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俺の名前は、玉 剛太郎(たま ごーたろう)
…変な名前だと笑ってくれて構わない。 笑われ慣れている。
ただ、先に言っておく。俺は人間が嫌いだ。
いや、正確には人間を信用できない。 人間不審と言っても過言ではない。 嫌いという感情は、ある程度の関心があってこそ生まれるものだろう
俺の場合、もっと冷えた感覚だ。 信用に値しない。近づけば火傷を負う。 そう思っている。
原因は単純だ。 幼稚園のある出来事から決まった。
・・・
あれは、春の終わり頃だった。
花壇にはパンジーやチューリップが並び、 風はまだ少し肌寒い。 昼下がりの園庭は、太陽の光がやわらかく、子どもたちの笑い声が空に溶けていく。
小さな机と椅子、おもちゃの包丁、 フェルトでできたニンジンやレタス。 ままごと遊びに使う道具たちが、芝生の上に広がっていた。
俺は、その中で一番仲の良かった 女の子、いや、仲が良かった“はず”の女の子に呼ばれた。
彼女はいつも元気で、笑うと目尻がきゅっと上がる。そのときも、小さな手で俺を招き寄せながら、屈託なく言った。
少女
...ん?…卵?
幼稚園児の俺は、その言葉の意味を深く考えなかった。ただ、“可愛い”と言われて、 ほんの少しだけくすぐったい気分になったのを覚えている。
でも、続く言葉がすべてを変えた。
少女
その瞬間、俺の背筋に、 冷たいものが走った。
冗談...そう思ったのは、ほんの一秒秒。 彼女は笑顔のまま、俺の腕をつかみ、小さな体をぐいっと引った。
目の前には布でできたフライパン。 中にはフェルトのニンジンやハムが転がっている。そして、そこに俺を寝かせようとする彼女。
普通なら笑える光景かもしれい。
でも、そのときの俺には笑えなかった。 彼女の瞳を見たからだ。
あの子の黒目は、空想と現実の境目が溶けたように無垢で―
それでいて、妙に真剣だった。
獲物を見つけた小動物のような、迷いのない視線。そこには“遊び”と呼べる優しさもためらいもなかった。
そして俺は、悟ったんだ。
【人間は、平気で他人を料理しようとする生き物だ】と
・・・
それ以来、 俺は人と距離を置くようになった。
笑って話すことはあっても、 心の奥のドアは絶対に開かない。
あの悪夢を二度と体験しないように
信用しない。踏み込ませない。
それが、自分を守る唯一の方法だった。
気づけば、 その習慣は俺の中で完成された形になってた
友達はいる。だが浅く、短く、そして安全な関係。それ以上は求めないし、求めさせない
...そうやって、高校二年生まで、なんとか やってきた。