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"何でも屋"とも呼ばれる有名な探偵事務所で働く二人の探偵がいた。
よく回る頭で幾つもの事件を解決してきた二人だが、彼等でも解決しきれない問題が存在する。
それは"怪異"と呼ばれるもので、人為的なものではなく、いわば超常現象。
神隠しやら都市伝説やらの怪異は、主に街が暗くなってからの方が逢いやすい __らしい。
探偵達の活動は日が暮れる時間から始まる。
彼等が仕事を終える頃には日も沈んで、街は暗くなってしまう。
これは、不運にも怪異に巻き込まれてしまう探偵二人のお話__。
がたん、ごとん。
気がつけば電車に揺られていた。
いや、もちろんこの電車に乗った記憶はあるのだが、何故か違和感を覚える。
どうも電車内に人は1人もいないようで、外も真っ暗闇だ。
違和感。
がたんごとんと電車特有の音がしていたと思っていたが、どうやらその音もしないらしい。
__無音の世界だった。
怖い、恐い。
そう思っていると、不意に持っていた鞄の中の携帯電話が鳴った。
画面を見るとそこには、名前を見るだけで安心できる人物の名前があった。
迷いもせず、無音の世界から抜け出すために通話ボタンを押した。
月見 晴翔
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
確かに、ここは何処なんだろうか。
疑問に思って、電車内にあるはずの電光掲示板を探す__が、そんなものは存在せず。
今、自分が何処にいるかが分からない。
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
我ながらどうも子供っぽいな、と思う。
だが、それ以上にこれまでにない恐怖に襲われているのだ。
仕方がないと言えば、仕方がない。
月見 晴翔
その言葉にほっと一息つく。
未だ車内には人っ子一人おらず、外も真っ暗闇で無音の世界だ。
それでも、晴翔さんがそばにいてくれる。
それだけで恐怖も幾分かマシになる。
月見 晴翔
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
電車はさっき__の辺りからノイズがかかって、聞き取れなかった。
出雲 治
出雲 治
先程まで難なく通話できていたというのに、何故か急にできなくなる。
また、無音の世界に放り出された__と思えば、電車が駅に着いた。
扉が開くと同時に、電波を取り戻したか晴翔さんの声が聞こえた。
月見 晴翔
ただその一言だけ。
何故が酷く焦っている、でも何とか冷静を保とうとする声。
言われなくとも降りるつもりではいたが、はいと返事をして駅のホームに降り立つ。
相も変わらず人はいない。
しかし多少の街灯はあり、月明かりもある。
出雲 治
きさらぎ駅。
そう書いてあり、前の駅はかたす駅、次の駅はやみ駅らしい。
月見 晴翔
月見 晴翔
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
月見 晴翔
先程と同じく、酷く焦っている声。
線路を辿って戻る、更に何があっても後ろを振り向いてはいけない。
その言いつけを守って、歩き出した。
電車に轢かれてはまずいから、線路の真上は避けることにした。
可笑しい。
僕は今、彼と通話している。
電車の脱線事故に巻き込まれて病院送りにされたはずの、出雲と。
先程までは事務所にいた。
まだ人の訪問はなく、外も明るい時間で。
そんな時に、事務所の電話が鳴ったのだ。
いつもなら出雲の担当なのだが、今日は生憎彼は朝からいなかった。
だから電話に出たのだ__尤も、それは依頼の電話なんかではなかった。
病院からの電話で、出雲が脱線事故に巻き込まれたこと、彼は未だ助かる見込みがあり、病院で手術か何かを受けていること。
そして、彼が病院に運ばれる際に僕の名を口にしたこと。
そんなことを片っ端から聞いた。
それで事務所に電話が来たのか、と納得し、とにかく急ぎ足でその病院に向かった。
待合室で医師からの話を待っていた__その時不意に、携帯電話の着信が鳴った。
