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第1話 - あ

2023年11月27日

#恋愛

結城　真矢

アキラ

おい、ナミエ

アキラ

就職先はどうなった？見つかったのか？

ナミエ

いや、もう面接は全部終わったよ

アキラ

最終面接が終わった、ってことか？

アキラ

あとは何社残ってるんだ？

ナミエ

もう、応募したところは全部受け終わって、結果も帰ってきた

アキラ

えっ...それって...

ナミエ

全部ダメだった

アキラ

お前、何やってたんだ！

アキラ

就職氷河期でもないのに...就職先ゼロなんて...

アキラ

どうせ、また面接で話すときに声が小さくなったんじゃないのか！？

ナミエ

私なりに、精いっぱいやったつもりだよ！

ナミエ

100社以上にエントリーして、筆記試験もそこまで悪くなかったのに...

ナミエ

全部、面接で落ちちゃった

アキラ

本当に...情けないと思わないのか！？

アキラ

苦手な面接対策に手を抜いたから、こんなことになるんだろ！？

ナミエ

手なんか抜いてない！

ナミエ

しっかり大学のキャリアサービスで練習もしたし、時間も使って人一倍やったもん

ナミエ

でも、本番になると緊張して...言いたいことが言えなかったの

アキラ

そんなの、言い訳に過ぎないだろ

アキラ

みっともないこというのは止めなさい

ナミエ

みっともないこと、って...

ナミエ

だって、私より遊んでる子が受かってたり、不平等なことが起きてるんだよ！？

ナミエ

不満だって、言いたくもなるでしょ

アキラ

そうやって、人のせいにしてるからいつまでたっても成長しないんだよ

アキラ

自分が何を言ってるのか、分かってるのか？

ナミエ

分かってるよ、もちろん

ナミエ

でも、本当のことでしょ？

アキラ

商社の営業は、会社の顔になるも同然なんだ

アキラ

そこに顔だちの良い人を採用するのは、別に珍しいことじゃない

アキラ

美男美女が選ばれるのもよくあることだろ

ナミエ

何それ...

ナミエ

私の顔だちが微妙だから、採用されなかった、って言いたいの？

アキラ

まあ、ストレートに言えばそういうことになるな

ナミエ

そういうことになる...って

ナミエ

自分の子供でしょ！？

ナミエ

そんな言い方して...さすがに酷いんじゃないの！？

アキラ

ナミエがひどいと思うかどうかなんて、どうでもいいことだ

アキラ

良い生活をしていきたいなら、そういうカラクリとか裏も理解しておいた方がいいだろ

アキラ

俺が今ここで言ってことに、むしろ感謝して欲しいくらいだよ

ナミエ

感謝なんて...誰がすると思ってんの...

ナミエ

お父さんに感謝することなんて、1つもない！

アキラ

今まで養育費、大学の費用も出してきたのはほぼ俺なんだぞ

アキラ

そんなこと言っていいと思ってるのか

ナミエ

そうやって言うけど...私が中学生の時、ずっと学校のことで悩んでたこと、知らないでしょ？

アキラ

不登校になってたんだろ？

アキラ

そうやって小さい頃に甘えてたから、こうして大人になった時にも甘えが出るんだ

ナミエ

違う！

アキラ

は？何が違うんだ？

ナミエ

不登校になった理由は、お父さんやっぱり知らないんでしょ

アキラ

だから、お前が悪いんだろ

ナミエ

同級生の男の子に、「お前って父親の言いなりになってるんだろ？って言われたの」

ナミエ

それから、何でも聞いてくれる奴なんだ、って認識されて...

ナミエ

女の子からも、男の子からも...色んな人に頼まれる何でも係、みたいなふうに認識されたの

アキラ

それは...俺のせいじゃないだろ

ナミエ

お父さんのせいでしょ？

ナミエ

お母さんが何か言おうとしても、怒鳴って無理やり止めて...

ナミエ

授業参観日の日なんて、授業が終わったらダメなところしか言わなくて、

アキラ

ああしろ、こうしろ...って...

