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4日間に渡ったIH県予選
男子と女子共に総合2位という結果で終焉を迎えた
顧問の全体的な講評も終わり
3年生が最後の言葉を後輩たちへ贈る
既に何人かの先輩の話が終わり春紀先輩がみんなの前に立った
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀
春紀先輩の頬に涙が伝う
春紀
春紀
すすり泣く声がひしめき合っている
下を向かせていた顔を上げる
春紀
春紀
少し笑いながら強い思いを伝えてくれた
拍手は静まって最後に高柴くんがみんなの前に整然と立つ
澄
澄
澄
澄
澄
みんなの顔を見渡して微笑む
澄
澄
澄
澄
澄
春紀と憧埜の顔を見た
2人の目は涙で塗りつぶされている
すると何故か突然視界がぼやける
澄
澄
澄
澄
澄
澄
高柴くんは涙を拭うことなく話を続ける
澄
澄
澄
澄
澄
憧埜は顔を上げることが出来ない
自分の涙で息が苦しくなる
顧問
妙な緊張感が漂う
キャプテン2人は前に進めないほど重いバトンを今下ろそうとしている
澄
そのバトンが繋がれるのは
澄
思いがけない言葉で耳を疑った
周りからは拍手が送られる
鼓動は速くて頭は真っ白だった
志賀先輩
志賀先輩
志賀先輩の煌めく笑顔に答えるように結空は笑っていた
顧問
足を竦ませながら前へと進んだ
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
憧埜
深々と頭を下げる
不安が汗になって手に伝わる
それに反して結空は堂々としているように見えた
結空
結空
結空
結空
結空
結空の笑顔に
ほんの少し羨ましくなった
メンバーはそれぞれ先輩たちと写真撮影をしている
涙ぐみながらも何とか笑って
春紀
憧埜
春紀は憧埜の方に腕を乗せてシャッターを切った
春紀
春紀先輩はそう言って明るく笑った
憧埜
紘時
憧埜
紘時が笑うのを見て少し口角が上がった
澄
高柴くんは手招きして笑う
憧埜
高柴くんがカメラを見つめる横顔をみて
苦しさの交じった悲しさが胸を押し潰す
涙が止まらなくて俯いて右手で目を隠してしまった
崩れ落ちそうな体を高柴くんは優しく支えてくれた
そして緩く抱きしめてくれた
その瞬間様々な感情が入り乱れて
自然と高柴くんの肩に顔を填めていた
澄
憧埜
太陽が手を振っている
それはまるで僕を急かしているよう だった
今伝えろと
この想いの答えを出せと
そう言ってるようだった
まだ少し夕空が残った夜に
家路から外れた歩き慣れない道を
僕は高柴くんと2人で歩いていた
川の水面に月が反射する
今日の月も綺麗だ
そして遠ざけたかった時間が訪れる
澄
澄
澄
憧埜
いつかはこうなることくらい知ってた
いつかの夏よりもその後ろ姿は
輝いて見えた
輝きに相反する僕の心は
灯していた光を消してしまった
悲しい
寂しい
虚しい
苦しい
好きだ
気づきたくなかった
何かの間違いだって
自分の好きをかき消すのに必死で
あなたの気持ちを考えてると思い違いをしていた
段々と通さがっていく影が
僕の喉へ剣を向けているようだった
今日は妙に川のせせらぎが耳に響く
普通になりたかった
正解になりたかった
どんなに試行錯誤しても僕は間違いにしかなれなかった
普通に
普通に
普通に
楽に
憧埜
月は依然として綺麗だ
僕には振り向いてはくれないけど
この苦しみは誰にも理解出来ない
紘時も響も春紀先輩も
僕を受け入れてくれた
でもどこか他人事で
そんなことを考える傲慢さが
醜さが
もう何もかも
嫌いだ
みんなはあんなに自分の好きを自由に表現してるのに
憧埜
何度も零した涙と胸の痛みが
今も止まることはなく
僕を引きずっている
もういいんだ
この先もずっと1人で
誰にも理解されないまま
普通になれないまま
それならもう