画面を見るとそこには、出雲の文字が。
何故、どうして。
単純な疑問だ。
だって今、彼は緊急手術室にいて、意識もないはずで。
恐怖を感じつつも電話に出て、そして開口一番に嘘をついたのだ。
「ようやく繋がった」なんて、一度も電話など掛けてもいないのに。
それでもそう嘘をついたのは、何故だか分からないが、電話越しの彼は紛れもなく出雲自身で、酷く不安な状況下にあるんだと思ったから。
気味が悪い。
頼りになるのはそこらにぽつりぽつりと立っている街灯と月明かり、そして晴翔さんの声だけ。
月見 晴翔
出雲 治
そう言いかけたとき、後ろの方から太鼓と鈴のような音が聞こえてきた。
無音の世界に急に音が聞こえてきたものだから、酷く驚いた。
月見 晴翔
出雲 治
出雲 治
出雲 治
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
振り返るのは怖い、しかし正体が分からないのが一番怖い。
どうしても確認したかったが、晴翔さんの言いつけを破るのは絶対に駄目だ。
今のところは近付いている様子もないし、黙って歩こうと思った。
出雲 治
月見 晴翔
出雲 治
足を止めて話し込んでいると、先程から聞こえている祭囃子のようなものがだんだん近付いていることに気付いた。
音が大きくなって、その度焦りと恐怖が増す。
月見 晴翔
出雲 治
月見 晴翔
そう言われたので、先よりも早足で歩く。
どん、どん、しゃん、しゃん。
音はどんどん大きくなっていく。
トンネルに入っても、未だ祭囃子の音は止まない。
不気味な雰囲気に、嫌な冷や汗が背中を伝う。
先程まではまだ遠いと感じていた音は、ずんずんとこちらへ進んでくる。
いよいよ恐怖に支配されて走り出した。
月見 晴翔
出雲 治
そこでハッ、とした。
目の前に足が一本の人間が立っていたから。
言葉では無い言葉を発するそれは、まるで人とは思えなかったが。
恐怖に足がすくんで動けなくなりそうだった。
それでも後ろからは得体の知れない祭囃子が迫ってきている。
終わりも分からないが、兎に角走る。
何かを知っているはずの晴翔さんを問い詰めるのはここから抜け出せたときにしようと、彼の指示に従って目もくれず通り過ぎる。
通り過ぎた__と思えば、視界がぐにゃりと歪んだ。
つまづいたのか、しかし足を掴まれているような感覚もして、考えることが多すぎて頭が働かない。
もう駄目だ__そう思ったときにはもう遅く、倒れ込む前に気を失ってしまった。
次に見た景色は、真っ白い天井。
ここは何処なのか、今自分はどんな状況下にあるのか、それを知るために、とりあえず体を起こす。
すると、何故か鈍い痛みに襲われた。
頭と、腰と、腕と。
そんな痛みに耐えて、きょろきょろと見回す。
分かったことは、ここが病室だということと、先程まで通話していた相手である、晴翔さんの姿があること。
彼は俺が寝ていたベッドの横で座っていたが、どうも目元が赤く、疲れたのかそのまま寝ていた。
出雲 治
起こさないように、囁くように名前を呼んだ。
それほど深い眠りではなかったのか、彼は唸ってから、ぼんやりと目を覚ました。
月見 晴翔
月見 晴翔
月見 晴翔
今にも泣きそうな声で俯いたままそう言った晴翔さん。
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
出雲 治
月見 晴翔
月見 晴翔
晴翔さんが言うには、怪異の類らしい。
俺は朝から電車で出掛けたその帰りに電車が脱線事故を起こして生死を彷徨っていたらしい。
俺が真夜中のきさらぎ駅や伊佐貫トンネルを彷徨っているとき、現実ではまだ昼であって、更には病院にいたとのこと。
俺が見ていたのは夢__と言うには少し現実味がありすぎるが__だったのかもしれない。
あの祭囃子の音はなんだったのか。
あの一本足の人間らしきものはなんだったのか。
そして、あのまま電車に乗ってやみ駅まで行っていたらどうなっていたのか。
結局その真相は分からないままで、怪異ということにしておくことにした。
__to be continued