見えない君と視えない僕

きんときが

１日の半分、目を覚まさなくなった

指も腕も細くなって 俺を導くために手を繋いでいた あの時とは大違いだ。

こいつが生きているうちに 元気なうちに 顔を見てみたかった

同じ景色を見て 同じ色を綺麗だと言って

同じ世界を生きてみたかった

生まれてからずっと 苦しんできたきんときの気持ちなんて 分からない

代わってあげたいなんて 俺なんかが思っていいものじゃない

どうしてでも生きて欲しいと思った

ずっと一緒にいたいと思った

俺は神も仏も信じちゃいない

この際、そんなものがいなくたって 縋るしかないじゃないか

頼むから、お願いだから

連れていかないでほしい

チュ

数日後

きんときに ｢また明日｣は来なかった

7月9日になった瞬間だったらしい

看取ることは出来なかった

今思えば あいつは自分が死ぬことを わかってたんだろうな

だから時間を気にしていたし ｢今までありがとう｣と言った

最期まで狡い男だったな

きんときが亡くなって数日 きんときの主治医の先生から きんときの両親が 俺に会いたがっていると聞き 会いに行った

それからの展開が早すぎるんだが 割愛してお伝えしよう

俺はきんときの眼をもらって 健常者として生きるようになった。 (ちゃんとリハビリも頑張ってるよ)

まだ文字は読めないやつもあるけど 小学生くらいには なれるんじゃないかと思う

そして きんときの葬式はやらないそうだ

どれもこれも全部 きんときの意思で決められたこと

遊んでばっかりだと思っていたけど 意外となんでも決めていたらしい

俺へ遺したものは きんときの眼、 俺に出会ったあと目覚めてから 毎日つけていた日記。

日記には ｢じがよめるようになってからよめ！｣ と(ご丁寧にひらがなで) 書いてあったから、 もう少し先に読むことにする。

あ、あと1つ

俺の瞳は、綺麗な｢青色｣になった

X月X日 目が覚めた 俺はスマイルに手紙を出したぞ！ 来てくれるといいなぁ

X月X日 スマイルが来た 思ったより早く来てくれて嬉しい それにしても、スマイルのお母さんが ここの看護師さんだったなんて 運命みたいだね

X月X日 今日もスマイルが遊びに来た 見えない目を合わせて話してくれる ずっと椅子に座ってて 腰痛くないのかな？

X月X日 今日もスマイルが来た 毎日眠くて仕方がない 薬の副作用だから仕方ないけど… スマイルと話したいから 頑張って起きよう

X月X日 今日は1人ですごした 元の生活に戻っただけなのに、 すごく寂しい 早く明日になって欲しいな

XX月X日 宣告された余命まであと半年 今までは死ぬ覚悟は できていたつもりなのに 死にたくない スマイルと生きていたい 薬を飲んでも改善しないのに 薬のために病院に拘束されて… どうすればいい？

XX月X日 看護師さんに スマイルのことを話したら ｢恋してるんじゃない？｣って言われた そんなことない！だって男だよ！？ 確かにスマイルは綺麗な顔してるけどさ

XX月XX日 何度も考えたけど やっぱり恋なのかな うわー、恥ずかし... 初恋？初恋が男なの？ いや、スマイルは可愛いけどね！？

XX月XX日 考えれば考えるだけ好きになってきた でも告白とかはしない スマイルを苦しめたくないから っていうのは建前で 将来俺以外の奴と恋愛してるスマイル 想像しただけで腹が立ってくる...

XX月XX日 薬をやめよう そして スマイルと楽しい思い出を作るんだ

X月XX日 今日は海に行った！ スマイルに 色をどれくらい詳しく教えられるのか 俺の語彙力が試されていて楽しい

X月XX日 今日は 少し調子が悪いことを隠してたら スマイルにバレて お出かけ禁止された なんでバレたんだろ スマイルは俺の事 俺と同じ｢好き｣でみてくれてる わけじゃないはずなのに 自惚れちゃうなぁ

X月XX日 今日は...

X月XX日 目が覚めると 立てなくなっていた 2日くらい寝てたんだって 最近...というか四六時中ねむい 体力が減ってるのかな

病室はやっぱり暇だ

スマイルに会いたいな

スマイルには俺なんかに縛られず 幸せな人生を送って欲しい

好きだ

ごめん

ずるくてごめん

これを言ってしまったらきっと スマイルはずっと気にしたまま 人生を送ることになる

でも、おれはそれでも

忘れないで欲しいんだ 君をこんなにも好いた男が いた事を

好きすぎて大好きで愛していて 君に一生解けない 呪いをかけてしまうような 俺の事を

生きているうちに言ったらきっと 死ぬのが怖くなるから

ねぇスマイル、好きだよ

君の一生に 俺を連れていってください

わかってた

あいつが俺を好きなことくらい 俺があいつを 好きになってしまったことくらい

きんときもきっと分かってた

でも、未来は約束できないから

最後の文の通り きんときは自分の見てきた世界を 俺に託したんだ

見えないから出会ったお前とは 見えるようになった今はきっと 出会えないんだろう

でも 空の｢水色｣も 葉っぱの｢赤｣も ｢緑｣も｢黄色｣も 海の｢青｣も

全部お前から貰ったものだから

2人で生きよう

見える俺と ︎︎ ︎︎ ︎︎  ︎︎ ︎︎見えないお前で──