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コメント
1件
うわあ、第34話……めちゃくちゃ重くて、でも温かい回でしたね。いるまが「♡♡♡れる覚悟」から「生き抜く覚悟」に切り替わる瞬間、心が震えました。そして「躾部屋」から戻ってきたなつが、すべてを許すようにいるまを抱きしめて「生きててくれてありがとな」──あの台詞、ずしんと来ました。過去と現在が重なる構成が美しくて、二人の関係性の深さに泣きそうです。続きが待ち遠しい……!
#ご本人様には一切関係ありません
m!ki
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るななっち
759
いるま
俺は全方位360°見回し
絶句した
まじかよ
ついさっきまで
この場にあった“はず”のもの
「監獄」と名高い帝国資料館
世界屈指のセキュリティを誇るそれは
跡形もなく消失していた
金属の一欠片さえ残っていない
いるま
次に足元に視線を移した俺は
息を呑む
資料館に取って代わるように現れた
半径数十メートルにも及ぶ巨大なクレーター
なつが放った 巨大魔法の跡にほかならないそれは
俺の足先僅か数ミリ手前まで迫っていた
言葉通り
間一髪
今俺が生きているのは奇跡と言えよう
改めて思う
よく生きてたな、俺
雲の切れ間から射す月光
クレーターの中央で一人佇(たたず)む暇なつが
まるでスポットライトを浴びているかのように
鮮明に映し出される
いるま
右腕を切り落としてからだろうか
俺の頭は驚くほどクリアだった
今なら
彼の発した言葉の意味が理解できる
彼は
名前を呼んだ
俺の名だ
なつは俺を
“いるま”を捉えた
そうか
お前も抗ってたんだな
共に過ごした数々の思い出は
彼の記憶から消え去ってはいなかったのだ
ようやく
思い出してくれたのだ
なら……
思わず溢れ出しそうな涙をぐっとこらえ
俺は拳を握りしめる
俺が今やるべきことは一つしかない
いるま
いるま
一度大きく深呼吸をし
覚悟を決める
そして
まっすぐ彼を見据え
駆け出した
死ぬ覚悟…?
違う
最後まで戦い抜く覚悟
生き抜く覚悟だ
運命は始めから決められている
十九歳 如月十九日
俺は今世も
二十歳の誕生日を迎えることなく死ぬだろう
足掻こうが喚(わめ)こうが
この事実が変わることはない
時刻は23時57分を過ぎている
あと残り数分で消える命
決して長くないこの人生を
彼の手で終えられるのなら
悪くはないと思っていた
彼が見送ってくれるなら
むしろ幸せなのではないか
そう思っていた
でも違った
洗脳された状況下であっても
彼は俺を見てくれた
名を
呼んでくれた
俺には
そんな彼の想いに応える義務がある
殺されるわけにはいかない
彼に
俺を殺させるわけにはいかない
いるま
襲い狂う火の粉を払い除けながら
俺は叫んだ
いるま
ようやく顔を出した彼の意識が
再び深く潜っていかぬように
繋ぎ止めるように
いるま
視界が霞む
感覚がない
痛覚も…平衡感覚だって例外ではない
俺は今
うまく走れているのだろうか
醜態を晒しているだろうか
どうでもいい
俺は死なない
まだ死ねない
死んでたまるか
いるま
俺は動き続けた
叫び続けた
この命尽き果てる
その瞬間まで
寒空の下
午前零時を刻む鐘の音が
辺り一帯に響き渡った
いるま
冷静でありつつも どこか嬉しさをはらんだ声で彼に問いかける
彼が俺に負い目を感じているとすれば
その理由は一つしか考えられない
暇なつという男は 相手を思いやることのできる人間だ
だからこそ
あの頃の記憶が蘇った今
こんなにも苦しんでいるのだ
「声も聞きたくない」なんて
心ないことをつい口走ってしまうのも 無理はない
俺には分かる
……
分かった上で、、、あえて言おう
流石にちょっと
傷つくなあ___
よし
あとでシバこ
いるま
気持ちを切り替えた俺は
部屋の隅っこで微動だにしない相棒へ 声をかけた
暇72
いるま
暇72
いるま
唐牛(かろうじ)で返ってきた言葉が
俺の心を酷く抉る
「ごめんなさい」
いるま
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
まるで呪いのように繰り返し呟く彼
ああ……
俺はどうすれば良かったのだろう
もっと早く伝えておくべきだったのか?
でも、どうやって?
「俺とお前はずっと昔に知り合ってたんだぞ」 って言うのか?
