淡い夢を見ていた
夏帆
…ん
湊
おはよう
夏帆
…おはよう
湊
朝ごはん、出来てるよ
夏帆
え…?
夏帆
うそだ、今日の担当私なのに
湊
早く起きないから作っちゃったよ笑
夏帆
うう…
夏帆
ありがとう
湊
顔洗ってきてね
夏帆
うん
ちゅっ
夏帆
…もう
湊
大好きだよ
夏帆
なあに?急に?笑
湊
なんでもない笑
湊
待ってるから、顔洗っといで
夏帆
うん
夏帆
よし
ガチャ
夏帆
お待たせ
夏帆
そこには誰もいない
もちろん 朝ごはんなんてない
夏帆
…もう、やめてよ
夏帆
逢えないのに
思い出させないで…
思い出させないで…
結婚して最初の休日に ドライブに行った
水族館に行って 公園でお弁当を食べて
夕飯の買い物をして 帰るはずだった
だけど
公園の駐車場を出てから 少しして
反対車線の横断歩道を 歩く小さな子供がいた
湊
可愛いね
そんなことを言う彼は すごく幸せそうな顔だった
夏帆
一人で渡れそうだよ
湊
ほんとだ
湊
凄いね
でも
こちらに向かってくる対向車は 気付いていなかった
夏帆
あ、危ない…!
直前でハンドルを切った 対向車は
私たちの車にぶつかった
彼は私を守るように 覆いかぶさって
数時間後に息を引き取った
幸いにも 子供は無傷
対向車の運転手は 骨折のみで済んだ
そんな事実を うまく飲み込めなくて
全て封印した
閉じ込めて 思い出さないように
それなのに 最期の言葉が
脳に
鼓膜に
全身に
こびりついて離れない
思い出すことを やめたはずなのに
たまに囁くように 聞こえてくる
湊
ごめ…ね
湊
あ、い…して、る
その声が、ひどく
優しく
響いた