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―本部エントランス―
矢城
若い訓練兵
隣に座る訓練兵が間髪入れずに口を挟む
女性の訓練兵
若い訓練兵
彼は見下すようにゆっくりと話した
矢城
雪
雪
戦況把握訓練が始まっても矢城はどこか上の空だった
いつもなら難なくこなすことのできる得意分野だ
しかしうまく戦略を立てられない。それどころか人の話すらよく記憶ができない
矢城
側頭部に鋭い痛みを感じ、片目を瞑った
午前で訓練は終わり、訓練兵は解散となった
買い出しも済ませてあるし、どうしようか。やりたいことが思い浮かばない
隊服から私服に着替え、エントランスの壁にもたれかかった
頭痛はやまない。光と音がやけに煩わしく感じる
誰かに名前を呼ばれている気がするが、誰かは認識できない
「…くん、勇くん!」
矢城
美羽
彼の顔を覗き込むように美羽は尋ねた
何度も大丈夫だと言っているのに
かすかに苛立ちを覚えた。しかし本部にいる以上、それを表に出すことはできない
矢城
笑顔は作れている。大丈夫、これが自分だ
しかし美羽は食い下がらなかった
美羽
そう言って彼女は矢城の腕を引き出口へ歩き出した
矢城
美羽
―ニビイロシティ―
強制的に連れ出され、クレープ屋に連行された
彼女に勧められいちごクレープを食べたものの、味はひどく薄く感じた
美味しいとは言えなかった
美羽
矢城
美羽
美羽
矢城は頬を引きつらせた
矢城
美羽
矢城は否定を繰り返す
美羽は反論を繰り返す
自分は嘘をついていない…彼はそう信じきっていた
しかしその仮面には、既に亀裂が入っていた
美羽
矢城
美羽
彼の表情が変わった。目を見開き、口元が歪んだ
それでもすぐに微笑に戻った
矢城
声が震えた。だめだ、抑えられないかも
矢城
美羽
美羽
"嘘"―彼が1番、聞きたくなかった言葉だった
矢城
思わず彼は声を荒げた。カーディガンの胸元を握る右手が震えている
美羽は小さく肩を上げた
途端に世界が静まり返り、注目が2人に集中する
矢城
矢城
美羽
矢城
美羽の表情が固まった
矢城
矢城の言葉が止まる
言ってしまった。しかしもう撤回することはできない
美羽
美羽は息を吸い、姿勢を直した
美羽
彼は大きくため息をついた
矢城
彼の目は、様々な感情が滲んだ鋭い眼光を帯びていた
美羽
美羽
美羽
美羽
彼女は彼とは反対方向の方に駆け出した
矢城
いや、呼び止めなくていい
だって自分は…
矢城
矢城
彼女の声も震えていた
自分が突き放したのだ
もう後戻りはできない
矢城
学年集会の舞台袖。矢城は一人原稿と格闘していた
学級委員の委員長として話さなければならないのだ
舞台上に原稿は持っていけない。今がラストチャンスである
推薦というより半ば押し付けられて学級委員になった挙げ句、各学級委員のなかでのリーダーにもなった。彼の心のなかで、それらは大きな足枷となった
矢城
矢城
教師
僕の番が来てしまった
原稿を机に置き、舞台上に登った
話す前に礼…あれ、マイクのスイッチは入っているのか?
だめだ、余計なことを考えたら原稿がわからなくなってきた…
混乱がさらに混乱を呼んだ
スタンドマイクの前に立ち、礼する
その拍子にマイクに頭をぶつけてしまった
体育館にドンッという音が響く
矢城
生徒からはクスクスと笑い声が聞こえた
あーもう、だめだ終わった…!
矢城
矢城
うまくいっている。大丈夫だ
スピーチは中盤に差し掛かる。ここが一番苦手だ。何度練習しても言葉を覚えられなかったところだ
矢城
焦りで余計言葉が出てこなくなる
鼓動が速まる
生徒全員からの視線が痛いほどに突き刺さる
その視線全てが、自分を否定しているかのように思えた
無意識のうちに彼は美羽の姿を探した。2年2組の、前から4番目
彼女は不安そうにこちらを見ていた。その表情により更に不安感が増す
何か言わなくちゃ。委員長として、皆の期待に応えなきゃ…
スピーチが終わり、舞台袖へと戻る
女子生徒
男子生徒
結局、具体例のようなものはほぼ無く、根拠や自信のない話になってしまった
矢城
教師
教師
また、これを繰り返すのか
そう思うと体が重くなる
「大丈夫かな」「碌なのいないしな」
自分のせいで、学級委員全体の印象が下がってしまった
これが1年間続く。手が震え、呼吸が浅くなるのを感じる
やっぱり、美羽にでも譲るべきだった…僕より適任なんてたくさんいたのに
不甲斐なさがこみ上げた。教室に戻る足取りが重い
「委員長」とクラスメイトが呼ぶ声が頭のなかにいくつも浮き出る
彼は、いつか本で読んだ言葉を思い出した
「人を騙すには、まずは自分を騙せ」
矢城
矢城
自分は嘘をついていない
これが普通だと思ってきたのに
"完璧に騙せたと思ったのに"
矢城
矢城
弱い自分を隠すために"優等生"という嘘をついた
その嘘を隠すためにまた嘘をつき、周囲をただひたすらに騙し―
出来上がったのは、剥がすことのできない仮面だった