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蘭side
桃瀬らん
窓から差し込む夕陽を浴びながら 私は勢い良く声を掛ける。
ゆっくりと長身が振り返り、 不思議そうな顔の威榴真と 視線がかち合った。
紫龍いるま
私は声が震えないように 腹筋に力を入れ、 グッと拳を握りしめて言う。
桃瀬らん
普段とは違う雰囲気に、 威榴真にも緊張が 走るのが分かった。
息を呑む相手を まっすぐに見つめ、 私はもう何年もの間 溜め込んでいた 言葉を告げる。
桃瀬らん
言った。遂に言ってしまった。
鏡を見るまでもなく、 顔に熱が集まって いるのが分かる。
堪らず視線を外すと、 今度は心臓の音が耳につく。
さっきよりも大きくなっていて、 このままでは威榴真にも 聞こえてしまうのでは ないかとさえ思う。
恐る恐る顔をあげると、 威榴真は呆気に取られたように 立ち尽くしていた。
パチリ、と視線が合う。
威榴真はまだ現実味が 湧かないのか、 耳を赤らめながら 吐息混じりに呟く。
紫龍いるま
たった一言、 それも疑問系だったけれど、 充分だった。
桃瀬らん
あの後輩女子に 告白された時より 顔が赤く見えるのは、 考えすぎだろうか。
予想外の反応に、 私も何も言えなくなってしまう。
桃瀬らん
視線を泳がせ、 言葉を探すが 零れ落ちたのは意味を 成さない音だった。
桃瀬らん
紫龍いるま
まだ顔を赤くしたままの 威榴真が、不思議そうに 首を傾げる。
180センチ近いのに、 可愛ら仕草がやけに 似合っていた。
桃瀬らん
ふっと浮かんだ言葉に、 私自身が驚いてしまう。
分かってはいたが、 自分は相当おかしく なっている。
このままでは、 確実に余計な事まで 口走るだろう。
ボロが出る前にと、 強引に話題を逸らす。
桃瀬らん
桃瀬らん
やらかした。
瞬間的にそう思った。
桃瀬らん
脳裏に閃いた言葉に、 私はハッとする。
そう、恋愛も戦いだ。
だから、 敵前逃亡したわけではなく、 これは次の作戦の為の一時避難。
もっと言えば、 今回の告白の予行練習は 奇襲作戦なのだ。
威榴真は目を見開き、 私の発言を噛み砕くように 瞬きを繰り返している。
ややあって、 柔らかな髪を ガシガシとかきながら、 じろりとこちらに 視線を送ってきた
紫龍いるま
呆れ半分、 照れ半分といった声色に 私は小さく息をつく。
桃瀬らん
心臓が切なげな音を 奏でたのは聞こえなかった フリをして、 ニッと口角をあげる。
桃瀬らん
紫龍いるま
桃瀬らん
勢いに任せて威榴真の 顔を覗き込むと、 じとーっという 視線が返ってくる。
こういうとき、 何も言われないのは 却って辛い。
私は慌てて笑顔を引っ込めた。
桃瀬らん
紫龍いるま
桃瀬らん
威榴真の一言に、 今度は私が言葉を 失う番だった。
ドクン、ドクンと 心臓がいっそ 痛いくらいに鳴り響く。
桃瀬らん
紫龍いるま
にやっと笑ったかと思うと、 威榴真の手刀が額を 目掛けて飛んできた。
ズビシッと、 まるでコントのように決まり 私は堪らず声をあげる。
桃瀬らん
桃瀬らん
嘘泣きで抗議してみるも、 あっさりとスルーされ いつもの仏頂面に 戻った威榴真が言う。
紫龍いるま
桃瀬らん
紫龍いるま
咄嗟についた嘘を あっさりと信じられ、 私はグッと息が詰まった。
予行練習だ、と 言い出した自分が 悪いのは分かっている。
だがそれでも 嘘で冗談でも 「他に本命がいる」 なんて言われたくはなかった。
威榴真にだけは。
私は複雑な想いと 本当の気持ちを抑え、 もう一度ギュッと 拳を握りしめる。
同時に顔には 満面の笑顔をのせ、 答えを待っている威榴真の 脇腹に一発お見舞いした。
桃瀬らん
紫龍いるま
前屈みになった幼馴染と 視線を合わせるように 腰を折り、私はいつもと 変わらないフリをして 次の約束を取り付ける。
桃瀬らん
紫龍いるま
桃瀬らん
紫龍いるま
桃瀬らん
お互いに好き勝手 言いながらも、 最後はいつだって 笑って終わる。
特別決めたわけでもないのに、 それが、2人の間のルール みたいになっていた。
桃瀬らん
鈍い痛みに混じり、 心臓が針を刺されたように 泣いている。
桃瀬らん
桃瀬らん
その日の夕焼けは、 目に染みるほど赤かった。