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更新ありがとうございます! ますます赤くんの過去とか夢のことが気になります!✨ 味覚がないのにびっくりしました!Σ(゚ロ゚;) 続き楽しみにしています!頑張って下さい!(๑•̀ㅂ•́)و✧
赤くんは味も分からないのか⋯悲しい(?) なんで味覚無くなったんだろ、、、ほんとに無くなったのかな
開いていただきありがとうございます! このストーリーは、この連載の第四話となっております。 注意事項等、第一話の冒頭を"必ず"お読みになってから この後へ進んでください。
ジリジリリ、と騒がしい音が、 俺を眠りの世界から引きずりあげる。 それにこじ開けられるように目を開ければ、 窓の外では朝焼けが見えた。
…一日がまた始まったのだと、 やっと脳が認識する。
昨日変な体制で寝たお陰で、 とてつもなく体が痛い。 痛いというより、凝っている。 しかもスーツまで皺だらけだ。
これは準備に時間がかかる、と思い、 壁にかけられた時計を見上げる。 幸運なことに、まだ早朝と言われる時間。 出社まで大分時間はあるし、 間に合わないことはないだろう。
安堵か疲労か分からない息を吐き、 ベッドに置き放していたスマホを取る。 何か新しい連絡が来ているだろうか、と メールを開いて。
…未読メールが、1。
何か変更点でもあったのだろうか、と メールを開く前に思考を巡らせる。 いや、変更なんて初日からするか? 俺のやり方に問題ありだったか?…一体どこが。
一抹の不安を抱えつつ、 俺はそのメールを開く。 メールアドレスは……、
「hyde.0000@…」
見慣れた彼のメールアドレス。 …しかも、彼だって任務中なはずなのに。
「朝飯ポスト投函済み〜」
随分とフランクなその文に、 俺の不安を返せと言ってやりたくなる。 …全く、本当にこの同業者は。
「俺は貴方と違い忙しいので、 とても遅くなるかと。」
「待ってるねー!」
だめだ、話が全く通じない。 俺は対話を試みることを諦め、 早々にスマホの電源を落としてしまった。 そもそも、ポストに朝食を 送り込んでくることすらおかしい。
…そういえば。 同業者は、全員おかしいやつだった。
本日何度目かのため息をつきつつ、 皺になったスーツを着替えていく。 朝食を終えたらすぐに出勤できるよう、 俺は準備を開始した。
…ああ、そういえば。
俺をこの世界へと招いたのは、 他ならぬ彼だった。
カタン、と足音を立てれば、 そこに腰掛けていた彼が振り向く。 お、やっほー!なんて手を振る彼に、 朝から元気ですねと呆れて。
そっかー!なんてケラケラ笑う彼。 屋根の上に男が二人、 朝食が入っているであろう袋を持って 座っている光景は完全に異常だ。 …まあ、彼のことだし、 人目に全くつかないことは分かっているのだろうが。
俺は致し方なく彼の隣に座り、 スーツが汚れるなぁと少し思う。 一方隣の彼は同じスーツ姿であるにも関わらず、 そんなものは関係ないといった様子で しっかりと胡座をかいていた。
涼しい顔でそう言い放ってやると、 なんだと!?やら何やらの 不平不満が聞こえてくる。 とりあえず、面倒なのでスルーだ。
例の如く、彼がポストへ投函した朝食を覗く。 おにぎり一つにペットボトル一つの、 随分簡易的な朝食。
今にもあっかんべをして煽ってきそうな彼に、 一体何歳なんだという呆れの目を向ける。 事実、これまで誘われたこの朝食で、 一回もこれ以外の物を渡されたことは無かった。
…そう。これまで、一度も。
"…これっ…、早く、食べな、"
暗い街。土砂降りの雨。 そんな中差し出された、 あの袋と大きな傘。
…一体、いつだっただろう。
その記憶を探ろうとすれば、 またそれが遮断されたように感じる。 これは遠い過去なんかじゃなく、 ほんの数年前の話なのに。
毎日見る夢も、この情景も、 なんだか全てがぼんやりしていて。
舌に感じるのは、 海苔のザラザラとした質感と、 気温でぬるくなったお米の温度。 それをお茶で流し込めば、 喉を水分が伝う感覚。
彼の視線を平謝りで交わし、 俺は朝食を食べ切る。 いつ頃から味覚を失ったのかは分からないが、 どうせ只のつまらない出来事だろうし。
…ほら、こうやって忘れていく。 "俺"という人格は段々と消え、 偶像だけが俺の脳に刻まれていく。
ふと、そんな声がした。 任務のことを聞くなんて珍しい、と 少し意外に思って。
俺は屋根に立ち上がり、 ビルの隙間に見える地平線に目を走らせる。 隣の彼は、俺をじっと見つめていた。
そんなことをふっと呟く。 …その自分があまりに馬鹿馬鹿しくて、 嘲笑を漏らした。
空の駐車場。 二つ分の足跡。 時に揺られ、時に引かれ、 時に突き飛ばされ、時に離され。 鬱蒼とした森と、渓谷。 揺れる視界と茹だるような暑さ。
映画の予告編のような、 断片的な映像。 登場人物の名前も、場所も聞こえない。 ただ、焦るような気持ちだけ残していくあの夢。
またけらけらと笑う彼。 俺もそろそろ行こうかな、なんて立ち上がれば、 俺の方をじっと見つめて。
そう言って彼が笑った瞬間、 風が吹き、目の前から彼は消えていた。 言葉を返す暇を与えてくれなかったことを、 少し不満に思ったり、思わなかったり。
…応援、という漠然としたものは。 あの夢の中の溶け込むような、 よく分からないものだった。
「ライア -その線で⬛︎して-」 第四話