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LINE713

第1話 - あ

2023年06月03日

#スカッと

田中俊樹

サツキ

メイ！帰ってきなさい！これは命令です

メイ

えっ？お姉ちゃん？どういうこと？

サツキ

とにかく一秒でも早く帰ってきて！事情はその時に話すからさ

メイ

いくら姉妹だからって、身内のお姉ちゃんに命令されたくないんだけどなぁ・・

サツキ

これまでも父さんのお店を引き継ぐ受け継ぐ者同士、助け合ってきたじゃない！

サツキ

身内だからついキツイ言い方になったけど、とにかくこっちに来てほしいのよ

メイ

どんな事情か知らないけど、お姉ちゃんがそこまで言うんだから

メイ

私の店の仕事が一段落したらできるだけ早くそっちに向かうよ

サツキ

ありがとう、メイ。恩に着るわ

～数日後～

メイ

お姉ちゃん！何事かと思って急いで帰ってきたのに

メイ

肝心の本人が不在って、どういうこと？私も料理長に抜擢されたばかりで

メイ

こっちはネズミの手も借りたいくらい忙しいっていうのに！

サツキ

それをいうなら猫の手も借りたい、でしょ

メイ

そんなことどうでもいいのよ！

メイ

帰ってきたら、料理長らしき人もいないし

メイ

他の従業員に聞いても、曖昧な返事しかかえってこないし

メイ

一体全体どうなってるのよ！

サツキ

あっ、メイ！帰ってきてくれたのね。

サツキ

急用でどうしても出なきゃいけなってしまって

サツキ

実は料理長が突然辞めてしまって、私は当面の金策であちこち駆け回ってるの

サツキ

で、あなたにきてもらった理由だけど

サツキ

原価率下げるために食材の質を落としてことに対して

サツキ

せっかく一流の店で腕を振るうつもりだったのに失望したとかで

サツキ

名料理長が二人立て続けに辞めちゃったの。プライドだけは一流で

サツキ

職人気質丸出しの相手より身内のあなたの方が気が楽でしょ

サツキ

そんなわけであなたに料理長を任せたいと思ってるの。これは命令ですからね

メイ

え？ちょ、ちょっと。それはいくらなんでも唐突すぎじゃない？

メイ

あたしは、お姉ちゃんの手下でも奴隷でもないんだからね

サツキ

あーごめんごめん。ついテンパッちゃったわ

サツキ

コスト管理は徹底してるはずなんだけど

サツキ

私が父さんの跡を継いでオーナーになってから、利益が右肩下がりで

サツキ

お店のスタッフもなかなか長続きしなくってすぐ辞めちゃうし

サツキ

店舗経営のことを教わる前に父さんが亡くなったでしょ

サツキ

それであなたに料理長になってもらって違った視点から改善点があれば

サツキ

指摘してほしいと思ってるのよ

メイ

えっ！料理長って、私はまだ修業中の身なんだよ、荷が重すぎるよ！

サツキ

あなただって、父さんから託された一流の日本料理店で直接指導されたはずよ

サツキ

キャリアは短いかもしれないけど、この店のたいていの事は分かってるでしょ

メイ

うーん。お姉ちゃんがそこまで言うならやるしかないかぁ・・・

メイ

父さんが残してくれた万重亭が倒産なんて事になったら

メイ

シャレにならないからね

サツキ

あんた、オヤジギャグかましてる場合じゃないのよ！

メイ

あのね、人間ピンチの時ほど、心に余裕を持つのが大事なの！

サツキ

そ、そっか。じゃお願いするわね

メイ

とりあえず、今の職場の店長に事情を説明して退職手続きを済ませないとね

メイ

それから、差し当たって残ってる従業員に

メイ

お姉ちゃんがオーナーになってからのことなんかを聞いてみるわ

サツキ

さすが私の妹の事だけあるわね！随分頼もしく成長したものね

サツキ

期待してるわよ！メイ料理長！

～数日後～

メイ

あれから残ってる従業員の方にお姉ちゃんの経営方針や

メイ

従業員との対応なんかについて色々聞いてみたんだけど

メイ

みんな揃いも揃って、不平不満の嵐だったわ

サツキ

ちょ、ちょっとそんな一方的な話だけを真に受けないでね

サツキ

だいぶ話を盛ってる可能性高いでしょうから

サツキ

たしかに、料理長やスタッフにかなり厳しく接してきたのは認めるわ

サツキ

でもそれは、父さんが急逝して私がいきなりオーナーとして

サツキ

店を継ぐ事になったから、気持ちが張り詰めすぎてたかもしれないし

