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4日間に渡ったIH県予選

男子と女子共に総合2位という結果で終焉を迎えた

顧問の全体的な講評も終わり

3年生が最後の言葉を後輩たちへ贈る

既に何人かの先輩の話が終わり春紀先輩がみんなの前に立った

春紀

4日間お疲れ様でした

春紀

僕にとってとても楽しい4日間で

春紀

最後まで楽しめてほんとに嬉しいです

春紀

こんな事言うの恥ずかしいけど

春紀

…この2年間楽しかった

春紀

後輩とか同級生とほぼ毎日馬鹿みたいな話して笑って

春紀

一緒にご飯食べたり

春紀

たまには遊びにいったり

春紀

そりゃ楽しいことばっかりじゃないし

春紀

もちろん辛いこと苦しいこともたくさんあったけど

春紀

どんなに学校行きたくないなって日も部活のこと考えたら毎日頑張れるくらい

春紀

それくらい大切な居場所でした

春紀先輩の頬に涙が伝う

春紀

…関東大会が終われば本当にこのチームから離れることになるって思うと

春紀

やっぱり寂しいです

すすり泣く声がひしめき合っている

下を向かせていた顔を上げる

春紀

…俺みたいな先輩と最後まで一緒に戦ってくれてありがとう

春紀

これからも頑張ってください

少し笑いながら強い思いを伝えてくれた

拍手は静まって最後に高柴くんがみんなの前に整然と立つ

お疲れ様でした

最後にいい結果残せてよかったです

毎日賑やかな部室に入るのが楽しみで

みんなといると落ち込んでる時も自然と元気が出て

自分って幸せだなって毎日思ってました

みんなの顔を見渡して微笑む

俺がこのチームのキャプテンで本当にいいのかな

そう思うことも正直言って少なくなくて

メンバーのことをちゃんと理解出来てた自信は到底ないし

あまり頼りがいのないキャプテンだったんじゃないかなと思います

でもそんな俺の事を認めてくれる人もいました

春紀と憧埜の顔を見た

2人の目は涙で塗りつぶされている

すると何故か突然視界がぼやける

まだ終わって欲しくない

みんなともっと一緒にいたい

それが本音です

これから先、辛いことも悩むこともたくさんあると思います

そんな時は

泣いてください

高柴くんは涙を拭うことなく話を続ける

思う存分泣いて

最後に笑ってたらいいんです

そうやってこれからも精一杯みんならしく頑張ってください

ずっと応援してます

…ほんとに今日までありがとうございました

憧埜は顔を上げることが出来ない

自分の涙で息が苦しくなる

顧問

じゃあ最後に次の男女キャプテン発表してくれる?

妙な緊張感が漂う

キャプテン2人は前に進めないほど重いバトンを今下ろそうとしている

男子のキャプテンは

そのバトンが繋がれるのは

中村です

思いがけない言葉で耳を疑った

周りからは拍手が送られる

鼓動は速くて頭は真っ白だった

志賀先輩

女子のキャプテンは

志賀先輩

結空ちゃんです

志賀先輩の煌めく笑顔に答えるように結空は笑っていた

顧問

じゃあ2人とも前出てきて一言

足を竦ませながら前へと進んだ

憧埜

…えっと

憧埜

正直何も準備してなかったんですが

憧埜

これから先僕がみんなに迷惑をかけることも多かれ少なかれあると思います

憧埜

手探りになるだろうし

憧埜

単純には行かないのはわかってます

憧埜

だからほんとに他人任せで不甲斐ないですけど

憧埜

支えてくれると嬉しいです

憧埜

上手くできる自信は本当にないです

憧埜

でも

憧埜

先輩たちに託されたからには精一杯この1年間頑張ろうと思います

憧埜

よろしくお願いします

深々と頭を下げる

不安が汗になって手に伝わる

それに反して結空は堂々としているように見えた

結空

先輩の皆さん高校陸上お疲れ様でした

結空

チームをまとめたりするのはあんまり得意ではないんですけど

結空

しっかり自信を蓄えて

結空

みんなから頼られるようなキャプテンでいられるように頑張ります

結空

1年間よろしくお願いします

結空の笑顔に

ほんの少し羨ましくなった

メンバーはそれぞれ先輩たちと写真撮影をしている

涙ぐみながらも何とか笑って

春紀

憧埜撮ろ

憧埜

OKです

春紀は憧埜の方に腕を乗せてシャッターを切った

春紀

頑張れよ

春紀先輩はそう言って明るく笑った

憧埜

…ありがとうございます

紘時

憧埜泣きすぎ

憧埜

…うるさい

紘時が笑うのを見て少し口角が上がった

中村

高柴くんは手招きして笑う

憧埜

…はい!

