褒めてくれる薬

昔からなんでもできた

勉強、運動、絵も歌もなんでも

でもどれも できていた“つもり”だっただけだった

全部80点くらい

ずば抜けて何かができるわけじゃなかった

才能があるわけじゃなかった

誰も俺自身を見てくれる人はいなかった

俺が残した成績が全てだった

だから頑張った

歌い手になって

リーダーになって

社長になって

みんな｢すごい｣って言ってくれた

でもきっとその｢すごい｣は俺宛てではなくて

どれだけ頑張っても評価されるのは俺の頑張りじゃなくて俺が残した結果

それが少し苦しくて

現実逃避してみんなが俺を褒める夢を見るために薬に手を出した

最初は市販薬でのODだった

でも次第に効かなくなってきてしまった

それから頑張って手に入れたのは違法薬物

すごいんだよ

頑張らなくていいの

こんなに小さな薬を飲み込むだけで俺はみんなに褒めてもらえる

頑張ったねって言って貰える

俺が描いた理想のみんなが 俺を褒めてくれる

それだけで良かった

その後に来る吐き気も不眠も食欲不振も全部全部どうでも良かった

やっと生きがいを見つけた気がしたんだ

でも俺の幸せはそう長くは続かなかった

関西特有のなまりが異様に圧を含んで 俺を刺してくる

可愛い声を震わせながら俺の名を優しく 呼んでくれる

丸く優しい関西弁 それでも疑問形とは思えない圧がある