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第1話

あ

2023年09月10日

#スカッと

田中俊樹

ショウ

キクちゃん、火傷大丈夫だった？

キク

はい、大丈夫です

キク

すぐ冷やしましたし、多分水ぶくれできるだけじゃないかな、と思います

ショウ

本当に、ごめんね

ショウ

俺も、もう少しちゃんと見てればよかったよ

キク

いえ、そんな、ショウ先輩は悪くないですよ！

キク

私がスープ捨てる時、手を滑らせたのが悪いので...

ショウ

鍋、重かったでしょ？

ショウ

しんどかったら、無理して運ばなくていいからね

キク

はい、ありがとうございます

ショウ

明日も入ってるの？

キク

はい、明日はディナーで入ってます

ショウ

そっか！

ショウ

俺もいるし、フミカもいるから、手が辛かったらなんでも言ってよ！

ショウ

俺は明日キッチンになるけど、フミカがいれば安心だろ思う

キク

そうですね

キク

本当に、今日は迷惑かけてすみませんでした

キク

これからは、気を付けるので

ショウ

みんな迷惑なんて思ってないよ

ショウ

大きな怪我とかする方が、俺は心配だからさ

ショウ

じゃあ、おやすみ

キク

おやすみなさい

～5分後～

キク

あの、フミカさん

キク

今日、火鍋のスープ捨てる時、なんで片方の手話したんですか？

キク

そのせいで、私バランス崩したんですよ？

フミカ

あ～ごめんね

フミカ

足元、滑っちゃって、

フミカ

バランス崩しちゃったんだよね

キク

私には、そんなふうには見えなかったです！

キク

わざとじゃないんですか？

フミカ

はあ？ふざけたこと言わないでよ！

フミカ

本当に、バランス崩しただけ！

フミカ

何の根拠があって、そんなこと言ってるわけ？

キク

根拠はないですけど、

キク

でも、わざとやっているようにしか、見えなかったんです私には

フミカ

も～信じられない

フミカ

そんなこと言うなんて

フミカ

最悪

キク

本当に、わざとじゃないんですか？

フミカ

だから、違う、って言ってるじゃん！

キク

じゃあ、信じます

フミカ

だいたい、なんで私が100％悪いみたいに思ってるわけ？

フミカ

よく周りのこと見てないそっちにも、責任はあるでしょ

キク

それとこれとは、別じゃないですか？

キク

どこが？

フミカ

キクちゃんさ、ショウにかまわれて浮かれてるんじゃないの？

キク

浮かれてないですよ！

フミカ

だって、ショウがホールにいる日は、

フミカ

暇があればショウのこと目で追ってるじゃん

キク

でも、仕事には集中してます

フミカ

あれ？ショウのことは見てるんだ

フミカ

否定、しないんだね

フミカ

先に言っておくけど、ショウと必要以上に話さないでもらえる？

フミカ

業務的な内容だけ

キク

え？なんでですか？

フミカ

うざいの、ショウと話してる時のキクちゃんの笑う顔が

フミカ

まだ入ってきてそんなに経ってないのに、

フミカ

特にショウにちやほやされてさ、

フミカ

店長にだって好かれてて、新人のクセしてなんでそんなにうまくいくわけ？

キク

私は普通に仕事しているだけです

キク

それ以外は何も...思っていないですよ

フミカ

そういうこと言うのがさらにムカつくの！

フミカ

素であんな上目遣いの態度取ってるの！？

キク

私は身長低くて、ショウ先輩が高いので、

キク

そう見えるだけです

フミカ

嘘くさいな～

フミカ

適当なこと言って、そういうふうになんでもない顔してる人ほど、

フミカ

下心あったりするんだよね

キク

そんな目で見たことありません

キク

ただの先輩です

フミカ

じゃあ、ただの先輩なら業務的な連絡以外は、

フミカ

会話しないでよね

フミカ

いい？

キク

分かりました...

