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第1話 - あ

2023年07月05日

#スカッと

田中俊樹

リュウ

アンちゃ～ん、今日はありがとね！お陰で癒されたよ

アン

リュウさん、こちらこそ今日も指名いただいてありがとうございます♡

アン

リュウさんとお話しできるの、とっても楽しいです♡

リュウ

こっちこそ、お店でアンちゃんと会えるのだけが生きがいだよ♡

リュウ

あーあ、明日からまた仕事で上司に怒鳴られる日々かぁ…

アン

お仕事お疲れ様です♡リュウさんはいつも頑張ってらっしゃいますね♡

リュウ

ありがと～！そう言ってくれるのはアンちゃんだけだよぉ！

リュウ

それに引き換えうちの嫁ときたら…うちの嫁タカコっていうんだけど、本当酷いんだぜ！

リュウ

こっちは仕事で疲れてるってのに、家事育児もやれだなんてヒステリー起こしてくるんだよ！

アン

それは大変ですね～。奥さんも疲れてるんでしょうけど…

リュウ

いやいや、嫁なんかゴロゴロしてブクブク太って身なりも悪いし劣化一直線！

リュウ

子供の世話が大変とか言い訳して家事も手抜きで部屋も散らかしっぱなし！

リュウ

ただの怠け者の三十路ババァだよ！！

リュウ

それに引き換え、アンちゃんは働き者で偉いよな。

リュウ

学生なのにキャバで学費のために働いてるんだから！

リュウ

可愛くて優しくて若くて、ババア嫁とは何から何まで大違い！

リュウ

あ～、嫁と離婚してアンちゃんと結婚したいぜ！

アン

えへへ、ありがとうございます～♡

アン

でも、そんな風に言ったら奥さんが可哀想ですよぉ

アン

お互い労わって、夫婦仲良くなれたらいいですね♡

リュウ

アンちゃんは優しいねぇ。あんな嫁のことまで気を遣ってくれるなんて…

リュウ

そんなアンちゃんだから、俺も好きになったんだけど♡

リュウ

ね、来週あたり有給とるから、お店休んで一日俺とデートしてくれないかな？

アン

ごめんなさ～い！来週あたりだと、大学のレポートで忙しくて…

アン

それにお店だって繁忙期で休めないんです。残念ですけど…

リュウ

そっか。大変なんだね。じゃあ、再来週は！？

アン

その時になってみないとわからないかな～

リュウ

いつも中々予定が合わないね…デートできる日を楽しみにしてるよ！

アン

は～い！またお店に会いに来てくださいね♡

～数日後～

リュウ

アンちゃん、キャバ嬢の仕事は大変でしょ？

アン

気遣ってくださりありがとうございます♡リュウさんは優しいですね♡

アン

確かに大変なことはありますけど、リュウさんをはじめ、

アン

色んな人と会話できて楽しいです♡

リュウ

なんて健気なんだ…！可哀想になぁ。子供の頃から貧乏暮らし、

リュウ

今もこんな仕事をしながら、それで頑張って大学の学費を稼いでいるなんて…

リュウ

でも、もうそんな苦労はしなくていいんだ！

アン

リュウさん…？

リュウ

アンちゃん、俺と結婚しよう！

アン

え？

リュウ

これからは俺がアンちゃんを養うよ！だから、もうこんな苦労はしなくていいんだ！

アン

ちょっと待ってください！奥さんはどうするんですか！？

リュウ

あんな嫁、離婚してやる！

リュウ

勿論慰謝料を払う羽目になるだろう。でもアンちゃんは稼いでるし、

リュウ

二人ならきっとどんな困難も乗り越えられる！

リュウ

アンちゃん、待っててね！すぐに迎えに行くから！

アン

あの、勘違いしないでいただけます？

リュウ

へ？

アン

私とリュウさんは、ただのキャバ嬢とお客様の関係で、

アン

それ以上でもそれ以下でもありません

アン

ですから、結婚は出来ませんしする気もありません

リュウ

そんなはずない！わかった！そう言えってお店に言われてるんだな！

アン

はい？

リュウ

わかってるよぉ。君が本当は俺のことが大好きだってことは

アン

