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うちで飼っている猫に声をかける。
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返事はない。
だけど、寝ているわけでもなさそうだ。
こいつが眠っている時は決まって口が空いている。
でも今は空いていない。
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もう一度声をかけると、ベットからはみ出て垂れているしっぽを揺らした。
あれで返事をしているつもりなのだろう。
うちの猫はいつもそんなものだ。
うちの猫...かいとは、正直猫なのかどうかもよくわからない。
だって、人の形をしているから。
人の形をしているのに、猫の耳と尻尾が生えた姿をしている。
よく寝るところもちょっとの物音ですぐ起きるところも、甘えたい時は甘えてくるくせにこっちから行くと反抗してくるところもドがつくほど定番の猫。
なのに、二足歩行で歩くしドアノブでも開けられるし、おまけにご飯はしっかり人間と同じもの。
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かいととの出会いもまさに野良猫を拾ったような感じ。
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かいととは、仕事の出張で高速道路を使った時にパーキングで出会った。
ちょっと拓けたところで外の空気を吸ってたら、いきなり服の裾を掴まれて、振り返ったら猫の耳が生えた薄着の男がいた。
どうしたらいいかわからず困惑していると、猫耳男は猫耳を隠すような動作をした。
それを見て、確かに誰かに見られたらまずいと思って猫耳男の頭に上着を被せてやった。
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そのまま手を引いて車に乗せて、うちに連れて帰って。
ご飯を食べさせて、風呂に入れて、布団を用意してやって。
気づいたら猫耳男はかいとになって、うちの猫になった。
かいとは人間の姿をしているけど、言葉を発したことはない。
声を出すことができないのか、それとも意図的に出さないのか。
それはかいとに聞かないとわからないけど、喋ったら喋ったで憎たらしくなるような気がするから何も言わないでいる。
話さないということは何か事情があることは間違いないし、聞かれないのは向こうにとっても好都合だろう。
夜寝る時は別々の部屋で寝る。
最初の頃にかいとが一緒に寝るのは嫌がったから、それっきり一緒に寝ようと誘ったこともない。
まあ正直なところ、寝る前はかなり考え事をするので1人で寝られないよりずっといい。
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かいとを1人にはできない。
かいとだけを残していくわけにはいかない。
わかってる。
わかっていても、毎日自分の首に手をかけてみる。
このまま握りつぶしたら、死ねるだろうか。
.....いいや、握りつぶせるほどの握力なんてない。
そうとわかっていても、力を入れてみる。
喉仏が食い込んで喉が痛い。
死ぬより先に、苦しいのが我慢ならなくて手を離す。
息を吸って、生きていることを実感する。
死ねなかったことに、絶望する。
死ななかったことに、安堵する。
俺の内側を知ったら、かいとは何を思うだろう。
毎日毎日、死ぬことばかり考えて眠りにつく俺に、どんな思いを抱くだろう。
心のうちを全て明けたところで、かいとはこっちも向かずに尻尾を揺らして返事をするだろうな。
それか、話を聞いている最中に馬鹿みたいに口を開けて眠ってしまうかもしれない。
言葉を話さないかいとに話したところでか。
.......寝たくないな。
寝て起きたらもう仕事に行かないといけないのに、眠らないと生きていけないなんて世界は残酷やね、
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今日も、声をかけると尻尾を揺らして返事の代わりをしている。
今日も変わりないな。
そんなことを考えながら家を後にした。
上司
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上司
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かいとの口が空いている。
完全に眠っているのだろう。
ただ尻尾を揺らして話を聞いてくれるだけでも、俺の心は少し救われていることに最近になって気がついた。
かいとは何も喋らないから、かけてほしい言葉なんて言ってくれないけど、聞きたくない言葉を吐かれることもない。
そんな時間がなんとなく心地よくて、ずっとそうしていたくなる。
だから出張は嫌いだ。
かいとを1人置いて行くのも不安だし、他愛もない話を聞いてくれる相手がいないのもどうしようもなく辛い。
まあわがまま言ってクビになったら生活できなくなるし、嫌でも行くしかないんやけど。
なんだろう。
上手くやれてる気がする。
実際上手くやれていなかったとしても、不思議と気にならない。
何も気にせずにいられるなら、きっと俺は何にも悩まなくて済むのに。
何も考えずにいられる時間がずっと続けば、辛いなんて思わないのに。
〜帰宅〜
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なんとなく嫌な感じがして玄関の段差に足を抱えて座り込んだ。
座り込んで少し経つ頃には、3日間押し殺していた気持ちが溢れてきた。
死にたい。
もうそれだけだ。
........かいとを置いていけないならいっそ、かいとも殺してしまえばいい。
そうすれば俺も思い残すことなく死ねる。
......殺し方はどうしようか。
自分に散々やってきたのと同じように首を絞めようか。
道具もいらないし今日やれるからそれでいいや。
ギィ.......
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ぎゅっ
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かいとの腕の中で、収まっては思い出して、泣き出して。また収まっては泣き出しての繰り返しだった。
ちゃんと収まってからかいとは、俺の手を引いてリビングまで連れて行ってくれた。
そして今度を何をしてくれるのかと思ったら、キッチンの上の方の戸棚を指さして物欲しそうな顔をしていた。
慰めてやったからお菓子をよこせ、と言っているようだ。
薄情者、といつもなら言っていたところだけど、今日はいいかと思ってお菓子を出して一緒に食べた。
あまり生きていたくないのは正直変わっていないけど、かいとのそばで生きてみたいという気持ちも生まれた。
さっきのかいとは、俺の心を見透かしているみたいにして、優しく抱きしめてくれて離さなかった。
幸せそうにお菓子を頬張るかいとを見ていると、到底かいとを殺すことなんてできないように思う。
かいとは言葉を話さないけど、俺が死のうとしたら止めてくれるような気もする。
本人に聞くことはできないし、勝手な解釈だってこともわかってるけど、
生きるためだと言えばかいとはきっと、許してくれるよね。
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少し真面目にかいとの目を見てそういうと、かいとはいつもみたいに尻尾を揺らした。
コメント
1件
初めて読んだこんな感じの、!絶対自分じゃ思いつけない、、!