過去のお題参加作

スマートフォンに表示されているのは

銀行のアプリ画面と、5000万円を少し越えた残高表示

なのにそれを見ても胸が高鳴ることもなく

ハハッと乾いた、嘘くさい笑い声だけが漏れる

確かに高額と言えば高額なのかもしれないが

宝くじの一等にすら遠く及ばない額だ

よほどうまくやらない限り

人生をやり直せるほどではないだろうし

そもそも契約を破棄するためには

融資金をそのまま返さなければならない

言ってしまえば、最期の遊興費用だ

どんなに必死に生きても、どんなに誠実でいても

しょせん人間はその程度の価値しかないのだと自嘲が口をつく

手にした鉄パイプで、目の前のものを殴り付ける

もうとっくに動かない

なのにそれすら腹立たしくて、何度も何度も打ち付けた

部屋の中はひどい臭いだ

そこに、引きちぎった自分の髪をばらまき

後ろ向きに、無理やり引きずられているように、歩く

転んでも気にしない

むしろそれくらいがちょうどいい

俺は今、何者かに父親を殺され

自分自身もどこかに誘拐される被害者だ

玄関までたどり着き、スマホで電話をかける