど、俺達は強くないだろう。
怖い筈だ。苦しい筈だ。泣きたい筈だ。
なのに俺は、何も言えなかった。むしろ、彼に無理をして笑わせてしまった。
青
抗いようのないこと。分かっていても、怒りが込み上げる。なんで、あにきがそんな目に遭わなくちゃいけないんだ。
ふざけんな。そんな何に対してか分からない怒りの言葉を、口の中で噛み潰した。
青
黒
その言葉に、俺は言葉を失った。
3日後。だって、それは。
“もうすぐ退院出来ますよ”
俺の脳裏に、昨日聞いたばかりの先生の言葉が思い浮かんだ。
あにきの手術が行われる日は、俺の退院日だった。
上体を起こしてベッドに座る彼を見つめて、泣きそうになる。
俺の脚がしっかりと回復して行くのに逆らうように、あにきの体調は悪化へと進んで行く。
今では、本格的に入院した彼の病室に俺が出向くようになった。
いつかと真逆だ。こんなにも嬉しくない真逆が、あってたまるか。
泣きたいのは、あにきの方なのに。
黒
だって、だって。
その身長もあってか、元々俺に比べて小柄だったあにきの体は、痩せて一回りも二回りも小さく見えて。
眩しい笑顔も、楽しそうに揺れる長髪も、いつだって元気で覇気のある声も、今は鳴りを潜めてしまっている。
儚くて、触れたら壊れてしまいそうなほど、脆く見える。
黒
そう言ってあにきは笑ったけど、俺は笑えなかった。
違う、そんなの別に望んでないんだよ。
黒
青
黒
くしゃりと、その表情が歪む。
取り繕って欲しくない。あにきの笑顔は大好きだけど、そんなのは俺が望む笑顔じゃない。
俺は、あにきに心の声を吐き出して、泣いて欲しいんだ。
黒
青
突然の謝罪に、何に対してだろうかと首を傾げる。
黒
青
黒
青
黒
青
あの時、から?
黒
青
黒
彼の声が、悲しみへと落ちる。何も返せなかった。なんて声を掛ければいいのか、分からなくて。言葉が出てこなくて。
黒
そう言って、へらりと泣きそうな顔で笑うから。
青
黒
病院ってことも、病人ってことも、知ったこっちゃない。
俺はその頬を両手で挟み、初めて彼に怒りを向けた。
青
黒
くしゃっと歪む顔。今度こそ、その瞳から涙が溢れた。
黒
青
黒
青
黒
青
何も上手いことなんて言えない。彼を励ます言葉なんて俺には思い付かない。
ただ、その弱音を受け止めるだけでも、君を支えることが出来るなら。
黒
青
黒
青
出しかけたティッシュ箱を戻し、すんすんと鼻を鳴らす彼の横顔を眺める。散々泣いて弱音を吐き出した彼の目は赤くて、でも何処かスッキリしたようだった。
泣いた後の鼻声も、赤くなった目も、涙の跡も。
生きているんだな、と実感する。
この当たり前が無くなるかもしれないことを、俺にはまだ到底想像することが出来ない。
黒
青
初めて聞く、彼のわがまま。出来ることならなんだって叶えてあげたいと、俺は勢い良く身を乗り出した。
落ち着け。なんて笑って、彼は花瓶に飾られていた綺麗な薔薇の花を三本、俺の目の前へと持って来た。
黒
青
予想外の彼の“わがまま”に、間抜けな声が漏れる。
青
黒
青
どんな花だろうと、あにきの方が綺麗だし。
そんな台詞を吐き出してしまえたなら、どれだけ良かっただろうか。
青
黒
青
黒
青
黒
あにきの問いかけに、少々唸る。折角その友達があにきに持って来てくれたのに・・・。いやでも、多分今断ろうとしてもあにきは譲らないだろうし。
青
黒
安心した様に表情を緩ませたあにきに笑みを返す。こんなことであにきが笑顔になるなら、まぁいいか。
青
黒
青
あにきに手を振り、病室を後にする。
手術は、3日後。
この胸に抱く想いを、俺はどうしよう。
俺の迷いに寄り添う様に、手に握った青と黄色と黒の三本の薔薇が静かに揺れた。
黒
ぽつり、呟く。
いふが去って行った病室に、新たな人影が一つ。
白
黒
白
黒
白
黒
白
黒
まだ何が言いたげな表情で黙り込む初兎。その視線の先で、悠佑はそっと小さく笑みを浮かべた。
この気持ちは、伝えられない。
だからせめて、こんなことをするくらいは、許してくれないだろうか。
翌日、まろは病室に来なかった。
病気と入院生活によって体力が大分衰えた俺に、病室から出て彼に会いに行くほどの元気は無く。
いつの間にか夜を迎えてしまい、俺はベッドで横になったまま窓の外に広がる夜空を見上げていた。
昨日あれだけ泣いて、薔薇を渡すなんてことまでしてしまって、会ったら会ったで気恥ずかしかったからこれで良かったのかもしれない。
まぁ、彼は花言葉なんて知らなそうだから特に気にする必要なんてないとは思うが。
まろは、明後日には退院する。
俺は、その日手術を迎える。