「お前に殺されかけたこともあるぞ」 って言うのか?
………無理だ
あんな苦しい記憶
誰が好き好んで思い出させるものか
忘れたままで良かった
思い出して欲しくなんてなかった
………………
嘘だ
彼の記憶が戻って どこか喜んでいる自分がいる
あれこれと理由をつけて自身を説得してきたが
結局俺は
彼に思い出してほしかったのだろう
じゃなきゃ
こんなにも嬉しいはずがない
やはり俺は自分勝手だ
本気で彼のためを思うなら
俺が永年進めてきた“調べ物”に 彼を加担させるべきではなかった
もっと言うなら
あの日
街の表通りで兵に絡まれていた彼を 助けなどしなければ良かったのだ
強引に連れ帰って 飯など食わせなければ良かったのだ
だが
俺はそうはしなかった
俺のせいだ
あれもこれもそれも全部…
全部俺の責任だ
俺の軽率な行為の数々が
彼をここまで追い詰めたのだ
俺が、なんとかしなければ
俺が、___
いるま
ゆっくり
一歩、また一歩と
彼の側へと歩み寄る
暇72
コツ…コツ…コツ…
どう頑張ったって過去は変えられない
でも
大事なのは今だ
暇72
コツ…コツ…コツ…
俺の懐に溜めてきたこの想い
ちゃんと言おう
ちゃんと伝えよう
そうすれば___
暇72
暇72
よくやく彼のもとに辿り着いた俺は
喚(わめ)く彼を強く抱きしめた
かつての彼が俺にそうしたように___
いるま
暇72
双鬼時代
暇なつという男に恐怖感を抱いたあの事件
あの大暴走から5日が経過したある日の早朝
行方知れずだった彼の姿がそこにあった
分厚い扉の付いた小部屋から引きずり出され ゆっくりとこちらへ近付いてくる彼
「今まで何をしていたのか」
そんな野暮な質問をする奴は 俺たちの中には一人としていない
みんな分かっていた
彼がこの5日間
どんな目にあっていたのか…
この実験施設には今いる実験場の他に
数多の小部屋が存在する
が、
各小部屋には鍵が何重にも重ねがけされていて
普段は接近することすら許されていない
俺たちが出入りできる部屋といえば
この実験場と隣の大部屋くらいだし
その他の場所について知っていることは少ない
謎に包まれた小部屋たち
そんな数多あるそれらの一番奥
腐臭漂う鉄臭いその扉が
極稀に開くことがある
任務を失敗した
施設職員に反抗した
実験が思った通りにいかなかった
ets…ets…
そんなときに
その扉は静かに口を開ける
「躾部屋」
誰かがそう呼んでいた気がする
そんな凶悪じみた部屋に
彼は監禁されていた
施設職員らは恐れたのだ
強大な力を持つ彼の牙が
いつか自分たちに向く日が来ることを
事実、あのときの暇なつには 相棒の俺ですら危機感を抱いた
敵味方の区別すらついていない錯乱状態
誰も彼をとめることなどできなかった
幸い彼の体力は底をつきかけており
ものの3分も持たず気絶したのだが……
もし彼が体力切れを起こさず あのまま暴れ続けていたとしたら
俺たちはどうなっていたのだろう
そんな事を考えている間にも
彼は一歩、また一歩と歩みを進める
乱れた包帯の下に見える数々の瘢痕(はんこん)
無数の注射痕に
爪の剥がされた血まみれな指先
こんなの…躾じゃなくて拷問だろ
見たくないのに目が離せない
いるま
___苦しい
ズル…ズル……
彼の頼りない足取りが
ズル、…ズ
俺の目前で停止する
暇72
いるま
ゆっくりと膝をつく彼と目を合わせ、驚いた
身体はこんなにもボロボロだというのに
彼の瞳にはまだ
光が宿っていた
暇72
まるで何事もなかったかのように
いつもと変わらない
あたたかな笑みを見せる暇なつがそこにはいた
いるま
俺の問いかけを聞いているのかいないのか__
彼は黙ったまま
そっと俺を抱きしめ
頭を撫でた
いるま
なおも無言を貫くなつ
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
分からない
なつが何を考えているのか分からない
__怖い
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
いるま
暇72
いるま
ようやく口を開いたなつは
泣きじゃくる俺の顔を上げさせ
目尻にたまった涙を拭って言った
暇72
暇72
その後どうなったのかはあまり覚えていない
ただ
彼の腕の中は
とてもあたたかくて
心地よかった