サツキ

それに、何よりやっぱり30過ぎたばかりの女じゃ荷が重すぎるんだろうよ

サツキ

そんな風にお客様から見られるのだけは絶対嫌だったから

サツキ

ついキツイ物言いや態度になってしまったかもしれないわ

メイ

お姉ちゃん、それは無理もないしそうなるのも仕方ないかもだけど

メイ

私が思うに問題はそこじゃない気がするんだけど

メイ

お姉ちゃんが余りに利益優先にこだわりすぎて

メイ

一流の日本料理店には似ても似つかない品質低下した料理になり下がったのが

メイ

客離れをまねいて利益が出なくなった直接の原因だと思うよ

メイ

そんなやり方に愛想をつかして一流の料理人ほど辞めていくのも無理ないよ

サツキ

な、なによ？まるで私が諸悪の根源みたいな言いようね

サツキ

どんなに粗悪な素材でも美味しく仕上げるのが一流の料理長でしょうが！

サツキ

これは私の持論、いえ信念なの

メイ

そんなに気負うほどの事かしら。それに私が聞いた範囲では

メイ

調味料は一番安いものを使いなさい！とか

メイ

月に最低3品は新メニューを考えなさい、とか

サツキ

その辺は私も無理強いしすぎたと反省してるわよ

メイ

それに、どんなにおいしい料理を作っても

メイ

試食の際に唐辛子を大量にふりかて食べるので、この数か月で

メイ

オーナーから合格をもらった料理は殆どなしだった・・

メイ

そうぼやいて二人目の料理長もすぐ辞めたって

メイ

今のスタッフさんが話してくれたわ

メイ

それからね、父さんがお店の内装費にと残してくれたお金はどうしたのよ？

サツキ

あっ、それね。高級外車やブランド物なんかに使ったわ

メイ

な、なんですって？それって公私混同じゃない！

サツキ

だって、広告宣伝費に計上すれば店のイメージもアップするし

サツキ

経費扱いになるから、節税効果もあって一石二鳥でしょ！

メイ

はぁ。溜息しか出ないわね。そりゃ、店の売り上げダウンするわけだわ

サツキ

メイ、あなた一体どっちの味方なの？わたし？それとも店のスタッフ？

メイ

どっちが敵か味方か、なんて次元の話してる場合じゃないでしょ！

サツキ

あらそう。じゃあオーナーとして私のアイデアを伝えるわ

メイ

なんだかろくでもないこと考えてそうね

サツキ

黙って聞きなさい！うちの名物料理の比内地鶏の親子重の食材

サツキ

もっと安い鶏肉あたりに偽装しなさい！

メイ

な、何ですって。私も修行頑張って

メイ

一日でも早くお姉ちゃんの右腕になるつもりだったのに、見損なったわ！

サツキ

あなたにはまだ納得できないかもしれないけど

サツキ

世の中綺麗事だけじゃ生きていけないの。

サツキ

食材偽装なんて飲食業界なら大抵やってるし

サツキ

うちの店なんてまだかわいい部類よ

サツキ

それにミシュランの格付け店として紹介されてるし

サツキ

きっとうまくいくよ。

メイ

はぁ、お姉ちゃん、死んだ父さんがお墓の下で嘆いてるよ。

メイ

情けない娘だなってね

メイ

とにかく、食材偽装なんて私は絶対するつもりはありません！

サツキ

じゃあ、あなたのお給料で比内地鶏を買ってきて出しなさいよ！

サツキ

私はブロイラーをを仕入れるくらいの代金しか支払わないからね！

～数日後～

サツキ

メイ、あのミシュランから料理の質の確認のために2名来店するらしいの

サツキ

この先はどうすればいいか言わなくても分かってるよね

サツキ

念のための確認だけど、調査員用の食材とそれ以外の人用の食材とを

サツキ

分別するよう料理人に指示しなさいね

メイ

まぁ、そんな事だろうとは予想してたけど私は従うつもりはないからね

サツキ

もう！なら、オーナーの私からスタッフに直接指示出すしかないようね

メイ

そんなのでうまく立ち回れると思ってるようだけど、いつかばれるんだから

メイ

お金と違って一度失った信用は二度と取り戻せないよ

サツキ

半人前のくせに、言う事だけは一人前ね

メイ

これは最後の忠告だからね。あとは姉さん次第よ

～数日後～

サツキ

ちょっとメイ、内部通報があったため、今から立ち入り検査しますって、

サツキ

店に行政の調査員が来たんだけど、そんな話聞いてなかったわ！(・_;)

サツキ

私に内緒でいったい何を企んだの！？説明しなさい！！

サツキ

ミシュランから来店のはずでしょ？まさかあなた(; ･`д･´)

