??
不意に自分の名前を呼ばれた 気がして辺りを見回す。
けれどもここは人が多い スーパーの中。
誰に呼ばれたのかわからない。
それに、僕のことを呼んだとは 限らないし。
聞き間違いだと判断した僕は 商品に視線を戻す。
ところが。
??
他の音達に混ざって聞こえてきた その声は、先程よりも はっきりとしていた。
しかも僕はこの声の主を よく知っている。
他の人々を避けつつ声が 聞こえた方へ行く。
菊池 瑞幹
声をかけると、相手は僕を見て 笑みを浮かべた。
香久山 冴弥花
この店にいたのね
香久山 冴弥花
菊池 瑞幹
その探し方やめなよ
香久山 冴弥花
瑞幹だって
私の独り言を聞いて
見つけたんでしょ?
菊池 瑞幹
香久山 冴弥花
確かに僕は冴弥花の独り言を 耳にして彼女を見つけた。
探し方としては我ながら 良くないと思う。
こういう時恵夢のように 視力に優れていたら、 探し方一つ取っても相手に不快感を 与えなくて済むんじゃ ないだろうか。
もしくは人探しに関与しない 感覚に優れていた方が 良かったのかもしれない。
幸治や結和みたいに。
菊池 瑞幹
どうしてスーパーに?
買い出しは僕が担当している。
だから他のシェアメイトが 買い物に来ているのは かなり珍しい状況だった。
香久山 冴弥花
途中で、瑞幹の匂いが
したものだからつい
菊池 瑞幹
くれれば買うのに
香久山 冴弥花
選びたい気分だった
のよ
香久山 冴弥花
目の前にエコバックを 差し出される。
香久山 冴弥花
乾いたから
届けに来たわ
菊池 瑞幹
僕がエコバックを受け取ると、 冴弥花は言った。
香久山 冴弥花
柔軟剤のコーナー
見てくるわね
菊池 瑞幹
彼女を見送った僕は 野菜コーナーへと急ぐ。
そろそろタイムセールを開始する という店員らしき人の声が 聞こえたから。
その直後、無事に目的のものを カゴに入れ終えた僕は 冴弥花がいるはずの 柔軟剤コーナーへ向かう。
しかしその途中、 ある声が聞こえて思わず 立ち止まってしまった。
そしてすぐに声の主を突き止めた 僕は静かに歩み寄り、こう言った。
菊池 瑞幹
菊池 瑞幹
やめてもらえませんか
それを聞いた相手が怯えたように 逃げ去った後、背後から 知り合いの声がした。
六条 環那
突然のことに思わず背筋が伸びる。
菊池 瑞幹
六条 環那
六条 環那
言ってるでは
ないですか
菊池 瑞幹
六条 環那
六条環那。
この人は音を出さず、 気配を感じさせることもないまま 突然現れる。
あとやたら物理的に 距離を詰めてくる。
だから僕からはあまり積極的に 関わらないようにしていた。
六条 環那
探してましたよ
菊池 瑞幹
六条 環那
予感はしてましたが、
悪い方でなくて
良かったです
菊池 瑞幹
菊池 瑞幹
やっぱり彼女と 会話するのは苦手だ。
何を言えばいいかわからなくて そっけなくなってしまう。
その後、僕は辺りを見回していた 冴弥花を見つけ声をかけた。
菊池 瑞幹
香久山 冴弥花
香久山 冴弥花
柔軟剤見つけたわ!!
菊池 瑞幹
菊池 瑞幹
良くない
香久山 冴弥花
香久山 冴弥花
菊池 瑞幹
香久山 冴弥花
香久山 冴弥花
菊池 瑞幹
会計を済ませてシェアハウスに 帰る途中、冴弥花が思い出した ように言った。
香久山 冴弥花
さっき変なことが
あったのよ
菊池 瑞幹
香久山 冴弥花
香久山 冴弥花
知らない人に
謝罪されたの
菊池 瑞幹
じゃない?
香久山 冴弥花
しれないわね
店内であったことは 伏せておくことにした。
それにしてもまさか直接謝罪しに 行ったとは、僕の怒りの声が あの人達にちゃんと伝わったって ことなんだろうか。
仮にそうだとしたら、 良かったのかな。
僕は一人安堵した。