ナミエ

いい加減にしてほしかったよ

アキラ

そこまでイヤなんて、俺は知らなかったんだよ

アキラ

だって、言われてなかったんだからな

ナミエ

は？何それ！？

ナミエ

私は、ずっと限界だったんだよ？

アキラ

そんな昔のことを掘り返したって、現状は変わらないだろ

アキラ

これから、どうするんだ

ナミエ

私、本当にやりたいこと見つけたいから、1年間はアルバイトしながら1人暮らしする

アキラ

は！？何言ってるんだ！

アキラ

ずっと親に頼ってきたお前が、いきなり一人暮らしなんてできるわけがないだろ！

アキラ

どうせ途中で挫折するに決まってるんだ

アキラ

やめておけ

ナミエ

私は、絶対に途中でやめないから！

アキラ

本当に...最近へんなところで頑固だな

アキラ

このことは、母さんにも言っておく

アキラ

俺は仕事があるから、この話はまた今度な

～2週間後～

アキラ

おい、ナミエ

アキラ

お前、俺が家にいる時間をさけて外出してるだろ

アキラ

最近夜もいないみたいだし...どこにいるんだ

ナミエ

お父さんには、関係ないでしょ

ナミエ

私、もう大学生なの

ナミエ

お母さんにはちゃんと連絡してるし、別にいいじゃん

アキラ

いつまでもそんな意地張って...

アキラ

まあいい

アキラ

今度、お前に見合いの席を用意した

ナミエ

は！？お見合い！？

ナミエ

何！？その昭和みたいなこと...

アキラ

お前には、仕事することは向いていない

アキラ

何か新しいことを始める時は、失敗して痛い目を見るのが落ちだ

アキラ

止めておきなさい

ナミエ

イヤだよ

ナミエ

お見合いなんて、絶対にしないから

アキラ

相手は、大手の保険会社に勤める人だぞ

アキラ

失礼な事したら、俺が恥をかくんだ

ナミエ

でも、私は行かない、って自分の心の中ですでに決めてるの

ナミエ

だから、そのお見合いもキャンセルしてよ

アキラ

何度も言ってるが、お前には仕事はできっこないんだよ

ナミエ

そうやって、何でもかんでもやる前から私にはできない、って決めつけて...

ナミエ

なんでそうやって頭ごなしに言うことしかできないの？

ナミエ

少しは、私の意見とか希望も聞いてよ！

アキラ

お前の言うことなんか聞いてたら、キリがないだろ！

アキラ

とにかく、来週の日曜日、空けておけよ

～来週の日曜日～

アキラ

ナミエ

アキラ

聞いたぞ、母さんから

アキラ

お見合いはナミエが自分でキャンセルした、って...

ナミエ

うん、そうだけど？

アキラ

そうだけど、じゃないだろ！

アキラ

あれほど言ったのに...

ナミエ

でも、相手の方も理由を話したら、ちゃんと納得してくれたよ

ナミエ

お父さんより、全然考え方が柔軟な人で素敵な人だった

アキラ

お前な...親に反抗するのもいい加減にしなさい

ナミエ

親、って言うけど、親だから子供の何もカモ、決めて良いわけじゃないでしょ？

ナミエ

私の人生は、私で決めていきたいの

アキラ

そんなに言うんだったら、もう好きにしろ

アキラ

あとで泣きついてきたって、知らないんだからな

ナミエ

泣きつく？誰が

ナミエ

お父さんのことなんか、もうあてにしないから安心してよ

ナミエ

迷惑もかけないから

ナミエ

じゃあね

～5年後～

アキラ

おい、ナミエ

アキラ

どういうことだ...

アキラ

今、母さんから聞いたけど...

アキラ

お前、起業する、って本当か？

ナミエ

うん、本当だけど？

アキラ

やめとけ、ってあれほど言っただろ！

ナミエ

何？今頃...

ナミエ

もう縁切ってから５年も経ってるんだよ？

ナミエ

なんで今更そんなこと言ってくんの？

アキラ

縁切っただと？

アキラ

俺は、そんなことを言ったつもりはないぞ

ナミエ

そうなの？

ナミエ

私は、そのつもりだったんだけど

ナミエ

だって、５年も何の連絡もしてこなかったのが何よりの証拠じゃないの？

アキラ

だって、それはだな...

