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博衣こより🧪
言われた言葉が予想外で、思考が止まる 断られない、と確信していたはずだったなのに すんなりと受け入れられる、とは思っていなかった 一瞬後悔した様なその人の表情に、困惑が募る
沙花叉クロヱ🎣
沙花叉クロヱ🎣
咄嗟に訊いてしまった ただ同情で受け入れているのだとしたら ただあしらうために放った言葉だとしたら ただ正義感で言っているのだとしたら そんな‘もしも’を考えてしまったから
博衣こより🧪
博衣こより🧪
間髪入れずに答えるその人に、手を掴まれる 歩くその人の尻尾は揺れていて 握られた手は暖かくて 寒い、と感じていたことを自覚した 不意に、疑問が湧いた 何故この人は、沙花叉を買ったのか という、至極当然の疑問だった 自分を売る言動 身体にこびりついた血 目立つ頰の痣 微かな性の臭い それらは、普通の人にはないモノで 普通の人は受け入れないモノで 受け入れた人は普通じゃ無いと言われるモノで そんなモノを受け入れた彼女が不思議で 尋ねようとしては止めを繰り返した
博衣こより🧪
突然、彼女が訊いてくる 反応ができず、また歩みを進める彼女の背を追った
博衣こより🧪
奥に声をかける彼女の後ろで 見慣れない、綺麗な部屋に狼狽えた 唐突に、彼女が振り向く 風呂場の場所を説明され、着替えを渡され、入ってくるように指示をされる 嫌だと思う反面、部屋を汚すことへの罪悪感から、大人しく頷く 彼女が座る音と
博衣こより🧪
なんて呟きが背後から聞こえた 困惑を含む声だった 敵意も害意も無い声だった だからこそ、どうしようもない不安に襲われた
服ごと、シャワーを頭から浴びる まだお湯になる前のソレは少し冷たくて 心臓が掴まれたようにぎゅっとなる けれど、そんなことは気にもならない程に 不安が心に満ちていて 暖かくなったシャワーの中でさえ、何故か寒いと感じてしまって 理解ができない混乱に陥る
沙花叉クロヱ🎣
言葉が、零れた ‘あの人’はどう思っているのだろうか 初対面にも関わらずタメ口で話しかけた沙花叉のことを 他人に身を売る沙花叉のことを 図々しく家に上がり込んだ沙花叉のことを ‘あの人’はどう思っただろうか 無礼だと思っただろうか 汚いと思っただろうか 遠慮が無いと思っただろうか ‘あの人’に嫌われることを想像しただけで ‘あの人’に失望されることを想像しただけで どうしようもなく、苦しくなる
沙花叉クロヱ🎣
突如冷たくなった水に、思考が覚めた 同時に、まだ自分が服を着たままなことに気づく 気持ちが悪くて、びしょ濡れの服を脱ぐ 自分の身体が目に入る 火傷、打撲、切創 治りきっていないモノも、治って尚残るモノも 様々な傷が刻まれた、自分の身体が目に入る ソレは酷く醜いモノのように沙花叉の目には映った シャワーを止め、バスタオルを体に巻く 香った慣れぬ匂いに、何故か安心感を覚えた
部屋に入ってすぐに、彼女の姿を見つける ソファーに座り、天を仰ぐ彼女に静かに近づく
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
ボソ、と聞こえた呟きにタメ口で応えようとして、咄嗟に敬語に直す 反応してこちらを見る彼女から、顔を背ける 予期せず見えた彼女の尻尾は揺れていて まるで沙花叉に好感を持っているみたいで、理解ができない 数秒、沈黙が部屋を満たす
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
博衣こより🧪
沈黙に耐えきれず口を開くと、焦ったようにはぐらかされる 教えるべきなのだろうか 彼女の問いに、一瞬躊躇する 沙花叉は知っている 人の体を底値で買おうとするゴミがいることを 高い金を払ってまで人に苦痛を与えて愉しむクズがいることを 沙花叉は知ってしまっている けれど、必ず教えなければならないことだ 沙花叉がどれだけ嫌でも、教えなければならないことだ ‘必ず’だと決まっているのなら、躊躇う必要性は無い そう、無理に自分を納得させる
沙花叉クロヱ🎣
博衣こより🧪
彼女が知りたかったことを教えたのに 何故か彼女は、驚愕したような声を漏らす
博衣こより🧪
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
何を考えたのか、自己紹介をする彼女 一人称が沙花叉とはいえ フルネームを言うのは久し振りで、少し吃ってしまう
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
彼女の問いに答えられず、曖昧な答えを返してしまう 「どう呼ばれたいか」なんて、訊かれるとは思っていなかった そして、呼び方なんて気にしたことが無かった 家族にすら、名前を呼ばれることは稀だった 身体を買われても、名前を呼ばれる必要性が無かった 唐突に顔に手を伸ばされ、反射的に顔を背ける 頰に触れられ、強制的に彼女のほうを向かされる 目が合いそうになり、視線を逸らした 目が合ってしまったら、沙花叉のことを嫌いになるのではないか そう思ってしまう、自分がいるから 真っ直ぐと沙花叉を見つめる彼女の瞳は綺麗で そこに汚い自分が映っていることが どうしようも無いほど、罪悪感を掻き立てる どうしようも無いほど、苦痛で堪らない
沙花叉クロヱ🎣
沙花叉クロヱ🎣
不意に抱き締められる 抵抗しようと腕を動かした瞬間、頭を撫でられる 優しい撫で方だった まるで愛おしいモノに触れているようだった バスタオルと服に染み付いていた甘い匂いが鼻をくすぐる その匂いに、どうしようもなく安心してしまう 彼女が撫でやすいように 抱き締めやすいように 体勢を変えて、彼女の膝の上に乗る 軽く抱き締め返せば 視界の端で尻尾が揺れた
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
優しい声音で彼女が言う 反射的に体を離す
博衣こより🧪
沙花叉クロヱ🎣
少し緊張したように言う彼女に、笑って応えてしまう もう一度抱き締められる 頭に触れる温もりが心地よい 優しく撫でられる度、瞼が重くなっていく 抗えないほど強くなった睡魔に、黙って身を任せた