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朝、通勤通学の人であふれかえる 駅前の道を、私はバス停に向かって ひとりでとぼとぼと歩いていた。

チリン

とベルを鳴らして、自転車に乗った学生が私の横を通りすぎていく。

その背中を見送りながら、私は小さくため息を吐いた。

広崎梨奈

はぁー(((ボソッ

これまでは毎朝のように加瀬くんの隣に並んで、駅からバス停までの道を歩いていたのに

このところサッカー部は毎日朝練があるため、私は最近ずっとひとりで 登校している。

仕方のない事だと分かってはいるけれど、付き合い始めたばかりなのに

加瀬くんと全然二人で居られなくて、本当はちょっぴりさみしい。

だからせめて、視界に加瀬くんを入れておきたくて、休み時間も授業中も、

気づくと目で加瀬くんを追ってしまっている。

(|・ω・)|ガラガラ

教室についた私は、今日も無意識に加瀬くんの姿を探していた。

窓際の壁にもたれながら、数人の男子達と話をしている加瀬くんを見つけ、胸が トクン

と、音を立てる。

そっと見つめていると、親友のさつきが冷やかしてきた。

さつき

また、見てる。

広崎梨奈

う、だって…

さつき

今度二人で会う時に、じっくり見せてもらえばいいじゃん。

さつき

彼氏なんだからっ!

広崎梨奈

い、一緒にいる時はまともに見られないもん。フリーズしちゃうから……

広崎梨奈

ていうか、私はただ顔が見たいだけじゃなくてっ…

さつき

え?フリーズしちゃうって、それ、
もう克服したんじゃなかったの?

広崎梨奈

ううん、全然だよ。でもね、加瀬くんといるとフリーズしてたのに、

広崎梨奈

いつの間にか話せるようになる時があるの。気がついたら言葉が先に出てた、みたいに突然。

さつき

ふーん。愛の力っていやつかな?

さつきが感心したようにつぶやいたその時、

男子1

おーい、加瀬!

加瀬くんを呼ぶ声が聞こえて、私は反射的にそっちの方に顔を向けた。

廊下には、加瀬くんを呼んだ同じクラスの男の子と、栗色のショートヘアーの、可愛らしい女の子が立っていた。

同じ学年ではないから、多分一年生。

パッチリした瞳でちょっぴりベビーフェイスな顔つきは、同性の私から見ても可愛いな、と思うり

加瀬君は彼女の姿を見つけると 「あ」 という顔をして近寄って行った。

加瀬君の周りにいた男の子達は、興味津々といった様子で見守っている。

加瀬功太

俺に用事?何かあった?

一年

あの、こら、早く渡したくて…

彼女は何かを両手に乗せて、加瀬君の前に差し出した。

加瀬功太

あっ!

と声をあげて加瀬君が彼女の手から、 ユニフォームの形をしたキーホルダーを、指でつまみあげる。

加瀬功太

うわ、これどこにあった?

加瀬功太

俺、もう見つからないと思って、諦めてたんだよね

一年

今朝、自転車置き場で見つけたんです
先輩が探しているといけないと思って、それで…

加瀬功太

さんきゅ!助かったよ!

加瀬君がクシャッと微笑むのと同時に、彼女の頬がぽっと赤く染まった。

広崎梨奈

(……あの子、加瀬君の事が好きなのかな…)

加瀬君は同じ学年だけでなく、後輩からも人気があるということは噂に聞いていた。

だからこうやって、他の女の子が加瀬君と嬉しそうに話しているのを見るだけで、なんとなく心がざわざわして落ち着かなくなってしまう。

彼女は加瀬君と話しながら、自分の鞄を指さしている。

つられるように彼女の鞄に目を向けた私は、はっと息をのんだ。

広崎梨奈

(う、そ…。
 加瀬君と同じキーホルダー…)

ペコっと頭を下げて、彼女は廊下で待っていた友達の所に走って行く。

きゃっ とはしゃぐように友達と話しながら去って行く後ろ姿を、私は無意識に目で追っていた。

広崎梨奈

(…私、嫉妬してる?彼女は、加瀬君が落としたキーホルダーを拾ってくれただけなのに…)

広崎梨奈

(だけど、どうしてあの子、加瀬くんと同じキーホルダーを持っているんだろう。)

男子1

あの子1年?可愛いじゃん!