高柴くんがカメラを見つめる横顔をみて

苦しさの交じった悲しさが胸を押し潰す

涙が止まらなくて俯いて右手で目を隠してしまった

崩れ落ちそうな体を高柴くんは優しく支えてくれた

そして緩く抱きしめてくれた

その瞬間様々な感情が入り乱れて

自然と高柴くんの肩に顔を填めていた

大丈夫?

憧埜

…大丈夫です

太陽が手を振っている

それはまるで僕を急かしているよう だった

今伝えろと

この想いの答えを出せと

そう言ってるようだった

まだ少し夕空が残った夜に

家路から外れた歩き慣れない道を

僕は高柴くんと2人で歩いていた

川の水面に月が反射する

今日の月も綺麗だ

そして遠ざけたかった時間が訪れる

この2年間ありがと

悩みとかあったらいつでも聞くから

またね

憧埜

お疲れ様でした

いつかはこうなることくらい知ってた

いつかの夏よりもその後ろ姿は

輝いて見えた

輝きに相反する僕の心は

灯していた光を消してしまった

悲しい

寂しい

虚しい

苦しい

好きだ

気づきたくなかった

何かの間違いだって

自分の好きをかき消すのに必死で

あなたの気持ちを考えてると思い違いをしていた

段々と通さがっていく影が

僕の喉へ剣を向けているようだった

今日は妙に川のせせらぎが耳に響く

普通になりたかった

正解になりたかった

どんなに試行錯誤しても僕は間違いにしかなれなかった

普通に

普通に

普通に

楽に

憧埜

…疲れた

月は依然として綺麗だ

僕には振り向いてはくれないけど

この苦しみは誰にも理解出来ない

紘時も響も春紀先輩も

僕を受け入れてくれた

でもどこか他人事で

そんなことを考える傲慢さが

醜さが

もう何もかも

嫌いだ

みんなはあんなに自分の好きを自由に表現してるのに

憧埜

…どうして

何度も零した涙と胸の痛みが

今も止まることはなく

僕を引きずっている

もういいんだ

この先もずっと1人で

誰にも理解されないまま

普通になれないまま

それならもう

僕なんていらない

この世界にいる意義も

意味も

希望もない

だから。

さよなら

ありふれた好きを夢見た僕へ

たどり着けない正解を

惨めに探し続けた僕へ

憧埜の体は水面に吸い込まれるように宙に翻った

数秒後水飛沫が舞うと同時に轟音が辺りに響き渡った

目を開くと突き刺すような光が見える

何度か瞬きをした後に昨夜のことを思い出した

いつの間にか朝になったらしい

曖昧な記憶を辿ると少し聞き覚えのある声が聞こえたような

暗い水の中で聞こえた声

はっきりとは思い出せないけれど

何となく思い出さない方がいい気がした

扉が強く開かれる

紘時

…憧埜!

…大丈夫か

憧埜

うん大丈夫

紘時

過労で意識朦朧って聞いたけど

紘時

どんだけ休めてないんだよ

憧埜

この4日間あんまり寝れないし朝も早かったから

憧埜

心配かけてごめん

憧埜

もうちゃんと休めたから

ほんと?

憧埜

うんほんと

絶対無理すんなよ

憧埜

わかってる

紘時

なあ憧埜

憧埜

ごめん少し1人にしてもらっていい?

紘時が言うことがなぜか無意識に分かってしまって

反射的に言葉が出てしまった

紘時

…でも

紘時

もう行こう

お大事にな

紘時

…お大事に

ゆっくりと扉が閉まって心が落ち着く

それも束の間のことだった

憧埜

…響

ちゃんと休めって言ってるやん

憧埜

ごめん

どっか怪我してたりしやん?

憧埜

ちょっと足ぶつけただけ

憧埜

大丈夫

ならいいけど

まあ思ったよりは元気そうやな

憧埜

心配しないでいいから

響は言葉をのみこむ

わかった

また連絡する

元気でな

憧埜

うん

目が覚めてからずっと

適当な嘘だけを吐き続けている

大切な人たちにまで嫌われる勇気が

どこを探しても見つからない

見つけたとしてもきっと触れられない

今はもう誰とも話したくない

堪えた涙を流してそっと眠りについた

太陽が憧埜の真上を通り過ぎた頃

まだ憧埜は眠っていた

そして病室の扉が開く

眠っている憧埜に気づいて澄は慎重に足を運んだ

…寝てたか

ただ静かな部屋でひっそりと佇む

澄は何も言わないまま憧埜の傍に座っている

憧埜

…っ

ゆっくりと目を開く

憧埜

…高柴くん

ごめん起こした?

