消えてしまった"感情"…？

俺の家族は、俺がまだ幼い頃から仲が悪かった

家に帰ると決まって、きつい酒の匂いがした

机を囲ってみんなでご飯を食べた事もなければ

一緒に遊んでもらった記憶もない

布団に入ると怒鳴り声が聞こえ

目が覚めると一人ぼっち。

そんな生活がかれこれ10年以上続いた

そんなある日だった

いつも通り学校に行き、家に帰宅する

玄関の鍵を開け、背負っていたカバンを下ろす

ふと机の上を見ると

「私の分まで生きて」

とだけ残された置き手紙

走り書きの文字で慌てていた様子を察することができる

周辺に散らばった空き缶や吸い殻の数々

お皿の粉々になった破片がこちらにまで飛んできている

見慣れた光景だったからか、そこまで慌てることはなかった

…ただ

ただ"一人"の、大切な家族

弟のこと。

まだ幼かった弟は

母さんが出て行ったことも

父さんが母さんを捨てたことも

今目の前で起こっている状況も…理解ができるわけもなく

とりあえず安心させるため、大丈夫だよ、とだけ伝えて

散らかった部屋を片付け始める

それからが、俺の本当の地獄だった

学校に行くと

「親に捨てられた」

「酷い親の子」

沢山の悪口を耳にした

それらに対して特に感情もなく、無視する日々が続いていた

俺が反抗しないのをいい事に、いじめも次第にエスカレートしてきた

殴られ、蹴られ。

家では弟に心配をかけないよう、笑顔で振る舞う

親のような存在の俺が居なくなってしまったら…

そう考えると、神様が恨めしくて仕方がなかった

この日は弟の誕生日だった

いつも不憫な思いをさせてしまっている分

今日くらいはと、バイトで貯めたお金を奮発した

今日は予定があるから、と早上がりさせてもらい

早々に帰宅し、準備を始めていた

…でも

弟は10:00になっても帰ってこなかった

普段ならソファで一緒にゲームをしている時間。

こんなに遅い事は今までになかったはず

どうしたのかと弟の学校に連絡するも、もう帰ったとの事

警察に連絡しようか考えていると、家の電話が鳴った

知らない番号

嫌な予感がして、恐る恐る電話を取る

＿もしもし？

俺は無我夢中に走った

息を切らし、人を押しのけて走り続ける

息を整え、扉をノックする

酷い表情をしていたのだろう

ギョっとしたような表情でこちらをみる

足早に近づき、小さく頷く

自分でも頭が追いついていかなかった

弟が死んだ

屋上からの飛び降り自殺

クラス内での虐めが原因なんだと。

虐めの内容は恐らく…

俺が気付けなかったから

俺がもっと気にかけていたら

俺がもっと話を聞いていれば

俺がもっとしっかりしていれば…

俺が…

勢いよくリビングの扉を開ける

そこには誰もおらず、静まり返っていた

あの時…俺がちゃんとしていれば…？

俺は何も変わっていない

俺がちゃんとしたら済む話なのに

…みんな、救われるはずなのに…

みことも…すっちーも…なつも…こさめも…

らん…も…

苦しまずに…みんながただ楽しく活動できるのに…

俺がしっかりしてないから…？

らんに…頼りすぎてる…？

みんなに…甘えすぎ、てる…？

俺がちゃんと…

俺がしっかりしないと…

…もう…目の前から誰かが居なくなるのは嫌だ…

彼の匂いに包まれながら、俺の視界は遮られた

任された勢いで来ちゃったけど…

らんくんとの思い出の…場所…

シクフォニ結成日

グループの初配信が終わって、みんなで会議していた時…

そう言って集まったのがここ。

6人で約束を交わした、大切な場所

また6人で…この月を見上げたいよ…

一瞬

大きく広がる月の中に

一枚の桜の花びらが舞ったような気がした