『愛しい君へ。』

脱衣所まで歩いてきたのに、未だに寝ぼけているころん。

あんなことをした俺に、抱きついてくれる。

そんな隙だらけのころんが、愛しくてたまらなかった。

そう言いながら、ぽすっと軽く殴った。

思わず、え、と声を漏らす。

よくも、って…

…もしかして、『あのこと』を言ってんの？

ケラケラと笑うころんに、少し呆れる。

無理やりした奴が言うのもなんだが、コイツはもうちょっと危機感を持った方がいいと思う。

笑い疲れたのか、ぐったりと俺の体に寄りかかる。

ポロポロと、涙をこぼすころん。

俺には、突然のことすぎて頭が追いつかなかった。

なんで、ころんが謝ってるの？

なんで、謝りながら泣くの？

俺の、せいだった。

ころんは何もしてない。

俺の事だけを見て欲しいとか、そんな自分勝手な馬鹿な理由で。

ころんを泣かせてしまった。

関係を壊してしまった。

相棒のままでいられたら、それで十分だったのに。

ころんの頭を、軽く撫でる。

ふわふわしてて、可愛い。

でも、もう最後だな。

もう一度ころんの頭をくしゃりと撫でてから、部屋を出た。

悔しかった。

寂しかった。

数え切れないほどの後悔をした。

でも、もう戻れない。

俺が、ころんを泣かせたんだ。

この気持ちは、自分に対する罰なんだから、受け入れなきゃ。

外に出てから、もう一度振り返る。

この家に来ることも、きっともう無くなるのだろう。

その言葉を言った時、過去の幸せな思い出が蘇ってきた。

馬鹿なことで笑ってた、何も知らない俺たち。

たまに酔ったフリをして、ころんを困らせたりしてた。

たったそれだけのことでも、俺にとってはかけがえの無い幸せだった。

なんで、それで満足出来なかったんだ。

同じように幸せだと思ってくれていたころんを、裏切るような真似をして。

深くお辞儀をしてから、歩き出した。

もう、あの笑顔を忘れたい。

ころんとの日々を思い出しながら、そう思う。

それも、俺の自分勝手な理由だけれど。

そうしないと、胸が張り裂けそうだった。

何も無い空を見て、これからのことを考える。

俺には、多くのリスナーがいる。

皆いい子で、裏切りたくなんかない。

すとぷりメンバーだってそうだ。

誰一人として欠けちゃいけない。

すとぷりを抜けるなんて、無理だ。

…なら、なんで俺はあんな事をしたんだ。

そんな、答えの出ない質問を繰り返す。

滅多に外は歩かないはずのなーくんが、何故かここにいる。

いつもなら会えて嬉しいのに、今は後ろめたさから嬉しくは思えなかった。

笑顔で、そう言ったなーくん。

俺もそうだったな、と思う。

別に、毎日特別なことをしてた訳じゃなかった。

時には、2人とも別々のことをしてる日もあった。

それでもころんの家に行ってたのは、多分、ころんと居る時間が好きだったから。

何もしなくても、そばに居るだけで落ち着いた。

しばらく、沈黙の時間が続いた。

でも、それは全く気まづいものでは無かった。

やがて、俺が口を開く。

そう言って寂しそうに笑ったなーくんは、本当に辛そうだった。

きっと、想像でもしたのだろう。

好きな人であるジェルに抱かれて、翌日辛そうに謝られる日のことを。

まるで、俺が今日したことを知ってるみたいだな、と心の中で失笑する。

暗い話を明るく戻すように、ふわりと笑った。

じゃあ、あの時俺はどうするべきだったんだ。

泣いて謝るころんを、置いていくべきでは無かったのか。

なーくんの顔を見て、俺はそんなに酷い顔をしていたのか、と思う。

1度下を向いてから、にこりと笑いかけた。

少し小走りになりながらジェルのもとへ向かうなーくんは、幸せそうだ。

あの、優しくて無理をしすぎてしまう人に、俺と同じような過ちをしないでくれよ、とジェルに願う。

もしそうなってしまったら、きっと、なーくんは泣くことも出来ないから。

どうか、俺のような馬鹿なことはしないで。

あの人の笑顔を忘れたいと、思わないように。