冴内蒼空
………へっ?
蒼空の間抜けな声が響いた。
可愛シエル
何?
冴内蒼空
え、っと……え?
シエルの言葉が 上手く飲み込めない。
心拍数が上がっていくのがわかる。
膝の上で握り締めた掌は じんわり汗ばんでいる。
可愛シエル
?
可愛シエル
そういう話じゃなかった?
シエルは蒼空の様子に首を傾げる。
冴内蒼空
聞き間違い、ですか…?何か、聞き間違っちゃいけないワードが…聞こえた、気がして…
冴内蒼空
時に……なぜ、可愛さんは承諾してくださったんです…?
可愛シエル
………………あの、落ち着いて欲しい
何とも言えぬ圧に シエルは微妙な表情で返す。
冴内蒼空
あっす、すみません……
緊張をどうにかするため、 手元にあるアイスティーを ぐいっと飲み干す。
激しい動悸はまだ続くが それでも幾分かはましになった。
冴内蒼空
あ……いきなり話しちゃったことがダメだったんだろうな、っていうのは分かってるんだけど、その……すごく嫌そうだったから…
冴内蒼空
服を着てほしいって、言ったこと…
冴内蒼空
だから、何で良いって言ってくれたんだろう、って…
冴内蒼空
………あっ!いやっ!すごく嬉しいんですけどっ!
可愛シエル
………
可愛シエル
すいませーん、アップルパイくださーい
店員
かしこまりました
冴内蒼空
なんか…ごめんなさい。気になっちゃって…
可愛シエル
わたし着なくていいけど
めんどくさそうに吐き捨てられ 蒼空は慌てた。
冴内蒼空
え!やっ!すごく、嬉しいです…っ
冴内蒼空
あ、見てもらって分かったと思うんだけど、作ることに重点を置いていて…
冴内蒼空
普段着ているような服っていうよりは、フリルが付いてたり袖がバルーンっぽくなってたり、作り甲斐がある服っていうか…!
冴内蒼空
…けどこの子たち、作ったとこまでは良かったんだけど……
冴内蒼空
女装する趣味はもちろんないから僕が着るなんてこともないし…
冴内蒼空
かといって捨てるなんて出来ないし……
店員
お待たせしました
可愛シエル
はーい
蒼空の言葉が止まらなくなった頃 シエルの頼んだ アップルパイが運ばれてきた。
ここのアップルパイは ひとつひとつ焼き立てで 隣にバニラアイスが添えられている シエルのお気に入りだ。
シエルは器用にパイを切ると アイスと合わせて口に運んだ。
可愛シエル
(うま~~~~)
冴内蒼空
でね、今まではもちろん作って満足してたんだけど、
蒼空の喋りは止まらない。
冴内蒼空
可愛さんの存在を知って、僕が作った服が似合うかもしれない!って思ってから、この子たちはこのままで幸せなのかなって思うようになって…
冴内蒼空
この子たちを着てあげることがこの子たちの幸せなのかなって…
可愛シエル
(あ~おいしいな~)
可愛シエル
(てかそろそろソシャゲのライフ全部溜まってない?)
可愛シエル
(確認したすぎるな…)
何やら話は続きそうだったが、 繰り返される話にそろそろ 興味を失ったシエルは 蒼空の目を見て問いかけた。
可愛シエル
でー、どうするの?着るの?着ないの?
冴内蒼空
…!
冴内蒼空
着て…っ、着てほしいです着てください!
蒼空はガタッと音をたて 元気よく立ち上がって叫んだ。
店内がシーンと静まり返る。
冴内蒼空
あ
目の前のシエルも目を丸くして 蒼空を見上げた。
シエルは驚いたのだろう、 口がぽかーんと開いている。
冴内蒼空
(やっちゃった~~~~!!!!)