テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
病室の窓辺。 午後の陽が、カーテンの隙間から差し込んで、彼女の髪に優しく光を落としていた。
俺は、その隣に腰かけて ふたりで黙って空を見ていた。 冬の空はどこか寂しくて、でも透明で 全部の想いが吸い込まれていく気がする。
秋保 楓花
彼女が、ぽつりとつぶやいた。
秋保 楓花
思わず、息を止めた。 でも、彼女の声は穏やかだった。
秋保 楓花
秋保 楓花
及川 徹
及川 徹
秋保 楓花
彼女は、小さく笑った。
及川 徹
秋保 楓花
空を見上げながら、願った。 どうかこの手の温もりが 少しでも長く、続いてくれますように。
*゚♡o+:;;;:+o♡o+:;;;:+o♡o+:;;;:+o♡o+: 楓花が入院してから、あたしが病室を訪ねるのもすっかり日課になっていた。 たまに一緒にネイルを塗り合ったり、 雑誌を広げて恋バナをしたり。
他愛のない会話が、どれほど大切なものかなんて、昔のあたしには想像もできなかった。
その日、病室に入ると、窓が少しだけ開けられていて、冬の澄んだ空気がひんやりと漂っていた。
楓花はベッドに寄りかかりながら 空を見上げていた。
絵梨奈
あたしが軽く言うと、楓花は振り返って 柔らかく笑った。
秋保 楓花
あたしはその横に腰かけて 彼女の視線を追う。 どこまでも青く、吸い込まれそうな空。 まるで、涙も悲しみも包み込んでくれるような、大きな空だった。
秋保 楓花
彼女の言葉に、あたしは一瞬だけ息をのんだ。 けど、楓花の顔は不思議と晴れやかで すべてを受け入れた人の目をしていた。
秋保 楓花
胸の奥がぎゅっと苦しくなって 涙がにじんだ。
秋保 楓花
楓花がそっと目を細める。 その横顔が綺麗すぎて あたしは言葉を失った。
秋保 楓花
絵梨奈
涙がこぼれて、止まらなかった。
あたしはあのとき、楓花のことが羨ましかった。 自分の命が限られていると知りながら それでも誰かを想って、想われて 未来を紡ごうとする姿が、ただただ美しかった。
それからも時は流れて 病室の中は、静かだった。 妙に時間の流れがゆっくりで 時計の針の音だけが やけに大きく聞こえる。
窓の外では、枯葉が風に舞っていた。 あの日、彼女とお花見した桜の木は 少しずつ春の準備をしていた。
……季節は、ちゃんと進んでるのに。
及川 徹
ベッドに寝ている彼女の手を、そっと握る。 昔は、小さくても体温のあるその手が 今は驚くほど軽くて、冷たかった。
彼女はもう、ほとんど話せなくなっていた。 唇がかすかに動いても、声にはならない。 それでも、目だけは 俺のことをまっすぐに見ていた。
及川 徹
言いながら、自分でも声が震えてるのがわかった。 強く握ったつもりの彼女の手は そっと俺の指に応えてくれるだけで もう何も言わなかった。
及川 徹
名前を呼ぶたび 何かが壊れていきそうで怖かった。
及川 徹
そう呟いたとき、不意に彼女の手が かすかに俺の指をぎゅっと掴んだ。 それだけで、胸が締めつけられた。
及川 徹
瞼をそっと持ち上げた彼女が 俺のほうを見た。 細くなった声が、やっとの思いで絞り出される。
秋保 楓花
その声を聞くだけで 心臓がぎゅっとなった。
秋保 楓花
言葉の隙間に、呼吸を挟むようにして 彼女は微笑んだ。
秋保 楓花
及川 徹
及川 徹
彼女の瞳に、光が揺れた。
及川 徹
彼女が微笑む。小さく、やわらかく 最後の花のように。
秋保 楓花
かすかに震える唇が、最後の言葉を紡ぐ。 俺はその手を、そっと額に当てて 祈るように目を閉じた。
及川 徹
沈む夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。