憧埜

…いいえ

憧埜

すみません

高柴くんは少し首を傾げた

なんで謝るんだよ

別に何も怒ってないよ

顔みたらちょっと安心した

憧埜

…折角キャプテン任された矢先に

大丈夫だから

今気にすることじゃないよ

関東大会には間に合うでしょ

憧埜

はい

憧埜

間に合わせます

とりあえず無理しないようにね

憧埜

ありがとうございます

澄は扉に手を掛けようとしてから その手を下ろして振り向いた

あのさ中村

憧埜

はい

予想外の呼び掛けに少し声が裏返った

全然先の話なんだけど

夏休み明けの文化祭

俺と一緒に回ってくれない?

高柴くんは少し恥ずかしそうに目を合わせてくれない

憧埜

いいですよ

自分でもびっくりするほどに早く答えが言葉に出てしまっていた

あ、ほんとに?

よかった

じゃあまたね

憧埜

はい

2人は笑いあって

その間に涼しい風がすり抜けていく

髪が靡いて視界が開けた

僕の視線の先に

高柴くんはもう居なかった

病室の前の長椅子に1時間程寄りかかっていた

病室に足を踏み入れることも出来ないうちに夕暮れになってしまう

廻青

廻青

入らないの?

廻青

…うん

面会時間終わっちゃうよ

廻青

知ってる

廻青

でも入れない

…そっか

虚ろな目をした廻青に零は少し呆れて病室に入った

それから数分後

静かに零は病室から出てきた

憧埜、寝てたよ

廻青

そうか

何故か安堵が心を占める

ねえ廻青

廻青

なに?

ちょっと話があるんだけど

いい?

廻青

…別にいいよ

行き場の無い気持ちに動揺しながら

言われるままに歩いていく

右足の痛みはまだ治まらないでいた

蝉の鳴き声は静まり返って夜が来る

誰もいない公園の隅で2人は話し始めた

結構久しぶりかも

廻青とちゃんと話すの

中学卒業以来?

廻青

だな

零が何を考えてるのか何も分からずもどかしい気持ちが募る

廻青

それで

廻青

話ってなに?

堪えきれなくて思わず口走った

…間違ってたらごめんだけど

零は真っ直ぐ廻青の目を見つめた

その眼差しに廻青はどうしようもなく目を逸らす

足怪我してたりする?

廻青

…え?

取り繕いようがない程に目を見開いて腑抜けた声が出る

…言い方変えるね

憧埜のこと助けたの廻青?

廻青

…なんで

憧埜が落ちた川は廻青の家の近くだし

憧埜を助けた人が誰か分からないんだって言われて

もしかしたらと思ってさ

廻青

廻青は右足の裾を捲り上げる

廻青

…うん

その足には赤紫のあざが浮かび上がっていた

…やっぱり

なんで憧埜と話さなかったの?

廻青

それは

廻青

怖かったから

零の顔を見れずに俯いてしまう

廻青

…あんなこと言ったのに

廻青

今更ちゃんと話せる自信なんかないし

廻青

また傷つけるだけだ

憧埜はずっと気にかけてるよ廻青のこと

私らには言わないけど

知ってるでしょ

憧埜が嘘下手なこと

廻青

知ってるよ

廻青

それでも俺は

廻青

…憧埜に嫌われる勇気がないんだ

廻青

本当は言いたいよ

廻青

突然すぎて言葉を間違えたんだって

廻青

友達なのは今までもこれからも変わらないって

廻青

…言いたかったんだよ

廻青

でもこれじゃただの言い訳みたいで

廻青

憧埜は笑って許してくれても

廻青

俺は許せない

廻青

だから俺は憧埜と話す権利なんか

パシッ

廻青は思わず頬を抑えた

頬がただただ熱かった

廻青

いい加減にしてよ

何にもわかってない

…どんだけ憧埜が思い詰めてたかわからないの?

零の涙が月明かりに光る

憧埜は廻青がどう思ってたっていいから傍にいて欲しかったんだよ

廻青は黙り込んでしまった

どんなに受け入れてもらえなくてもずっと友達のまま

…離れないで欲しかったんだよ

自分の鈍感さが嫌いだ

勇気もなければ優しさなんて以ての外

少なくとも憧埜と一緒にいる自分は結構好きだったはずだ

それなのに俺は

廻青

…だったら尚更

廻青

そんなことにも気づけなかった俺なんか

廻青

あいつと一緒にいるのは無理だろ

涙を裾で拭って廻青は立ち去っていく

廻青!

自分の無力さに失望した

尊厳も生きる価値も今の俺には無い

すっかりと隠れた月明かりでさえ

もう俺の背中を押してはくれない

そうやって落ちていく

底の見えない絶望と罪悪感の深淵へ

第8話 堕落

いつかのさよならを君に。

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