男子2

また告られたのかよ…

加瀬功太

そんなんじゃないし…

みんな冷やかす声をうしろに 聞きながら、私はうつむいた まま教室を出た。

ジャー

手洗い場で意味もなく手を 洗い終えると、ハンカチを 手にしたまま、ぼんやりと 立ちつくす。

加瀬君の気持ちを、疑ってはいない。

けれども、加瀬君とさっきの彼女の関係が、気になって仕方がない。

広崎梨奈

(中学の後輩とか?ううん、もっと親しい関係だよね…)

広崎梨奈

(元カノ、かな?そうじゃ無かったら
お揃いのキーホルダーなんて、持ってるはずないもん…)

突然私の顔に、ぱしゃっと水しぶきがかかった。

顔を上げると、一年生の時に同じクラスだった三浦君が、いつの間にか隣に立っていて、指ではじいて水を飛ばしてくる。

三浦

ぷっ。

三浦

梨奈ちゃん、そんなに驚いた顔しなくても笑

考え事をしていてぼんやりしていた私は、かなりびっくりした顔をしていたらしい。

広崎梨奈

あ…。いきなりだったから。

広崎梨奈

もー冷たいよ、三浦君…

三浦

梨奈ちゃん、セリフ棒読み笑

広崎梨奈

そ、そう?

三浦

何かあったの?

広崎梨奈

え?

三浦

心ここあらず、って感じだから。

三浦

僕でよかったら、話きくよ?

広崎梨奈

広崎梨奈

あのね、もしも、の話なんだけど…

三浦

うん

広崎梨奈

女の子とお揃いのキーホルダー付けるとしたら、三浦君は誰とお揃いで付ける?

三浦

え、キーホルダー?

三浦

うーん。そうだなぁー。

三浦君は、小首をかしげて少し考えてから口を開いた。

三浦

普通は彼女とか仲のいい友達とか、かな?

広崎梨奈

友達と、でも?

三浦

うん。例えば一緒にいいの見つけて、ノリでお揃いで買ったりとか?

広崎梨奈

ノリで、ね…

三浦

えっとね、僕の場合だと、真理ちゃんがプレゼントしてくれたのと、ゆかり先輩の買い物につきあって買ってもらったのと……

三浦

あ、そうだ。久美ちゃんが手作りしてくれたのもつけてるよ!

広崎梨奈

………

三浦

これ多分、それぞれにお揃いみたいだけど(●︎´▽︎`●︎)

そう言って、三浦君はニッコリと微笑んだ。

広崎梨奈

(そうだった…。三浦君はちょっと特別な感じの人だから、聞いても参考にならいかも…)

なんだか脱力してしまった私だったがとりあえず三浦君にお礼を言う。

広崎梨奈

ありがとう。突然、変なこと聞いてごめんね?

三浦

ね!誰のキーホルダーの事、そんなに気にしてるの?

広崎梨奈

あ、えっと…

三浦

梨奈ちゃん。僕がきいてあげようか?

広崎梨奈

え…?

三浦君は私に顔をよせて、 小声でささやいた。

三浦

僕からさり気なく聞いてあげてもいいよ?加瀬ちゃんに。

広崎梨奈

か、加瀬君の話ってわけじゃ……

三浦

梨奈ちゃん、顔に出るからすぐ分かるよ。

三浦

そっかそっか、加瀬ちゃんが他の女の子とお揃いのキーホルダーを付けるのを見て、不安になっちゃったんだね?