いえ、私はリュウさんに一切恋愛感情はありません

リュウ

へ？

リュウ

だって、いつもいつも喜んで話をしてくれたじゃないか！

リュウ

いつも労りの言葉をかけてくれて、ハートマークのついたメッセージをくれて…

アン

営業トークを本気にしてもらっては困りますよ

リュウ

営業、トーク…？

アン

こっちも仕事ですから、気持ちよく通ってもらえるようにあらゆる工夫をします

アン

それでも、最近のリュウさんは度を越したものがありました

アン

しつこく連絡してきたり、出待ちしてきたり、触ろうとしてきたり…

リュウ

だって、アンちゃん嫌がってなかったじゃないか！喜んでたじゃないか！！

アン

仕事とはいえ、曖昧な態度を取ったのが悪かったかもしれないですね

アン

ですから、ここではっきりさせておこうと思います

リュウ

仕事だなんて、そんな冷たいこと言わないでよ…

リュウ

俺たち本当に、心が通じ合ってたはずじゃないか…

アン

そう思っていたのはリュウさんだけだということです

アン

それから、一番大事なはずの家庭を蔑ろにされているようなのも気になりました

アン

挙句離婚だなんて…

アン

どうか節度を守って楽しんでください

アン

そしたら、こちらも接客業としてひと時の夢を与えますので

～数日後～

リュウ

アンちゃん！どういうことだよ！！

リュウ

アンちゃんのマンションに行ったら、嫁が待ち構えてたんだけど！？

リュウ

それで離婚届書かされたんだ！それと、もうアンに近づくなって！！

アン

やっぱり、マンション前うろついてた不審者はリュウさんだったんですね

アン

どうやって私のマンションを特定したんですか？

リュウ

それは、アンちゃんが帰るのを店の前で待って、こっそり後をつけてたんだ！

アン

あれから店に来ないと思ったらそんなことしてたんですね…

アン

完全にストーカーじゃないですか

リュウ

そんなこと言うなよ！アンちゃんの部屋を訪れて、本気度を見てもらいたかったんだ！

リュウ

部屋番号はわからなかったけど、アンちゃんの自転車の籠にラブレター入れたりして

リュウ

アピールしてたんだ

アン

やっぱり、あれもリュウさんだったんだ…

リュウ

それよりなんで嫁があそこにいたんだよ！！

リュウ

なんか、アンちゃんのこと知ってるみたいな口ぶりなんだけど！？

アン

私が奥さんに相談してましたからね、リュウさんの付きまといについて

リュウ

は？ちょっと待て。なんでアンちゃんが嫁に相談なんか…

リュウ

というか、なんでアンちゃんが嫁の連絡先知ってるんだよ！？

アン

実は、奥さんと私は幼馴染だったんです

リュウ

へ？

リュウ

幼馴染…？

アン

そう。子供の頃近所に住んでたんですけど、

アン

タカコちゃんは見るからに貧乏で家庭に恵まれなかった私とよく遊んでくれて、

アン

何かと助けてくれた、一つ年上の大好きな幼馴染でした

アン

大人になっても連絡取り合ってて、タカコちゃんは

アン

家事育児を自分に押し付けて若い子に現を抜かす夫の愚痴を、

アン

私は仕事の迷惑客の愚痴をお互いにこぼしていたんですけど、

アン

まさか同一人物だったとはねー…

アン

リュウさんが奥さんの名前を出してきた時に、まさかと思ったんですけど

リュウ

え、迷惑客って…

リュウ

それよりちょっと待って。今、一つ年上って言った？

リュウ

嫁の一つ年下って…アンちゃん、二十歳なんじゃなかったの…？

アン

キャバでは年齢偽ってたけど、本当は29歳です

アン

自分で言うのも何ですけど童顔なせいか、誰にも怪しまれたことありませんｗ

リュウ

う、嘘だろ！！そんな！！

アン

ショックですよねぇ。散々タカコちゃんをババアとバカにして

アン

若い私はいいとか言ってきたのに、一つ違いだったんですから

リュウ

じゃあ、大学の学費を稼いでるってのも噓かよ！！俺を騙しやがって！！

アン

それは本当。中卒でしたけど、勉強したいことができたので