僕なんていらない
この世界にいる意義も
意味も
希望もない
だから。
さよなら
ありふれた好きを夢見た僕へ
たどり着けない正解を
惨めに探し続けた僕へ
憧埜の体は水面に吸い込まれるように宙に翻った
数秒後水飛沫が舞うと同時に轟音が辺りに響き渡った
目を開くと突き刺すような光が見える
何度か瞬きをした後に昨夜のことを思い出した
いつの間にか朝になったらしい
曖昧な記憶を辿ると少し聞き覚えのある声が聞こえたような
暗い水の中で聞こえた声
はっきりとは思い出せないけれど
何となく思い出さない方がいい気がした
扉が強く開かれる
紘時
恵
憧埜
紘時
紘時
憧埜
憧埜
憧埜
恵
憧埜
恵
憧埜
紘時
憧埜
紘時が言うことがなぜか無意識に分かってしまって
反射的に言葉が出てしまった
紘時
恵
恵
恵
紘時
ゆっくりと扉が閉まって心が落ち着く
それも束の間のことだった
憧埜
響
憧埜
響
憧埜
憧埜
響
響
憧埜
響
響は言葉をのみこむ
響
響
響
憧埜
目が覚めてからずっと
適当な嘘だけを吐き続けている
大切な人たちにまで嫌われる勇気が
どこを探しても見つからない
見つけたとしてもきっと触れられない
今はもう誰とも話したくない
堪えた涙を流してそっと眠りについた
太陽が憧埜の真上を通り過ぎた頃
まだ憧埜は眠っていた
そして病室の扉が開く
眠っている憧埜に気づいて澄は慎重に足を運んだ
澄
ただ静かな部屋でひっそりと佇む
澄は何も言わないまま憧埜の傍に座っている
憧埜
ゆっくりと目を開く
憧埜
澄
憧埜
憧埜
高柴くんは少し首を傾げた
澄
澄
澄
憧埜
澄
澄
澄
憧埜
憧埜
澄
憧埜
澄は扉に手を掛けようとしてから その手を下ろして振り向いた
澄
憧埜
予想外の呼び掛けに少し声が裏返った
澄
澄
高柴くんは少し恥ずかしそうに目を合わせてくれない
澄
憧埜
自分でもびっくりするほどに早く答えが言葉に出てしまっていた
澄
澄
澄
憧埜
2人は笑いあって
その間に涼しい風がすり抜けていく
髪が靡いて視界が開けた
僕の視線の先に
高柴くんはもう居なかった
病室の前の長椅子に1時間程寄りかかっていた
病室に足を踏み入れることも出来ないうちに夕暮れになってしまう
零
廻青
零
廻青
零
廻青
廻青
零
虚ろな目をした廻青に零は少し呆れて病室に入った
それから数分後
静かに零は病室から出てきた
零
廻青
何故か安堵が心を占める
零
廻青
零
零
廻青
行き場の無い気持ちに動揺しながら
言われるままに歩いていく
右足の痛みはまだ治まらないでいた
蝉の鳴き声は静まり返って夜が来る
誰もいない公園の隅で2人は話し始めた
零
零
零
廻青
零が何を考えてるのか何も分からずもどかしい気持ちが募る
廻青
廻青
堪えきれなくて思わず口走った
零
零は真っ直ぐ廻青の目を見つめた
その眼差しに廻青はどうしようもなく目を逸らす
零
廻青
取り繕いようがない程に目を見開いて腑抜けた声が出る
零
零
廻青
零
零
零
廻青
廻青は右足の裾を捲り上げる
廻青
その足には赤紫のあざが浮かび上がっていた
零
零
廻青
廻青
零の顔を見れずに俯いてしまう
廻青
廻青
廻青
零
零
零
零
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
廻青
パシッ
廻青は思わず頬を抑えた
頬がただただ熱かった
廻青
零
零
零
零の涙が月明かりに光る
零
廻青は黙り込んでしまった
零
零
自分の鈍感さが嫌いだ
勇気もなければ優しさなんて以ての外
少なくとも憧埜と一緒にいる自分は結構好きだったはずだ
それなのに俺は
廻青
廻青
廻青
涙を裾で拭って廻青は立ち去っていく
零
自分の無力さに失望した
尊厳も生きる価値も今の俺には無い
すっかりと隠れた月明かりでさえ
もう俺の背中を押してはくれない
そうやって落ちていく
底の見えない絶望と罪悪感の深淵へ
第8話 堕落