広崎梨奈

う……

ヤキモチを妬いているのに気づかれて 恥ずかしくなった私が顔を赤くすると 三浦君はクスクス笑いながら私の頬にチョンと指でついてくる。

三浦

ほら、ほっぺたピンク。素直だね、梨奈ちゃん!可愛いー!

加瀬功太

広崎

名前を呼ばれてドキリとして後ろを振り向くと、加瀬君が不機嫌そうな顔をして立っていた。

三浦

あ、加瀬ちゃん!ナイスタイミング!

三浦君は人懐っこい笑顔を見せて、加瀬君の肩をポンと叩く。

加瀬功太

選手交代。あとは、よろしく。

三浦

は?

三浦

そうだ!元カノか女友達か知らないけど、梨奈ちゃんを不安にさせたらダメじゃん!

加瀬功太

え?

広崎梨奈

ちょっ……

広崎梨奈

三浦君…

三浦

じゃあ、またね!梨奈ちゃんバイバイ

三浦君は、そのままクルッと背中を向けたまま、手を振って言ってしまった

広崎梨奈

(うぅ、気まずい…。何か話さなくちゃ…)

広崎梨奈

(加瀬君、三浦君に突然あんな事言われて、変に思っただろうな。)

広崎梨奈

あ、あの、三浦君が言ったことは、その…

あわあわしながらごまかそうとすると 加瀬君がふいっと顔をそむける。

加瀬功太

広崎は仲良いね、三浦と…

広崎梨奈

え?うん。

加瀬功太

……

広崎梨奈

加瀬君?

まとう空気が、いつもと違うように感じて戸惑っていると、加瀬君は、ハッとした顔をして、髪をクシャッとした。

加瀬功太

はぁ、俺って、ちっさ…

広崎梨奈

加瀬功太

ごめん、なんでもない。

加瀬功太

そうだ。さっき三浦、元カノがどうか言ってたよな?

加瀬功太

それって、俺の話?

広崎梨奈

う、うん。あ、でも……

加瀬功太

だったら、広崎は何も考えなくていいよ?だって俺、初めてだから…

広崎梨奈

初めて?

加瀬功太

うん。ちゃんと付き合ったの、広崎が初めて。

広崎梨奈

(嘘っ!ほんとに?加瀬くん、あんなにモテるのに…)

加瀬くんのすんだ瞳が、真っ直ぐに私を見つめてくる。

加瀬功太

元カノなんて、いないから。

加瀬功太

だからそんなこと、心配する必要ない。

広崎梨奈

あ……

ぱぱっと俯いた私は、赤くなった顔でコクンとうなずいた。

広崎梨奈

(……胸の音、凄い。これ以上見つめられたら私、絶対フリーズして話せなくなっちゃう。)

胸に手を当てて、ドキドキが落ち着くのを待っていると、加瀬くんが

加瀬功太

あ!

と思い出したように声をあげた。

加瀬功太

そうだ、大事なこと言うの、忘れるところだった!

加瀬功太

明日さ、サッカー部の朝練が無くなったんだ!

広崎梨奈

あ、あの、それなら朝……

加瀬功太

うん!明日の朝は一緒にバス停まで行けるよ!だからいつもの時間に駅で待ってて!

コクコクと頷いて返事をすると、加瀬くんがふわりと微笑んでくれる。

広崎梨奈

(明日の朝は、加瀬くんの隣に並んで歩けるんだっ!)

そう考えるだけで、ふわふわと気持ちがはずんでくる。

加瀬功太

やっぱ俺、ちょっと早く行こっかな!

