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第1話 - あ

2023年09月05日

#恋愛

結城　真矢

サチコ

カノンさん、ヒカルは本当にマサトの子供なの！？

カノン

え？お義母さんいきなり何言ってるんですか！

カノン

ヒカルは間違いなくマサトの子ですよ！

サチコ

どうだか。あの子、全然マサトに似てないじゃない

カノン

そんなことないです！似てるじゃないですか！

カノン

生まれた時にも、父親似だって言われてましたよね？

サチコ

ふん、赤ん坊なんてみんな同じサルみたいな顔してるのよ

サチコ

大方あんたが親族やマサトにそう吹き込んで、洗脳したんでしょ！

カノン

そんなことしてません！

カノン

何なんですかさっきから！私が浮気したとでも言いたいんですか！？

サチコ

そうよ。怪しいと思ってるわ

カノン

酷いです…私、マサトを裏切ることなんて、絶対にしてません！

サチコ

ムキになるのが余計怪しいわねぇ。やましいことがあるんじゃないの？

カノン

そんな…。どうしていきなり…何を根拠にそんなこと言うんですか！

サチコ

だってあの子、マサトと違って頭が悪いじゃない

カノン

自分の孫になんてこと言うんですか！

サチコ

事実じゃない。あの子、平仮名も書けないのよ

カノン

ヒカルはまだ四歳ですよ！

サチコ

『もう』四歳でしょ

サチコ

マサトは小さい頃から頭が良くて、三歳の頃からひらがな、カタカナの読み書きは完璧だったのよ

サチコ

そのまま名門大学、一流企業と進んでいったの

サチコ

それなのにヒカルは大違い。顔も知性が感じられなくて、マサトの子だとは思えないわね

カノン

酷いですそんな言い方！親子だからって何もかも同じじゃありません！

カノン

そんな理由で私の浮気を疑うんですか！？

サチコ

だってねぇ。はっきり言って、あなたならやりそうだもの

カノン

何を根拠に…

サチコ

まず見た目ね。茶髪だし、ミニスカだって履いてたじゃない。写真で見たんだから

カノン

髪色は生まれつきです！祖母が外国人なんです！

カノン

ミニスカは確かに、婚姻前にマサトとのデートで履いて行ったことはありますけど、

カノン

だからって浮気の根拠になんかなりません！

サチコ

人は見た目が9割よ。事実、あなたはマサト以外とも交際経験があったらしいじゃない

カノン

マサト以前の交際経験は二人だけです！

サチコ

でも、マサトが初めてじゃなかったのよね

カノン

マサトだって私が初めてじゃありません。お互い様だと思ってます

サチコ

男と女とでは訳が違うわよ

サチコ

結局、あなたは見た目通りのアバズレ女ってこと

サチコ

今時の若い女ってみんなそうよね

サチコ

チャラチャラしてて貞淑、大和撫子、良妻賢母とは正反対

サチコ

勿論男を立てて尽くすことなんて考えない。聞いたわよ、マサトに家事をさせてるって

サチコ

信じられないわ！

カノン

私達、共働きだから当然だと思ってます

サチコ

仕事をやめて専業主婦になって、夫に尽くせばいいでしょうよ！

サチコ

それとも、仕事先に浮気相手がいるわけ？怪しいわね～

カノン

そんなわけないじゃないですか！下種の勘繰りはやめてください！

サチコ

まぁ、何その言い草！そういうところも気に食わないのよ

サチコ

姑の言うことを素直に聞かず口答えばかりして…

サチコ

私の若い頃は、姑に生意気な口なんか利かなかった

サチコ

夫のために家のために我慢して良妻賢母に徹したわ

サチコ

大和撫子や良妻賢母に程遠いあなたなんか、結局浮気や托卵を疑われて当然なのよ

サチコ

浮気相手の子をマサトに育てさせてしれっとしててもおかしくないわ

カノン

そんな…

サチコ

悔しかったら、あなたが浮気してない証拠でも出してきなさい

カノン

…わかりました。ここで言い争っていても無意味ですね。ヒカルとマサトのDNA鑑定をしてきます

カノン

その結果をお義母さんに見てもらいます

