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ようやくたどり着いた村に 2人を送り届けた
何度も深く頭を下げる 村人たちを前に
俺はただ一度、小さく頷いた
その動作に
言葉以上に たくさんの思いを込めて……
踵を返し、歩く
静寂の中、背後で 村のざわめきが遠ざかっていく
隣を歩く爽の存在が まるで、灯火のように
俺の胸を温めた
それだけで 少しだけ歩幅が軽くなる
………………だが
─────フッ
─────まるで 地面そのものが、音もなく 抜け落ちたような錯覚……
一歩…… 次の足が出るはずだった場所に 何も無い
体の芯が浮く
心だけが ずぶり、と沈んでいくような感覚だった
ガクッ、と 足の力が抜けた瞬間
胸の内で何かがざわめき 呼吸は急激に浅くなっていく
空気が喉を通り抜ける度に
指先が小刻みに震え 額に脂汗がじわりと滲む
身体が崩れ落ちる寸前 爽が駆け寄って、抱き止めた
─────声が、 遠くのようで、近くに聞こえる
短く、浅く、苦しげな呼吸が 喉の奥から洩れる
─────何度も 自分に言い聞かせるように呟き
俺の身体を背中に背負い 森へと向かって歩き出した
揺れる呼吸音と 森のざわめきが重なる中────
ザァァ……と 滝の音が近付いてきた
……そう呟いて 岩にもたれ掛るように座らせた
息の整わない俺を見つめて 小さく眉間に皺を寄せた後────
─────そう言って、川辺に駆け寄る
澄んだ水に布を沈め しっかりと絞り─────
そっと、俺の額に当てた
……か細い声
濡れた布が額に触れた瞬間 ひやり、と冷たさが奔った
焼け付くような熱を帯びていた身体が その一点からゆっくりと鎮められていく
爽の指先は、微かに震えていた
……でも、それを隠すように 静かに顔を寄せ、俺を覗き込む
─────その表情は…泣きそうだった
………でも、
「僕が、しっかりしなきゃ」
────そんな声が聞こえてきそうな程 精一杯、強さを装っていた
─────喉が渇いていた
何か、言ってやりたかった
「大丈夫だ」、「ありがとう」と……
─────でももう、言葉が浮かばない
視界の端が霞んで、ぼやけて……
それでも、爽の顔だけは 何故かくっきりと見えていた
─────このまま 瞼が降りていくことが…惜しくて……
そう願ったところで ふっと、重力に引かれるように…
意識の底へと、沈んでいく
爽の手のぬくもりと 冷たい布の感触だけが
微かに、残っていた