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夕焼けの中、 彼らは知らなかった。 この選択が―― ルカの“闇”の始まりになることを。
ルカ
ルカが小さく呟くと、隣でユウが肩をすくめた。
ユウ
ルカ
ユウ
ナースステーションを抜け、エレベーターで上階へ。 ルカが指を鳴らすと、ごく微弱な転移魔法が発動する。 その瞬間。
ルカ
胸の奥が、ひとつ、冷たく抜け落ちた。
ルカ
一瞬の違和感。 でも痛みはない。 HPも減っていない。
ルカ
ルナ
ルカ
ルカはそう言って笑った。 その笑顔に、ほんの一瞬だけ温度がなかったことに、誰も気づかない。
病室・307号室
カーテン越しに、機械音が一定のリズムを刻んでいる。
ルカ
ルカ
チラシに書かれていた番号。 ルカがカーテンを引く。 ——そこにいたのは。
ベッドに横たわる、痩せた少女。 オレンジがかった金髪。 閉じた瞳。 アリアと、まったく同じ顔。 アリアが、息を呑んだ。
アリア
医療モニターに表示された病名。 Scorching Heat Disease(灼熱症候群) 原因不明。進行性。
ルカ
ルカは、ベッドに近づく。 そっと、少女の額に手をかざす。 魔王級の治癒魔法を、極限まで抑えて流し込む。
その瞬間。 ——世界が、軋んだ。 視界の端が赤く染まり、 胸の奥で何かが“カチッ”と切り替わる感覚。
感情が、少しだけ遠くなる。 悲しいはずなのに、 苦しいはずなのに、 「そう感じる理由」を思い出せない。
ルナ
ルナの声が、やけに遠い。
だが、次の瞬間。 ピッ—— ピッ—— 医療モニターの数値が、安定した。 少女の眉が、かすかに動く。
地球のアリア
レンが、椅子から立ち上がった。
レン
少女が、ゆっくりと目を開ける。
地球のアリア
——助けてしまった。 その瞬間、ルカの瞳が一瞬だけ、赤一色に染まった。 誰にも見られていない。 ……はずだった。 アリアだけが、それを見た。
アリア
ルカは、何事もなかったように笑う。
ルカ
でもその声は、 少しだけ、他人事みたいだった。
夜風が吹き抜ける。 地球の月は、異世界よりもずっと白くて、冷たい。 ルカは一人、屋上の柵にもたれていた。
胸の奥が、空洞みたいに静かだ。 いつもなら、達成感だの誇らしさだのが湧くはずなのに。
ルカ
そう思おうとした、その時。 ——すうっ。 月光が、人の形を取った。 布のような光。 顔は見えない。 声だけが、直接“頭の中”に落ちてくる。
——代償の自覚は、まだないようですね。 異界の魔王候補・ルカ
ルカは即座に構える。
ルカ
私は“月のつかい”。 世界の均衡が破られた時、その帳尻を告げる役目です
ルカ
あなたは今日、平衡世界の定義を破りました
魔法の存在しない世界に、 魔王級の力を持ち込み、 本来死ぬ運命にあった命を救った
それは“善”ですが—— 世界にとっては違反行為です
ルカは鼻で笑った。
ルカ
ええ。 だから“罰”ではありません
月のつかいは、淡々と告げる。
——代償です
空中に、三つの光が浮かぶ。
あなたの魂は、すでに一つ失われました。 感情は、今後少しずつ薄れていきます
世界の修正力が、あなたの中に “もう一人”を作ります いわゆる多重人格ですねー。はいはい
あなたの意志と無関係に、 世界のバランスを取る行動を取るでしょう
その時、あなたの瞳は赤く染まります
ルカ
はい
しかもー
今後、あなたが再び“地球”に干渉するたび、 代償は積み重なります
魂、人格、記憶、存在—— いずれ、あなたが“あなたである証”そのものが削られる
それでも、やりますか?
ルカ
その答えに、月のつかいは初めて“感情”らしき揺れを見せた。
やはり
あなたは、 最も魔王に近く、 最も人間に近い存在だ
光の身体が、ゆっくりと霧散する。
覚えておいてください、ルカ
あなたは英雄になれます
同時に——
誰にも救われない怪物にもなれる
——スッ。 月光だけが、そこに残った。
ルカは、胸に手を当てる。 ……何も、感じない。 それが、少しだけ「おかしい」と思えた。