どんな結果になろうと、俺がこの病院で彼と過ごせるのは明日で最後だ。
そう思った瞬間、頭の中でまるで映画の様に再生される、彼と出会ってからの毎日の記憶。
輝いていて、楽しくて、幸せで。
彼との未来を、この先続く日常を願っては、叶う確信のない現実に胸が痛む。
その夜は、静かに泣いた。
俺の退院。そしてあにきの手術が、明日に迫った。
大分慣れた松葉杖を使いこなし、廊下を歩く。
桃
青
廊下の向こうから歩いて来たその姿に、俺はぽかんと口を開けた。
談話スペースの椅子に座ると、ないこは笑顔を浮かべて口を開いた。
桃
青
桃
青
桃
青
桃
青
桃
溜息を吐き出すないこに、ふいと視線を逸らした。
青
桃
青
桃
青
否定も肯定もしない俺に、ないこはそっと息を吐き出した。
桃
青
桃
手を振って去って行くないこに手を振り返し、俺も立ち上がる。あの軽い足取り、例の“彼氏”とデートやな、なんて考える。
ないこ達の様に、なれないとしても。
せめてもの抵抗として、精一杯の俺のわがままとして。
あにきに、伝えたい言葉があった。
青
黒
病室の扉からひょこっと顔を出せば、外を眺めていたあにきがこちらを向いてぱっと表情を明るくした。
黒
青
黒
そう言って、にこにこ笑うあにきに、ゆるりと口元が緩んでしまった。
あにきに幸せや笑顔を沢山貰ってるいるのに、俺は何を返せたんだろうか。
ベッドのそばにある椅子に腰掛ける。こうやってこの病室で話すのも、今日が最後になるかもしれない。
明日にはこの日常が終わることにまるで実感が湧かなくて、実は全て夢なんじゃないかとか、手術なんて嘘なんじゃないかとか、そんなことすら考えてしまう。
黒
青
黒
青
長かった。長い筈だった。
ベッドの上から動けなくて、毎日同じ景色ばかり。看護師さんの説教も、特別好きでもない病院のご飯も、俺の日々はどうしてもつまらなくて。
“その曲ええよな!!”
そんな俺の退屈な日々をがらりと変えてしまった、眩しい存在。
長かった時間が、あにきと居るとあっという間で。
つまらない一日も、あにきのことを考えると楽しみで仕方がなかった。
そんな、今まで生きてきた中の何よりも特別な存在。
青
黒
俺の気持ちも、今から伝える言葉の意味も、きっと知らない君に伝える。
青
黒
青
黒
伝わらなくて良い。伝えられなくて良い。
黒
青
黒
青
笑い飛ばすから、どうか伝わらないまま消えてくれ。
俺のこの気持ちは、その言葉に隠して。
それ以上追及される前に、俺はなんてことない話題を上げて、二人で話す至っていつも通りの時間をあにきと過ごした。
そして、部屋に戻らなくてはならない時間がやって来た。
青
黒
あにきの手術は午前から始められる。開始時間より前だとしても、色々準備があるだろうから俺は明日彼には会えない。
青
黒
何を、言えば良いんだろうか。
伝えたい気持ちは、さっきの言葉に隠した。直接伝える気は無くて、でもこのまま戻るにはどうも足が進まない。
気持ちは、伝えられないけど。
ただ一つ、願うとするのなら。
青
黒
“じゃあまろが退院したら出かけようぜ!”
“ええの!?行く行く!何処行く!?”
“いや早いな!(笑) 退院してからゆっくり決めようや、絶対出かけるから”
“ほんと?約束な!”
“おう!約束!”
あにきは一瞬泣きそうな顔をして、すぐに笑顔を浮かべた。
黒
今となっては大分痩せてしまった笑顔が、あの頃の彼と重なった気がした。
翌日は、あにきや俺が確かに抱える不安に対して、馬鹿みたいな快晴だった。
雲一つないってこのことか、なんて思い知る。なんだか後ろ髪を引かれるような感覚を覚えながら病院を出た。病院からの解放。松葉杖はあるが、今日からまた普通の日常が始まるのか。
俺の家に着いて、ないこが荷物を下ろした。
青
桃
青
荷物を広げ整理を始めたないこが、とあるものを見つけてその手を止めた。
桃
青
三本の薔薇は未だ美しく健在だった。自然と彼の笑顔が思い浮かんで、そっと表情を緩める。
桃
青
桃
目を見開いたないこが俺を見つめる。
青
桃
青
桃
青
ガタッと音を立てて、ないこが俺の両肩を掴んでくる。え、何事なん?
桃
青
何か問題があったんだろうか。
桃
青
ないこの言っている事が理解出来ず、眉を顰めて首を傾げる。
桃
黒
聞いてる人を安心させるような優しい笑みを浮かべ、看護師さんは言う。
黒
その言葉に、思わずぽかんと口を開けた。
黒
黒
確かに自分は彼に対してそんな想いを抱いていたが、彼は違う。今までの言動は全て優しい彼の好意であり友情だ。この気持ちだって、手術の結果がどうであろうと彼に伝える予定は無い。
昨日?
