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会談の席に現れた瞬間、
僕は思わず、指先を強く握りしめた。
_________甘い。
ただの蝶のそれとは、明らかに違う。
鼻腔の奥にまとわりつくような、
舌の上に残る蜜のような香り。
理性が警鐘を鳴らすよりも早く、
本能が『食え』と囁いた。
僕は、 この場に交渉をしに来ている。
ウィーンという都市。
ハプスブルクという存在。
それらをどう取り込み、どう支配するか。
それが今日の議題のはずだった。
…なのに。
視線が、勝手に彼を追ってしまう。
オーストリア。
オーストリアの擬体化。
形式張った挨拶、端正な佇まい、
そして、過剰なまでに“無防備”な香り。
蝶だ。
そう思わずにはいられなかった。
彼の身体から溢れ出るフェロモンは、蜘蛛としての本能を過剰に刺激している。
それも、ただ腹を満たすための衝動じゃない。
喉の奥が、きゅっと締めつけられるような、
視界が"それ"に覆い尽くされるような、
鼻腔が支配されるような、
独占欲が掻き立てられるような、
そんな、衝動。
警戒はしている。
蛾の可能性も当然ある。
だから今すぐ喰らうつもりはない。
……ない、はずだ。
彼が椅子に腰掛けると、
ふわりと、香りが流れた。
まるで、誘うように。
意識しているのか、無意識なのか。
それすら判断がつかないほど、甘すぎる。
前見かけたときなんかより、強い。
同じ部屋にいるというだけで、こんなに蝶を感じるなんて。
世界は、まだまだ広いらしい。
オーストリア
彼がそう口を開いた瞬間、
声すらも、蜜のように絡みつき、
僕の聴覚をも侵食した。
嗚呼__________
食事の前の前菜が、
会話が、
これほどまでに辛いなんて。
思ってもいなかった。
…だから、仕方ない。
僕は、彼を喰らうために、どう支配するか、
会議中だと言うのに、そんな思考で頭が埋め尽くされたことは、
きっと、僕は悪くないはずだ。
会議が終わり、やっとあの辛いフェロモン地獄から抜け出した。
恐らく普段から彼があの部屋を使ってるのもあるのだろう、
とにかく部屋が甘い香りで覆い尽くされていた。
廊下に出ると、多少マシになった。
本当に...気を抜いたら、食ってしまいそうだった。
本能から逃げるように、僕は早歩きでウィーンを出ようとした。
これ以上ここに留まれば、僕の理性がどこまで保つか、自信がない。
彼とはまた接触すれば良い。
今日は顔と、あの香りを覚えただけで十分。
そうして、背を向けた、
その時だった。
オーストリア
オスマン帝国
なにやらまだ香りがする、と思い振り向いてみれば、彼だった。
多少はマシになった...?いや、ほとんど変わらない?
とにかく、甘ったるいその香りの発生源がすぐ傍に居た。
…本当、無防備すぎないだろうか。
オスマン帝国
オスマン帝国
オーストリア
オーストリア
どうしてか彼は、一向に引かない。
もしかしたら、自分が蝶だって自覚がないのかな。
オーストリア
オーストリア
オーストリア
オーストリア
オスマン帝国
ありがとう、と、彼は微笑んだ。
彼が歩を進めると同時に、僕の腕を掴んだ。
わかってる。
ただ、掴まれてるだけ。
服越しに、掴まれて、案内されてるだけ。
それだけ、なのに。
視界が揺れた。
甘い甘い香りが、五感の全てを刺激する。
喉奥まで絡む蜂蜜のような、甘さ。
鼻腔を支配する香り。
彼の心臓の音。
彼のおいしそうな瞳。
柔らかいのにハリがある肌。
本能の叫びを、理性の警鐘でなんとか掻き消す。
それでも隠しきれない、捕食者としての本能。
それを見ないふりをして、彼をこれ以上感じないよう、
視線を他所に移した。
やがて、ようやく僕の国が見えてきた。
どれほどの時間が経っただろう?
ほぼずっと掴まれっぱなしで、
なんだか記憶が曖昧だった。
まあ、彼に異変はないから、
多分、記憶だけやられてたんだろう。
オーストリア
オーストリア
オスマン帝国
道中、彼と話したことすらも殆ど覚えていない。
なんか、約束を交わしたような...
オーストリア
オスマン帝国
…そういえば来月のあの日の夜、彼とのお茶会を約束してた...
大丈夫かな、お茶会どころじゃなくならないと良いけど...
抑制剤、飲んだほうがいいよね...
オスマン帝国
オーストリア
_______本当に、危険な蝶だ。
幸い時間はたっぷりある。
徹底的に支配して、捕まえて、彼の全てを喰らおう。
そう、心に誓った。