サチコ

勝手にすれば？ｗ

～一週間後～

カノン

お義母さん、DNA鑑定の結果が出ました

サチコ

あらぁｗ本当にやってきたの？冗談だったのにムキになって嫌ねぇｗ

カノン

先に言っておきますと、マサトとヒカルは親子関係が認められました

サチコ

ふーんｗまぁそれでも、あなたが浮気してないって証拠にはならないけどね

カノン

でも、お義母さんが浮気していた証拠は取れましたよ

サチコ

へ？

カノン

鑑定結果はもう一つありまして、マサトはお義父さんと血が繋がってなかったんです

サチコ

え、ちょっと待ちなさい…なんで夫が？

カノン

DNA鑑定の話をしたら、

カノン

マサトがこの際、自分とお義父さんの血の繋がりも確認したいって言いだしたんです

カノン

ずっと引っかかっていたみたいですよ

カノン

自分がお義父さんとあまりに似ていないことと、血液型が合わないことに…

カノン

お義父さんに連絡したら、同じことに引っ掛かっていたみたいなので、

カノン

鑑定することにしたんです。そしたら案の定…どういうことですか？

サチコ

そんな、違うの。これは何かの間違いよ…

サチコ

そ、そうだわ！きっと病院で取り違えられたのよ！

カノン

お義母さんが諸事情で病院ではなく自宅で出産したって話、忘れてませんよ

カノン

今の母親は甘えてるとか言って、何度も自慢げに聞かされたんですから

サチコ

それは…

カノン

まだ言い張るなら、今度はお義母さんも交えてもう一度、別のところで検査しましょうか

サチコ

…そうよ。マサトは、夫の子じゃないわ。夫とはいつまで経っても子供が出来なくて…

サチコ

でもそんなつもりじゃなかったの。若い頃の、ほんの過ちだったのよ！

カノン

ほんの過ちで浮気して托卵ねぇ…とんだ良妻賢母がいたものですね

サチコ

人のこと言えないじゃない！あんただってマサト以外と付き合ってたくせに！

カノン

マサトと付き合う前の話です。婚姻中に浮気してたお義母さんの方がずっと悪質ですよね

カノン

もしかして、自分が托卵したから、私もそうだって決めつけたんですか？

カノン

悪口は自己紹介とは、よく言ったものですね

サチコ

うるさい！あなたに何がわかるのよ！

サチコ

私が若い頃よりずっと自由で、嫁いびりに心が折れることもなくて、

サチコ

家事も楽でその上夫に手伝ってもらえて、恵まれてるあなたに！

サチコ

私は嫁いびりにもずっと我慢して、良妻賢母として夫に尽くしてきたのよ！

サチコ

ちょっとくらい、ストレス解消に浮気に走ったっていいじゃない！

カノン

いいわけないじゃないですか

カノン

どんな理由があろうとも、お義母さんのやってきたことは最低です

カノン

それに、お義母さんはお姑さんとは別居していて、滅多に訪ねてこなかったそうじゃないですか

サチコ

LINEでネチネチいびられてたのよ！

カノン

その時代にLINE、ありませんでしたよね。

カノン

しかもお姑さん、マサトが生まれる一年前には亡くなっていたと聞きました

カノン

嫁いびりのストレスは言い訳にはなりませんよ

サチコ

それは…

カノン

それにお義母さん、お義父さんやマサトが家事を手伝おうとしても

カノン

『家事は女の領域！男が台所に入るな！』って断ったって聞きました

カノン

本当なら、自縄自縛ってやつですよね

サチコ

うるさい！嫁のくせに生意気な！何も知らないくせに！

カノン

反論があるなら、お義父さんに言えばいいじゃないですか

カノン

まぁ、無理そうですけどね。お義父さん、もうお義母さんとは離婚するって言ってますし

サチコ

そ、それ本当…？

カノン

えぇ。何十年も自分を騙してきて許せないって言ってますよ

サチコ

そんな…あんたのせいよ！あんたがDNA鑑定なんかするから！！

カノン

私のせい？人のせいにしないでください

カノン

浮気して托卵したのも、自分を棚に上げて私が托卵してるなんて言いがかり付けたのも、

カノン

全部自分じゃないですか

サチコ