メイ

先日の二人連れはミシュランの調査員じゃなくて、行政の調査員だったのよ

サツキ

へっ？

メイ

２人ずつ2組入店してくださって、そのうちの1人が外国人っぽかったから、

メイ

そう思ってAの鶏肉を出すように指示したんでしょうけど

メイ

鶏肉Aを食べたのは2人だけで、あとの2人は鶏肉Bを食べてたから

メイ

そこで食品偽装がバレたんでしょ？

サツキ

じゃあミシェランはガセネタだったの？

メイ

いいえ。ミシュランの人も来てましたよ

メイ

後から入店した中国系の男性２人がそうよ

メイ

Bの鶏肉だったけど、美味しそうに食べてくれたわ

サツキ

そこまで用意周到だったなんて、私のこと馬鹿にしてたでしょ？

メイ

でもね、いくらなんでも比内地鶏とブロイラーは、一目瞭然だよね？

サツキ

そ、それで私の立場は今後どうなるのかしら？

メイ

行政の人がスタッフに詳しく聞き取りしてたから、

メイ

それなりの処罰は覚悟するしかないわね。食材偽装は立派な犯罪よ

サツキ

もう、なんで私がこんな目に合わなきゃならないのよ！

～数日後～

メイ

お姉ちゃん、いまどこ？あっ、今返信できないか・・・

メイ

お店は従業員の判断で、2ヶ月間の営業停止になったわ

メイ

お客様第一で長年愛されてきた万重亭のスキャンダルが

メイ

大っぴらになったんだからしかたないでしょうね

～数時間後～

サツキ

あぁ、疲れたわ。ねちねち重箱の隅をつつくような質問ばかりしてくるし

サツキ

暇そうな警官がいやらしい目つきでじろじろ見てくるし、最悪だわ

メイ

少しでも処罰を軽くしてもらおうと、ホステスみたいな服装にしたのでしょ？

メイ

それより残った従業員の未払い金や補償金の工面の当てを考えた方がいいよ

メイ

それから2ヶ月間営業停止処分になるんだから、お店は閉鎖せざるを得ないわ

サツキ

な、なんですって？あの店は父さんの遺品みたいなものなのに・・・

メイ

だから言ったでしょ。一度信用を失うと二度と取り戻せないって

メイ

自分の事ばかり気にしてないで、金策のあてはついてるの？

メイ

誠意をもって対処しないと執行猶予つかないかもだよ

サツキ

な、なによ。人の不幸がそんなに嬉しいの？

メイ

嬉しいわけじゃないけど、いい気味だなって思ってるわ

メイ

お姉ちゃんは一度社会的制裁を受けた方が長い目で見て為になるから

サツキ

あんたをこんなに憎たらしく思ってのはこれが初めてよ

メイ

何とでも思ってくれればいいけど、

メイ

補償金は早めに手当てした方が心証はよくなるわよ

サツキ

そ、そういわれても。私も金欠なのに・・・

メイ

よく言うわ。父さんが店の内装費として残してくれたお金

メイ

姉ちゃんの傲慢な理屈で、高級ブランド品に化けたでしょ

メイ

それを換金して充当すればいいだけの事じゃないの？

サツキ

あんた、私から身ぐるみ剥ぐつもりなの？

メイ

私は現実的なアドバイスをしてあげてるだけよ

メイ

他にあてがあるのなら姉ちゃんの好きにすればいいだけの事よ

～数週間後～

サツキ

メイ、元気にしてる？

メイ

あ、お姉ちゃんの方こそ大丈夫なの？

サツキ

私にも幸運の女神が微笑んできたみたいよ

サツキ

この前、店舗経営に関する無料セミナーに参加したんだけど

サツキ

そこでイケメンの店舗経営コンサルタントを名乗る人と知り合って

サツキ

個人的に色々具体的にアドバイスをしてもらってるのよ！

サツキ

それがすごく説得力があって、またミシュランを目指しましょう！

サツキ

なんて励ましてくれて、新店舗の手付金として500万必要だっていうから

サツキ

さっそく銀行から借り入れて彼に渡したのよ！

メイ

えっ！何だかうさん臭いよね、、、

サツキ

会えばわかるって！経験も知識も豊富で誠実さが服を着て歩いてるような人よ

メイ

詐欺師の典型のような気がするけど

サツキ

私の幸運がそんなにうらやましいのね。わかるわかる♪

メイ

まぁお姉ちゃんの人生だからもう何も言う事はないかな

メイ

せいぜいがんばってねぇ

～後日談～

メイ

ほどなく姉からのLINEで、自称コンサルタントにお金を持ち逃げされ借金だけがのこったようです

メイ

その借金返済のため、歌舞伎町のラウンジに年齢を10歳サバ読みして入店するも身バレし、

メイ

【偽装ババア】という異名をつけられたとか、ぼやいてました

メイ

わたしはというと、料理長の期間が短かかったこと、オーナーから偽装を提案された際に断っていることなどから罪には問われず、

メイ

以前の料亭の女将から戻っても良いと許しを経て、また料理の修行に励む充実した日々を過ごしています

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田中俊樹

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