アン

高認取ってこの歳で大学に通ってるんです。悪いですか？

リュウ

ふ、ふざけんな！！紛らわしいんだよ散々チヤホヤして貢いでやったのに！！

リュウ

この若作りババァが！！

アン

若作りババァ？じゃあ言うけど、45のおっさんが15も年下の

アン

私やタカコちゃんをババァだってバカにする権利があるのかっての！！

リュウ

な、なんだよいきなり生意気言いやがって！

リュウ

いいか？男の加齢と女の加齢は違うんだ！女は劣化する一方だけど男は渋くなるんだ！

アン

は？渋くなる？鏡見たことあんのかよおっさん

アン

ハゲ散らかして脂ぎってお腹の出たおっさんのどこが渋いって？

アン

自分のこと棚に上げてタカコちゃんを太っただの劣化だのバカにしてんじゃねぇよ！！

リュウ

お、怒るなよそんな…

アン

大体さぁ、あんた共働きのくせに家事育児ぜーんぶタカコちゃんに押し付けて、

アン

美容院にも勿体ないと言って行かせないくせに、自分はキャバ通い

アン

そのくせ部屋が散らかってるだの料理が手抜きだの身なりが悪いだの、

アン

ふざけんなあんたのせいだっての！！子供、確か双子よね？

アン

双子育児がどれだけ大変かもわからねぇのかよ！！

リュウ

で、でもそのおかげでアンちゃんはいい思いできただろ！？

アン

いい思い？あんたなんかただの迷惑客のストーカーでしかないわ！

リュウ

ひっ！

アン

仕事とはいえ、あんたを勘違いさせてタカコちゃんには本当に申し訳ないことをしたわ

アン

そう謝ったら、タカコちゃんもこっちこそうちのバカ亭主が申し訳ないと謝ってくれてね

アン

二人で謝罪合戦よ

アン

そしてお互い決めたの。タカコちゃんはあんたと離婚

アン

こっちも店長に相談して、あんたを出禁にしてもらった

リュウ

出禁…？おい、嘘だろ

アン

度重なる迷惑行為に加え、ストーカーが決め手だったわね

リュウ

ふざけんなよ散々俺を弄びやがって！！嫁と別れるのもお前のせいなんだからな！

リュウ

29のババァでも我慢してやるから、責任取って俺と結婚して慰謝料払えよ！

アン

は？この期に及んで私と結婚したいの？

リュウ

お前みたいな汚れた仕事してる女と結婚してやるんだ。ありがたく思えよ

リュウ

俺は心が広いから仕事も続けさせてやる。その代わり慰謝料払って俺を養え

アン

養え、ねぇ…最初は俺が養うから仕事辞めろって話じゃなかったの？

アン

ま、外回りと称してキャバに通いまくった挙句、仕事クビになったんじゃ無理か

リュウ

な、なぜそれを…

アン

タカコちゃんに聞いた。これもひた隠しにしてたんだってね

アン

クビになって時間が有り余ったからストーカーになったんでしょ

アン

だーれが無職の勘違いキモおっさんなんか養うかよ。デメリットしかねぇだろいい加減にしろ！

リュウ

生意気言ってんじゃねぇぞ！

リュウ

キャバなんかしてる汚れた女、俺以外に貰い手なんかねぇんだからな！！

アン

生憎、結婚前提に付き合ってる彼氏がいますので

リュウ

え、彼氏…？

アン

もしいなかったとしても、あんたと結婚するくらいなら一生独身の方がマシ

アン

じゃあねおっさん。これ以上付きまとうなら警察行くから

～後日談～

アン

その後、リュウさんはタカコちゃんに何度も復縁要請をしたらしいですが、

アン

タカコちゃんは受け入れるわけもなく、夫婦は離婚しました

アン

親権も勿論タカコちゃんに行き、実家にも絶縁されたリュウさんは

アン

日雇いのバイトで食い繋ぎながら、必死で慰謝料と養育費を支払っているのだそうです

アン

私はストーカーの魔の手が及ばないようにすぐに引っ越しました

アン

タカコちゃんには悪いことをしてしまいましたが、彼女は

アン

「むしろあんな旦那と別れられてよかったｗ」

アン

と笑って、引き続き仲良くしてくれています

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