翌日、俺と桃は"仮初めの恋人"として学校に登校した。
といっても、特に手を繋ぐでもなく、ただ隣に並んで歩くだけ。
でもそれだけで、周囲の視線は一気に変わった。
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えっ、赤と桃さん!? 付き合ってんの?
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やば、あの桃ちゃんと……マジで!?
ざわめく声。冷やかし。驚き。全部が俺に突き刺さる。
でも当の桃は、涼しい顔で歩いていた。
桃 。
慣れちゃえば平気ですよ、こういうの
赤 。
……桃って、強いな
桃 。
そうかな。
桃 。
むしろ、私は"今しかない"って思うと、なんでもできちゃう
その"今しかない"って言葉に、昨日の言葉がよみがえる。
『1ヶ月だけでいいんです』
あれは一体、どういう意味だったのか。
俺が聞き返すよりも先に、桃がふいに足を止めた。
桃 。
赤くん。
桃 。
今日の放課後、どこか寄り道しませんか?
赤 。
寄り道?
桃 。
うん。
桃 。
恋人なら、デートくらいするでしょ?
いたずらっぽく笑う彼女に、俺は少し戸惑いながらも頷いた。
そして放課後、ふたりで行ったのは近くの商店街。
金魚すくい、ラムネ、焼きそば。
まるで夏祭りの予行演習みたいな、懐かしい景色。
桃 。
こういうの、好きなんです。
桃 。
少し古くさいけど、温かくて
赤 。
なんか、子供の頃に戻ったみたいだな
金魚をすくう姿も、ラムネを飲んで目を細める顔も、全部が眩しかった。
桃 。
楽しいね、赤くんと一緒だと
その笑顔に、軽く心臓が跳ねた。
これは"演技"じゃない。
本当に楽しんでくれてる。そう思った。
仮初めの関係だとしても、俺は_もう、惹かれはじめていた。







