そして気づくと風呂場の扉の前に眼を向けると
同世代くらいの少女がたっていた。
あゆみ
ひ、ひみか

そこにいたのは雪女と人との間のハーフである
安満蕗氷魅華(あまぶきひみか)だった。
彼女は雪女特有の能力を使いアンリを凍らせたのだ。
あゆみ
う、うん。まあ、助かったよ

ひみか
しかしなすがままとは感心しないね。君も変な事期待していたんじゃないだろうね

一見すると美少年とも見紛う中性的で整った顔立ちには
少し意地悪めいた表情が浮かんでいる。
あゆみ
へ、変な事ってなんだよ

そんなひみかに意味ありげな顔をむけられたあゆみは疚しさを押し殺しつつなんとか平静を装って答えようする。
しかし凍ったアンリの身体がくっついているにも関わらず顔からジットリとした汗がにじむのを感じた。隠し切れないかもしれない。
ひみか
さーてね。ただなんで拒否しなかったのかなと思ってね

あゆみ
いや、拒否はしたよ。でも、無理やり押さえつけられちゃったんだよ。意外に力が強かったし

ひみか
ふっ、何をいまさら。君が本気出したらそんなのどうとでもできるじゃないか

そもそも、金鞠は退魔の家系である。
あゆみ自身も妖怪に対抗する能力をもってはいた。
あゆみ
そりゃやろうと想えばできるよ。でも住人さんに、本気は出せないよ。

あゆみ
そもそも風呂掃除の件は事前に聞いていたんだし。約束破ったのは僕のほうってことにもなるんだから

ひみか
別に決まり事じゃなくて、単なるお願いだろ。それに答えるか拒否するかは君の自由なんだ。既に掃除は終わってたわけだから仕方がないじゃないか

あゆみ
そうだけどさ。ここの住人さんの体質や性質も分かっているわけだし。それは尊重しなきゃって思う部分もあってさ

ひみか
まったく相変わらずお人よしだね。君だって自分の都合があるだろうに。妖怪はね、それぞれ持ってる本能みたいなものがある。

ひみか
それらは抑えきれない場面も多々あるんだ。人にいい影響のものばかりとは限らない。

ひみか
だから時としては頑としてはねのけないと痛い目見ることもある。一々聞いてたら切りがないよ

責めているのではない。自分自身が半分妖怪であることを素に経験則として心配してくれているのだ。
あゆみ
うん、気を付けるよ。ありがとう

ひみか
まあいいさ。君は弟みたいなものだからね。姉として助けるのは当り前だよ

彼の身体が小さいのに対してひみかの同年代と
比べても身長は高いく二人の身長差は歴然だった。
そのせいか長い付き合いの中でひみかはいつの頃からかあゆみに対し、何かにつけて姉ぶり、弟としてあゆみを可愛がりたがる。
あゆみ
あ、姉って。同い歳の同じ学年。しかも誕生日は数日だけどボクの方が先じゃないか

ひみか
細かい事はいいの。私は君を可愛がりたいと思ってるんだからいいじゃない。嫌かい?

あゆみ
嫌、じゃないけど……

ひみか
なら、いいじゃないか。弟みたいに思っている君が困っていたら助けるのはあたりま……ふぇっ、ふぇっ、ふぇっ、へっくしっ

言い終わることなく突然彼女から大きくかわいいくしゃみが出た。