～翌日21時～

キク

フミカ先輩、いい加減にしてください！

フミカ

何？今日店長に怒られてたこと？

フミカ

私のせいにするんだ～

フミカ

聞き間違えたの、そっちじゃないの？

キク

いえ、そんなことないです！

キク

「20名分の牛肉コースで予約が8月5日で入ったから入れといて」って…

フミカ

絶対に、先輩言いましたよ！

キク

それで、昨日、時間になっても来なくて電話したら、

キク

9月5日、って言われたんですよ

キク

何で、そんなウソ私に言ったんですか...？

フミカ

だから、私は本当に9月、って言ったって！

フミカ

あの時、キクちゃん卓番間違えてちょっと焦ってたじゃん

キク

焦ってた気持ちが出て、ちゃんと正確な情報を聞き逃しただけじゃないの？

キク

どうなの？

フミカ

あの時は、ミスもあって確かに焦っていたとは思います...

フミカ

やっぱり、じゃあそのせいで間違えたんじゃないの？

フミカ

だってキクちゃん、ミスが続くとそのあとも色んなミスが続くこと、多いでしょ？

キク

確かに、それはそうですけど...

フミカ

じゃあ、今回のも聞き間違いだったんじゃないの？

フミカ

もう1回思い出してみてよ

フミカ

どうなの？

キク

そういわれると、

キク

そうだったのかもしれません...

フミカ

やっぱり、そうでしょ？

フミカ

自分のミスは、しっかり認めないとね

フミカ

今度からは、気を付けてよ

～5分後～

ショウ

キクちゃん、お疲れ

ショウ

今少しだけ時間大丈夫？

キク

はい、大丈夫ですけど...

キク

どうしましたか？

ショウ

いや、今日のミスのこと、気にしてないかな、って...

キク

あ、本当に、大量発注させてしまって申し訳ないです

ショウ

まあ、一番原価の高い肉だから、

ショウ

店長も怒ってはいたけど...

ショウ

でも、今後、不安な時は俺がフォローするから！

ショウ

だから、頑張ろう！

キク

私、このバイト向いていないのかもしれません...

ショウ

え？何で？

キク

ちょっとしたことで慌てちゃうし、それが重なるとミス連発しちゃうし...

キク

フミカ先輩の言ったこと、聞き間違えるなんてそんな、初歩的なミスするなんて...

ショウ

え？予約の電話って、キクちゃんが取ったんじゃないの？

キク

いえ、私じゃなくて、

キク

フミカさんが取ったのを言われて、私が店長に伝えたんです

ショウ

そうだったんだね

キク

本当に、こんなミスするなんて情けないですよね...

ショウ

えっとさ...

ショウ

ちょっと、確認してからでもいいかな？

ショウ

もし、辞める、っていう覚悟してるとしたら...

キク

え？何を確認するんですか？

ショウ

いや、ちょっとね、確認してからまた連絡するよ！

キク

えっ？だから何を！？

～翌日～

ショウ

キクちゃん！

ショウ

この前の予約のことだけど...

キク

はい、どうしましたか？

ショウ

あのね、キクちゃんのせいじゃなかったよ

キク

え？どういうことですか？

ショウ

予約したお客さん、結構うちに来る常連客で、

ショウ

名前覚えてるんだよね

ショウ

それで、電話で予約する時は必ず、電話を取っている店員の名前を聞くんだよ

ショウ

それで、今日、そのお客さんに電話かけなおして聞いてみたら、

キク

フミカの苗字、言ってたんだよ

ショウ

それで、お客さんはちゃんと9月、って言ってたらしいよ

キク

やっぱり、聞き間違いじゃなかったんだ...

キク

でも、なんでショウ先輩、

キク

何かがおかしい、って気づいたんですか？

ショウ

前にも、同じようなことがあったんだよね

キク

同じこと？

ショウ

そうそう、

ショウ

俺より1つ下の男の子だったんだけど、

ショウ

すごい仕事できてさ、

ショウ

フミカより後に入ったのに、どんどん昇給して、そのうちフミカのこと越したんだ

キク

へ～すごい！

ショウ

それから、なんかその子が元気失くし始めて、

ショウ

それで、今回みたいなことが起きて、その子辞めちゃったんだ

キク

もしかして、その子もフミカさんから嫌がらせ受けていたんですか？

ショウ

う～ん、たぶんね

ショウ

そんな気がするよ

ショウ

辞めちゃった後に電話したら、

ショウ

「もうフミカさんと一緒に働くのは嫌です」って泣きだして...

ショウ

そのあと、もう思い出すのも嫌だったのか、バイトのLINEグループ抜けて、

ショウ

俺のLINEもブロックされちゃってさ...

ショウ

ちょっと悲しかったな

キク

そんなことが...