あぁぁぁどうしよう、私、ずっと専業主婦なのよ！働いたことないのよ！！

サチコ

なのに離婚されたら、生きていけないわ！！

サチコ

そうだ、離婚になったら、あんた達の家で同居するわ！

カノン

はい？

カノン

なんで私が同居しなきゃならないんですか？

サチコ

だって、私はマサトの母親で、ヒカルのおばあちゃんなのよ。一緒に暮らして何が悪いの？

サチコ

嫁たるもの、同居して姑の面倒を見るのは当然の義務よ！

サチコ

それに、あなた達だってあの人には絶縁されるでしょう

サチコ

マサトもヒカルも、あの人と血が繋がってないんだもの！

サチコ

だったら、血の繋がりのある者同士助け合いましょう

カノン

絶縁されるのはお義母さんだけですよ

サチコ

へ？

カノン

いつお義父さんが、マサトやヒカルと絶縁すると言いました？

カノン

お義父さんは、たとえ血が繋がってなくても、

カノン

マサトのことを息子として誇りに思っていると仰ってます

カノン

マサトも、お義父さんのことを父親として尊敬していると…

カノン

だから、私達はお義父さんとはこのまま付き合いを続けていく予定ですし、

カノン

反対にお義母さんとは絶縁する予定です

サチコ

なんですって！？嫁風情が何勝手なこと言ってるのよ！

カノン

マサトが言ってるんですよ。母さんとは絶縁すると

サチコ

嘘！そんなはずないわ！私はあの子をお腹を痛めて産んだ、実の母親なのよ！

サチコ

なのにどうして血の繋がらないあの人じゃなくて、私を捨てるのよ！

カノン

血の繋がりが全てじゃないってことです

カノン

それに知ってます？ヒカル、平仮名が書けるようになったんですよ

サチコ

え、そうなの？

カノン

えぇ。お義父さんが教えてくれたおかげで

カノン

簡単な算数もできるようになりました

カノン

お義父さんは昔塾講師をされていただけあって、教え方が凄く上手いんです

カノン

マサトもお義父さんに教わったお陰で勉強ができるようになって、感謝していると言っていました

カノン

マサトとお義父さんには、そういう繋がりもあるんです

サチコ

何よ、勉強なら私だって教えてあげたのに！

カノン

マサトは『母さんは頭ごなしに怒鳴るから勉強が頭に入ってこなかった』と言ってました

カノン

ヒカルも『おばあちゃんこわい』だそうです

カノン

それから私達、お義父さんと同居も考えてます

カノン

私達が共働きだから、その間ヒカルの面倒を見てくれると仰っているので

サチコ

何でよ…なんであの人が同居で、私が絶縁されるのよ！普通逆じゃないの！！

サチコ

みんな酷いわよぉおおおお！！

～後日談～

カノン

その後、お義母さんはお義父さんとは離婚され、身一つで家を追い出されました

カノン

お義母さんは遠い地で細々とパートをしながら食い繋いでいるそうですが、

カノン

これまで働いたことがなかったため、ミスだらけで自分より若い先輩に叱られる毎日で、

カノン

相当プライドをへし折られているそうです

カノン

それなのに、鬱憤を晴らすかのようにパート仲間の若い女性達の髪色や服装などにケチをつけ、

カノン

『無能なくせに偉そうな老害ババア』と煙たがられているのだとか

カノン

ひそひそと自分の陰口を叩く女性達に

カノン

『自分のしたことを知られていて、何が大和撫子だと嘲笑われている』と

カノン

被害妄想に囚われ、ノイローゼになってしまったそうです

カノン

クタクタになって帰宅しては、夫と息子と写った昔の家族写真を見て

カノン

『私の人生は何だったのだろう』と泣く日々なのだとか…

カノン

私達は、お義父さんと同居生活をスタートさせました

カノン

お義父さんはヒカルの面倒をよく見てくれていて、

カノン

家族四人で楽しく暮らしています

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結城　真矢

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