ぽり、と鼻の頭をこすって、加瀬くんが照れたようにつぶやいた。

加瀬功太

だって久しぶりだからさ、朝、広崎と一緒に行けるの。

広崎梨奈

あ……

ぶわっとまっ赤になりながら、小さな声でつぶやく。

広崎梨奈

わ、私も……一本早い電車で……

加瀬功太

うん、待ってる

私を見下ろす加瀬くんの耳は、私と同じように赤くなっていた。

広崎梨奈

はぁ……

放課後、家に帰って自分の部屋の床にぺたりと座る。

ベットにもたれながら、私はため息を吐いた。

なんだか胸が苦しい。

加瀬くんのことを考えるだけで、 「きゅん」 と胸がうずいて切なくなる。

今日も学校で会って言葉をかわしたのに、もう会いたくてたまらない。

加瀬くんの声が、ききたくなってしまう。

恋をする女の子は、ちょっぴりよくばりになるのかもしれない。

広崎梨奈

(加瀬くん、今、何してるかな?
 もう寝ちゃったかな?)

広崎梨奈

(部活の練習で疲れてるのに、電話したら迷惑かな…)

広崎梨奈

……

広崎梨奈

メールくらいなら、いいよね…

思い切ってメールだけでも送ろうとスマホに手をのばしたとき、フッとあの一年生の女の子のことが頭をよぎった

広崎梨奈

(あの子、誰なんだろう。)

『元カノ』でないことは加瀬くんの言葉から知ることが出来たけれど、

どうしてあの女の子とおそろいのキーホルダーをもってるのかは、まだ聞けていない。

でも今は、嫉妬とかそういう感情を加瀬くんに見せたくない。

大好きな加瀬くんと、やっと気持ちを通わせることが出来たんだもん。

今はその甘い余韻にひたっていたい。

スマホを手にとった私は、結局メールを送るのはやめて、かわりにWebの小説投稿サイトで公開している日記を開いた。

恋助さんから私にメッセージが届いてる。

恋助さんは、私の好きなWeb小説家だ

心理描写が丁寧に書かれた彼の恋愛小説は、男女問わず人気がある。

以前、小説を読んでコメントを送ったことがきっかけで、ときどき私の恋の悩みをきいてくれている。

私の相談内容は、Web上の日記に書きこんで、恋助さんも利用している小説投稿サイトで公開することになっていた。

日記を読んだ恋助さんがその日記にコメントを送るという方法で、私にアドバイスをしてくれる。

もちろん誰に読まれてもいいように、加瀬くんや私の名前は出していない。

ちなみに私のユーザーネームは『ヒナ』だ。

『ヒロサキ リナ』 の最初と最後の二文字を合わせて『ヒナ』。

恋助

『ヒナさん、その後、彼とは順調ですか?

恋助

フリーズしないでいる時間も増えてるみたいだし、これからもヒナさんのペースで頑張って下さい。

恋助

何かあったら、いつでも相談に乗りますよ』

モヤモヤしていた私は、日記にキーホルダーの事を書き込んだ。

ヒナ

『ひとつだけ、彼の事で気になる事があります。

ヒナ

彼が後輩の女の子と、お揃いのキーホルダーをつけているのを見てしまったんです。

ヒナ

しかもお互いに、お揃いである事を知ってるみたいでした。

ヒナ

相手の女の子との関係は分かりません。

ヒナ

でも、元カノではないそうです。

ヒナ

彼女とどういう関係なのか聞きたかったけれど、付き合い始めたばかりなのに疑っているようで、彼に直接聞けませんでした。』

ちょうど私の日記を読んでくれていたようで、すぐに恋助さんからメッセージが届く。

恋助

『付き合い始めたばかりで彼に聞きにくい気持ちも分かりますが、僕は彼に直接確かめる方がいいと思います。

恋助

もしかしたら、ペアじゃなくて、複数の仲間で持っている可能性もありますよね。

恋助

だからやっぱり彼に直接聞いてみて
もしその後輩の女の子と2人だけのお揃い物だとしたら、ヒナさんが嫌な思いをしている事を伝えた方がいいと思いますよ』

ヒナ

『確かに、私が見たのが2人なだけで、2人だけでお揃い、という訳ではないかもしれません。

ヒナ

明日彼に直接聞いてみる事にします

ヒナ

アドバイス、ありがとうございました!』

広崎梨奈

はぁ…

広崎梨奈

もう寝よ…

広崎梨奈

おやすみ…

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