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夏都side
雨乃こさめ
廊下ですれ違った恋醒が そう言って奈唯心に笑いかけていた。
丁度恋醒の後ろを歩いていた俺は 現場を目撃し持っていた コーヒーパックを握り潰しそうに なったのを覚えている。
恋醒が立ち去ったのを確認し すかさず奈唯心に近付いた。
赤暇なつ
乾ないこ
乾ないこ
突然のことに戸惑いながらも 奈唯心は真っ直ぐに 俺を見つめて言った。
ヤキモチで頭が沸騰していたから 直ぐには気付かなかった。
けれど長い前髪もメガネも 無くなった奈唯心と 視線がぶつかりはっと息を飲む。
こんな風に目を合わせて 話したことがあっただろうか、と。
赤暇なつ
奈唯心の声を聞くのは休み時間に 蘭と漫画の貸し借りをしている ときくらいだった。
共通の趣味の話題を楽しそうに 話していても聞こえてくるのは 蘭の声ばかりで奈唯心は 相槌を打っているだけ。
声はか細く口数も少ない。
それが俺の知っいてる 奈唯心の人物像だった。
ところが外見が変わってからは 自分で挨拶をしてくるし 授業中には手を挙げるように なっていた。
最早別人の域と言ってもいい。
一部の女子達からはアイドルのような 扱いでよく園芸部の活動中 取り囲まれている姿を見かける。
奈唯心本人は戸惑っているのが ありあり分かったけれど 彼女達にとっては 「可愛い!」らしい。
最初の頃は俺も 「高校デビューにしては遅く 夏休みには早い」 と首を傾げていた。
だがすぐに奈唯心の変身の 理由に気付いた。
彼は蘭に恋しているから 自分を変えたのだ。
赤暇なつ
友人に向ける親しみと穏やかさに 混じり確かな熱がこもっている。
実は俺も自分が恋醒を 見るときに同じような視線を 送っている気がしてた。
赤暇なつ
赤暇なつ
そんな視線を送る人物を 俺はもう1人知っている。
蘭は威榴真のことが好きなのだろう。
きっと威榴真も同じくらい蘭に想いを 寄せていると俺は感じていたが 本人達は気付かないでいる。
2人はつかず離れずただ幼馴染のまま もどかしい関係を続けていた。
澄絺は美琴とよく帰っているが 2人もカレカノの関係ではないようだ
それとなく澄絺に話を振っても 「みこちゃんとは不思議と 気が合うんだよね」 と言う答えが返ってくるだけだった。
赤暇なつ
恋醒に告白して玉砕した男子なら 校内に山ほどいる。
噂では「好きな人いますか?」 という質問をぶつけた 猛者もいたらしい。
そんなとき恋醒は律儀に考え込み 小首を傾げて言う。
雨乃こさめ
背後のテニスコートを見ると まだ試合の順番が回ってこないようで 恋醒達3人が楽しそうに 話を続けていた。
風に乗ってくる言葉からおすすめの 漫画の話をしているのが分かる。
次第にテンションが上がってきたのか 蘭の声が一際大きくなった。
桃瀬らん
桃瀬らん
赤暇なつ
心の中で蘭を拝みまくり 俺は聞き逃すまいと耳に 全神経を集中させる。
少しの間があり恋醒の澄んだ声が やけにはっきりと聞こえてきた。
雨乃こさめ
赤暇なつ
俺は思わず頭を抱えそうになったが ふっと気付いて苦笑いを浮かべた。
告白する勇気なんて 持ち合わせていないくせに そもそも土俵にすら 上がっていないのにショックだけは 一人前に受けるなんて。
赤暇なつ
赤暇なつ
恋醒が自分を好きだったらいいのに なんて図々しいことは願わない。
今はまだ好きな人がいなければ それだけでいい。