あなたはインターホンを鳴らした
ガチャ…
健人
あぁ、どうも
健人
ご無沙汰してます
健人
兄さんとカノンちゃんは今出かけてて…
健人
中でお待ちください
家の中にて
健人
紅茶を入れたので
健人
よろしければどうぞ?
紅茶の香りが広がる
健人
懐かしいですね
健人
あなたと兄さんが結婚してもう10年ですか
健人
…
健人
暇ですね
あなたは紅茶を一口飲んだ
健人
じゃあ
健人
昔の話でもしましょうか
20年前
私が14歳の頃ですね
兄さんはカッコよくてスポーツもできて
クラスの人気者でした
私と違ってね?
別に恨んじゃいませんよ笑
兄さんは私の憧れでしたから
けんと
今日の試合すごかったね
けんと
さすが兄さんだ
たくと
まぁな笑
けんと
次の練習試合の相手って
けんと
強豪校じゃなかったっけ
たくと
あぁ
たくと
頑張って練習しなきゃな
兄さんはチームにとってのエースでした
そんな兄さんが変わり始めた
ある時から
たくと
健人
けんと
?
けんと
どうしたの?
たくと
俺
たくと
彼女できた
最初は心の底から祝えた
けど…
母
拓人!!
母
あんた部活はどうしたの!
母
最近全く行ってないらしいじゃない!
たくと
うるさいな
たくと
部活ならやめた
母
ちょ、拓人!
母
ちゃんと話を…
けんと
…
あの兄さんが部活を辞めた
その日から
兄さんの輝きはすっかり失せてしまった
健人
その時気付いたんです
健人
人の美しさは一瞬だってね
健人
本当に些細なことだったんですけど
健人
あの時の兄さんのままで「とっておけばよかった」
健人
そう思えてしまいました
健人
大人になってからも
健人
この気持ちは消えませんでした
健人
ほら、周りを見て下さい
あなたは部屋を見渡す
気味の悪い動物の剥製が複数置いてあった
健人
これ、私の努力の結果です笑
健人
生き物を美しいまま「とっておく」ってね
あなたは黙って健人の話を聞く
健人
…ふふっ
健人
でもね
健人
ダメなんですよ
健人
動物じゃダメなんです
健人
兄さんじゃなきゃダメなんですよ!!
バンっ!!
健人は思いっきりテーブルを叩く
健人
あの頃の!
健人
輝いていた兄さんじゃなきゃ!!
健人
あなたにわかるのか!!
健人
この気持ちが!!!
あなたは黙っている
健人
…失礼
健人
どうせ
健人
もうあの頃の兄さんは戻ってこないと思ってました
健人
でもね
健人
そっくりなんです
健人
いまのカノンちゃん
健人
キラキラ輝いていて
健人
まるで
健人
あの頃の兄さんのようだった
あなたは目をこする
健人
おや
健人
やっと眠くなってきましたか
健人
大丈夫
健人
起きる頃には家族3人
健人
美しく輝いてますよ
健人
永遠に…ね?
あなたは動けない
あなたの視界は暗くなっていく
あなたは…