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夏都side
あれは半年程前蘭に借りた辞書を 返そうと朝一で教室に 向かった日のことだ。
赤暇なつ
雨乃こさめ
ドアの前で恋醒と鉢合わせになり 思わず足が止まりそうになった。
まるで自慢にならないがそれまで 直接話したことは一度もなかった。
彼女の視界に自分が 映っていると思っただけで 頭が真っ白になるからだ。
足早に立ち去ろうとしたが 俺の目に『それ』が飛び込んできた。
そして気付いた時には 何故か勝手に口が開いていて__。
赤暇なつ
雨乃こさめ
驚いた顔で後頭部を押さえる恋醒に 俺は自分の前髪をつまんで見せた。
赤暇なつ
語尾は殆ど消え入りそうだった。
誰と喋っているのか意識した途端 まるでコントのように思い通りに声が 出なくなってしまったのだ。
だが、それだけでは終わらない。
もっと大きな衝撃が待っていた。
恋醒は寝癖の場所が分かって ホッとしたのか表情を和らげる。
そして、細く綺麗な指を 口元に当てて囁いた。
雨乃こさめ
恥ずかしそうな表情と口調に 俺の全身を電流が走り抜けた。
口から何か出そうになり 咄嗟に手で覆ってしまう。
赤く染まった顔が緩み もごもごと口の中でとても恋醒には 聞かせられない言葉を呟いた。
赤暇なつ
思い出すだけで 心臓が煩いくらいに脈打つ。
とはいえ、あれ以来恋醒と 面と向かって話せたことはない。
折角の機会を次に繋がることが出来ず また遠くから見守るだけに逆戻りだ。
赤暇なつ
項垂れていた顔を上げると 必死にボールを追いかけている 乾 奈唯心 の姿が目に入る。
同じクラスの彼は運動が苦手なようで 体育の授業で自分から積極的に試合に 参加するタイプではなかった。
それが最近、ピッチを 全力疾走する姿をよく見かける。
赤暇なつ
『恋醒』同様俺が親しみを込めて 勝手に心の中で『奈唯心』と 呼び捨てで呼んでいるだけで 奈唯心と特別仲が良い訳ではなかった
クラスこそ一緒だがこうして 体育の授業や掃除の時間くらいしか 接する機会はない。
俺から見ても分かるのは奈唯心の 劇的なビフォアフぶりだった。
7月に入った頃 彼はガラリと雰囲気を変えた。
一見すると女の子のようだった 髪を切りメガネから コンタクトにしたのだ。
コメント
1件
投稿お疲れ様です!! 水ちゃんの「ないしょ」が可愛すぎるッッ😍