ショウ

でも、他のアルバイトの同期や後輩には普通に接してたから、

ショウ

そこまで気にする必要なかったのかも、って思ってたんだよね

ショウ

俺の間違いだったな

ショウ

もっと周りのこと、見るべきだったな...

キク

そんな！

キク

ショウ先輩には、いつも助けてもらってばかりで、

キク

本当に感謝してます

キク

ほんと？ありがとう

ショウ

じゃあ、これからも続けてくれる？

キク

もちろんです！

キク

絶対にやめませんよ

ショウ

良かった！

ショウ

そう言ってもらえて、安心したよ

ショウ

これからも、よろしくね！

キク

はい、よろしくお願いします！

～翌日～

ショウ

フミカ、今日だけど、シフト入らなくていいって

フミカ

え？なんで？

ショウ

心当たりないの？

フミカ

何？心当たりって...

ショウ

店長に、フミカがキクちゃんに嫌がらせしてること教えたら、

ショウ

しばらく出勤停止にする、って言ってきたよ

ショウ

20名の火鍋の予約取ったのって、

ショウ

フミカらしいじゃん？

フミカ

は？何言ってんの？

フミカ

あれは、キクちゃんが取った、って何度も言ったじゃん

ショウ

う～ん、それなんだけど、

ショウ

予約してくれたお客さんはフミカが名前を名乗った、っていうんだよね

ショウ

キクちゃんが自分の名前を言い間違えるとは、思えないけどな～

フミカ

それは...

ショウ

他にも、店長とか他のバイトの子が見てなさそうな時に、キクちゃんに嫌がらせしてたでしょ？

フミカ

は？そんなこと、するわけないじゃん

ショウ

この前なんて、配送で来た荷物とか、

ショウ

荷ほどきキクちゃんに任せて、フミカだけ先に休憩入ったらしいじゃん

ショウ

その時客席もそんなに人いなくて、2人だけだったんだろ？

ショウ

2人でやれば早く済んだのに

フミカ

あの時は、体調が悪かったの

フミカ

だから、お願いしたのよ

ショウ

他にも、店長がフミカとキクちゃんに頼んだポップづくりを、

ショウ

キクちゃんだけに押し付けたり...

ショウ

俺、人の時見分けるの得意だから、

ショウ

完成したポップ見て、全部キクちゃんが作ったんだ、って分かったよ

フミカ

だって、あれはキクちゃんからやりたい、って言ってきたから、

フミカ

やらせてあげたんだよ

ショウ

まだウソつくの？

ショウ

もう、とっくに他のバイトの子からも目撃情報なるのに...

フミカ

え？目撃情報、って...

ショウ

フミカが思っている以上に、みんなよく周りのこと見てるよ

ショウ

でも、怖くてなかなか言え出せなかったらしいよ

ショウ

フミカに何か仕返しされるかもしれない～って

フミカ

そんな...でも、私バイトして自分で家賃払ってるし、

フミカ

今出勤停止とかになったら、家賃払えなくなる...

ショウ

そんなの、自業自得だろ？

ショウ

店長が決めたことだし、大人しくしたがった方がいいんじゃない？

フミカ

分かった...

フミカ

じゃあ、私みんなに謝って、態度改めるから！

フミカ

だから、また戻りたい...

ショウ

それは、俺に言うことなの？

フミカ

え？

ショウ

俺よりも、先に言わなきゃいけない人がいるんじゃない？

ショウ

誰よりも、仕事覚えようと必死だった子を邪魔するなんて、

ショウ

俺は許さないよ

フミカ

まずは、キクちゃんに謝る...

ショウ

それで、キクちゃんが許してくれたら、店長もまた考え直してくれるみたいだぞ

フミカ

分かった、

ショウ

これからは、後輩いじめとかそんなつまんねーこと、するんじゃねーぞ

～後日談～

キク

それから、フミカさんは私に今まで嫌がらせしてきたことを、謝ってくれました

キク

でも、フミカさんの嫌がらせの事実を知ったバイトの子たちは、フミカさんを避けるようになり、

キク

その気まずさを感じたのか、フミカさんはいつの間にか辞めていました

キク

私は、今もずっと気になっていたショウ先輩とバイトを続けていて、最近、付き合い始めました

キク

恋人として、仕事仲間として、頼れるパートナーを手に入れることができました

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田中俊樹

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