重厚な扉が静かに開き、外の涼しい夜風が屋敷の中に少しだけ入り込む
高峰理人が先に降り、助手席側のドアを開けた玖堂徹は無言のまま屋敷へと足を進めていった
後部座席の扉が開く
柊 朔弥
、、、えっと
朔弥の顔に戸惑いの色が滲む
高峰が苦笑を浮かべ軽く顎で屋敷を指した
高峰理人
ほら、入ろーぜ
高峰理人
別に噛みつかれたりしないからさ
朔弥は一瞬、玄関の奥を見つめる
知らない場所
知らない人間
だけど、朔弥に逃げ場はなかった
恐る恐るといった様子で足を踏み出し、ゆっくりと屋敷の中へ
入った瞬間
?
あ、おかえりー
暖かくて、優しい声が朔弥の耳に飛び込んできた
玄関の先、キッチンとリビングが繋がった開けた空間にいた男が
手にしていたふきんを置いて朔弥に近づく
?
あれ?その子は?
ゆるく結ばれた茶髪、前掛けをした男――
彼が少し眉を上げると、高峰がドアを閉めながらぽつりと言う
高峰理人
ほら、徹が前に言ってた
?
あぁ、なるほど
深く詮索することもなく、男は納得したようにふんわりと頷いた
そして、朔弥の正面に立って目線を合わせるように少しかがみ、にっこりと微笑む
東條 絢斗
俺、東條絢斗
東條 絢斗
ここの料理人?っていうか、、、まぁ雑用
優しげな声と、どこか安心感のある目元
柊 朔弥
、、、
朔弥は言葉を返せず、ただ俯いたまま黙っていた
東條 絢斗
まぁ、無理に話さなくていいよ
東條 絢斗
ここは、すぐ追い出されたり、殴られたりってとこじゃないから
そして、キッチンの奥のテーブルを指差す
東條 絢斗
寒かったでしょ?
東條 絢斗
お茶あるから温めな?
その声はどこまでも穏やかだった
戸惑いと不安に染まる朔弥の中で、それがどれほどの救いになったかは分からない
ただ――
“奴隷”という扱いをされていた自分に向けられた、あまりにも自然な“優しさ”に
朔弥は少しだけ、手を強く握りしめた
この屋敷が地獄かどうかはまだわからない
けれど、今までいた場所とは、何かが違う気がした







