遂に、この日が来てしまった。
荒波の如く、荒れ狂う胸中とは裏腹に、外は雲一つない晴天。
この空模様さえ、腹立たしい。
白無垢に身を包み、嫁いでいく華太。
華太の横には同じく、白の紋付き袴姿の和中の兄貴。
俺の視線に気付き、横目でチラリと華太が視線を寄越す。視線と視線が交差した瞬間、あの日の情景が脳裏を過る。
華太の輿入れが決まった日の夜。
護衛以外の家臣が寝静まる、子の刻の初刻に、華太が部屋を訪ねてきた。
南雲峺平
小峠華太
小峠華太
人に聞かれては不味い話のようで、華太は言葉を濁した。
輿入れが決まっている相手を部屋に、招き入れるのはよくないのだが、どこか思い詰めたような華太の様子が気にかかり、華太を部屋に招きいれた。
部屋に入り、襖を閉める。
南雲峺平
小峠華太
そう言うと華太は俺に正面から抱きついてきた。
輿入れが決まった時点で、華太は和中の兄貴のものだ。これは和中の兄貴に対する背信行為だ。
小峠華太
単純的な力は俺の方が上だ。だから、この拘束を解くのは、造作もない。
けれど、俺は小刻みに震える腕を振りほどけなかった。
俺も華太が好きだから。
小峠華太
言葉に出さずとも、俺たちの間に流れる空気感から、お互いを好いている事に気付いていた。
小峠華太
小峠華太
どんなに好いていても、もう華太は俺のものにならないのに。
小峠華太
南雲峺平
華太の願いを受け入れる事は、和中の兄貴を裏切る事になる。
けれど、俺は自分の心に背く事は出来ず、華太を受け入れた。
暗闇の中、華太を布団に押し倒す。
今日は新月。月という光源の恩恵が得られない故に、闇が全てを覆い隠してくれる。俺たちの秘め事さえも。
これが最初で最後だから、この光景を生涯忘れぬように、焼き付けときたいのに、光源がないせいで、呼吸が交わる程に密着しているというのに、華太の顔も肢体も闇にとけて見えないのが、なんとも口惜しい。
先ほどまで、交わっていた視線は、今はもう交わっていない。
和中の兄貴に手を引かれながら、華太は和中の兄貴と同じ方向を見つめ、歩いていく。
華太がしたように、俺もあの日の記憶と華太への想いを胸に秘めたまま、墓場まで持っていこう。
願わくば、晴天のように、華太の未来は晴れやかであれと、空に俺の願いを託し
南雲峺平
俺は和中の兄貴と華太にかけより、笑顔で祝辞を述べた。
おわり
あとがき 報われないからこそ、美しい恋もある。 意味合いは違うけど、この話の元になった言葉は二つ。 『男は体で浮気をし、女は心で浮気をする』 男は安心した時に浮気をし、女は不安を感じた時に浮気をする。 心では別の男を想っていても、女は体で他の男とも浮気が出来るので、女の浮気は、たちが悪いとも言われる。どっちもどっちですけどね。 『男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる』 正確には「男はいつも最初の恋人になりたがり、女は誰も最後の愛人でいたいのだから、所詮おんなじ気持ちで、求め合っていると思っちゃいけない」です。 男性は初恋の女性に対し、いつまでも未練がましく好意をもつ傾向にある。だから、女性の過去の男を気にする。反対に女性は、新しい彼氏が出来ると過去を忘れて、今の彼氏に夢中になる。故に彼氏の過去の恋愛は気にならず、彼氏の「最後の女」になれるかを重視する。 だから、男の恋は、名前をつけて保存、女の恋は、上書き保存と言われる由縁。 実は書ききれてない細かい設定もある。 和中は、二人の不貞行為を知っている。二人が恋仲であるのを知っていながらも、和中は横恋慕していた。 親っさんから、身をかためる気はないかと尋ねられた際に、華太となら身をかためたいと返答した。それにより、親っさんは、華太に和中のもとに輿入れするように命じた。 この時代、結婚とは、家同士がするものという考えが強く、別に付き合っていた人がいても、強制的に相手と別れさせ、親の望む相手と結婚させていた。なので、華太には拒否権がなかった。 結果的に、南雲から華太を奪とってしまった事で、和中も負い目を感じており、一夜限りの逢瀬だからと、目を瞑った。チャットノーベルだと、この辺が書きにくい。もう少し、掘り下げて書けば、話に深みが出るんだけどね。
コメント
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言われてみれば、そうやな昔の人は親が絶対と言うからなぁ華太は南雲の兄貴に恋を寄せていて結婚したいのかな?意味深い所も出せてるのが凄いよ