ロマンチック。と心の中で繰り返し、昨日まろが言っていた英語のことを思い出した。
黒
黒
やっぱり英語は向いていない。二回目だというのに聞き取れない耳と自分の英語能力の低さに思わず顔を顰めると、看護師さんはくすっと笑った。
黒
出来る限りの全速力で、家を飛び出す。勿論松葉杖である。
一番最初の曲がり角を曲がったところで、見慣れた姿が視界に移った。
桃
青
何よりも、向かわなければいけないところがあった。
瞬時に何かを察してくれたのだろう。ないこは一瞬黙り込んだ後、声を大にして言った。
桃
分かってる。返事は声に出さず、彼を通り過ぎてから片手を上げて応えた。思わずバランスが崩れて転びそうになる。松葉杖なん忘れてた。
──目指す場所は、ただ一つ。
桃
松葉杖で頑張りながら病院へと向かうのであろうまろの背中を見送りながら、ぽつりと呟く。
事故に遭って入院したと聞いた時は友人として心底心配したのだが、とある日を境に、退屈を嘆いていた彼に笑顔が増えた。
なんなら入院前よりも幸せそうな笑顔を浮かべているものだから、そんな笑顔をまろに届けてくれた彼には感謝を感じていた。
お互い想い合ってるのに、直接伝えることを躊躇って、その気持ちを胸の奥に閉まってしまった二人。
そんな二人が、明日にはきっと笑顔で隣に並んでいることを願って、俺はスマホを取り出した。
桃
なんだか、会いたくなっちゃって。
白
水
白
たった今、松葉杖を駆使して横を通り過ぎて行ったその姿を見て、自然と笑みが溢れてしまった。
白
水
白
凄い!と目を輝かせる純粋であほな愛しい彼への返事もほどほどに、僕は病院の方を見た。もう、ここから見える位置にある。
水
白
もう小さくなった彼の背中を眺めてから、僕は隣の彼へと視線を戻した。
白
水
白
水
手を繋いで歩き出す。あの二人の関係が実りあるものになることを、切に願って。
“花屋でバイトしてる友達”の願い、ちゃんと叶えてな。
少し前まで入院していたのに、なんだか懐かしい気がする病院の中を、とある部屋だけを目指して進む。
少しでも早く、会いたい。全力で走れない事がなんとももどかしい。骨折した脚をこんなにも疎ましく思ったことはなかった。
そうして、部屋に辿り着く。
一旦立ち止まって、深呼吸をした。心臓がドクドクとうるさく鳴っている。
──扉を、開けた。
ベッドに座る彼は、俺を見てふんわりとその表情を和らげた。
黒
たった二文字を告げるその声が、これほどまでに愛おしい。
伝えたいことは、沢山あったはずなのに。
今心に抱くのは、口を突いて出るのは、一つだけ。
青
そう、本当はずっと、伝えたかったこと。
君に、伝えたかったのは、
青
溢れた涙が、何よりも綺麗だと思った。
黒
青
黒
青
黒
青
黒
青
黒
照り付ける太陽なんかよりも眩しい笑顔。なんだか最近眩しさが増したのではないだろうか。
青
黒
手を差し出すと、あにきは一瞬目を見開いて、すぐに嬉しそうに手を繋いできた。ゔっかわいい。
黒
青
黒
青
黒
黒
照れ臭そうにはにかむ彼に、胸がいっぱいになる。
青
黒
握っていた手に、ぎゅっと力を込める。
青
そんな時、君が現れた。
青
黒
青
黒
青
その頬に、優しく手を添えた。
悠佑がそっと目を瞑る。・・・その顔に、近付いて。
〜♪〜♪
黒
空気をぶち壊すようにして流れ出したのは、俺のスマホの着メロだった。
青
恨みを込めてそう言いながらスマホを取り出す。相手はないこだった。
青
桃
青
桃
青
桃
白
青
水
赤
青
桃
白
青
いじり始めたしょにだに叫んで、電話を切る。アイツらが喋り出すとマジで電話切るタイミング無くなるな。
黒
青
ふとあにきを見ると、電話を切った俺のスマホを微笑んで見つめていた。
どうしたん?と問いかけると、あにきはいや、と声をこぼす。
黒
青
その時の、彼の笑顔と言ったら。
・・・言葉で表すには申し訳ないくらいに。
青
黒
その手を取って、走り出す。
松葉杖を外して、病院を出て。
薔薇が飾られた花屋の前を通り過ぎて、君と走る。
あの時あんなに悩んで、伝えたくても伝えられなかった気持ちは、今は正面から君に伝えられる。
左手の薬指にハマったお揃いのリングが、いつまでも二人を優しく見守っていた。
色別薔薇の花言葉 【黄色】平和、愛の告白 【青】夢かなう、奇跡、神の祝福 【黒】永遠の愛、決して滅びることのない愛
3本の薔薇の花言葉 「告白」「愛しています」
All I want in my life is you next to me. 「私の人生の望みは、ただあなたが隣にいてくれること」
月見。
月見。
月見。
長えよ!!!!
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。
月見。