アキラ

そっちが俺にもう連絡するな、って言ってきたからだろ...

ナミエ

少しは心配して、連絡してくれるかな...って思ったけど、

ナミエ

期待した私がバカだったな

アキラ

とにかく...これから始めようとしていることはすぐに中止しなさい

アキラ

お前にできるわけないんだから

ナミエ

そんなこと、できるわけないじゃん

ナミエ

だって、もう会社も作ってオフィスも完成したんだもん

アキラ

は？なんだって？

ナミエ

だから、オフィスが完成して、自分がやりたい事業を始めるの

ナミエ

ずっと、フラワーデザイナーの仕事がしたかったの

ナミエ

私、人と話すと緊張しちゃうけど、細かい作業はすごく好きなんだよね

ナミエ

それで、５年前にお見合いする予定だった人から急に連絡が来て...

ナミエ

私がフリーランスでフラワーデザイナーとして働く、って話したら、

ナミエ

ぜひ支援させてくれないか、って言われたの

ナミエ

それで、私もいきなり１人でビジネスをスタートするのは不安だったから、

ナミエ

その人と一緒に、この４年間色んなとことで仕事してきたんだよ

アキラ

一度お見合いをキャンセルした人に、そんな図々しいことを頼むなんて...

アキラ

失礼にもほどがあるぞ

ナミエ

でも、頼れる人は頼りたい、って思ったの

ナミエ

１人で不安なことを抱えてても、悩んじゃうばっかりだし

アキラ

自分でやる、って決めたことには責任をもって最後までやるのが筋、ってもんだろ！

ナミエ

あっ、もう１ついうことがあるんだった

アキラ

何だ...今度は

ナミエ

お父さん、って最近テレビ見てる？

アキラ

特定のニュースしか見てない

ナミエ

そっか...

ナミエ

じゃあ、多分知らないんだね

アキラ

何をだ？

ナミエ

フリーランスで仕事をする人に密着するドキュメンタリー番組で、今度私が放送されるの？

アキラ

嘘だろ？

ナミエ

本当だよ

ナミエ

もう、撮影は終わってて...

ナミエ

確か、来週に放送だったかな...

ナミエ

今まで私がやってきたことを全部話してるから、ぜひ見てみてよ

アキラ

そんな、テレビに取り上げられたくらいで舞い上がってるんじゃない

ナミエ

もう、本当に認めたくないんだね

ナミエ

じゃ、これ言えばいいかな？

ナミエ

私ね。全国で一番顧客が多フラワーデザイナーに、去年選ばれたんだよ

アキラ

え...全国で、一番？

ナミエ

そうだよ

ナミエ

信じられないでしょ

ナミエ

今までは、結婚式会場のお花のデザインとか、特別な式でのフラワーアレンジメントを任されたの

ナミエ

今年は、初めての海外出生もあるから、自分のスキルを色んな人に見てもらえそうだよ

アキラ

海外出張！？

アキラ

そこに行くんだ！？

アキラ

ニューヨークだよ

ナミエ

私のフラワーアレンジメントを見てくれた海外のインフルエンサーが、

ナミエ

ぜひ自分の部屋も豪華に飾ってほしい、って言ってきて...

ナミエ

そのインフルエンサーの部屋を私がアレンジすることになったんだよ

ナミエ

すごいでしょ？

アキラ

フリーランスなら、自分で仕事を取ってこないと食べていけない職業だ

アキラ

どうせ、すぐに売りえ上げが伸びなくて挫折するに決まってるんだよ

ナミエ

私は、成功できる、って信じてるから

ナミエ

気持ちとやる気さえあれば、絶対に成功できる、って信じてるもん

アキラ

あのな、社会はそんなに甘くはないんだよ

ナミエ

厳しいことでも、私は乗り越えてきたんだから、大丈夫

ナミエ

お父さんに頼らなくても、１人でやっていける

アキラ

ナミエの言うことなんて、信じられるわけがないだろ

ナミエ

あっ、そう言ってさ～

ナミエ

内心、私が起業して人生で成功してるのが憎くて、悔しいんでしょ

アキラ

そんなこと、お前に思うわけないだろ

ナミエ

お母さんから、昔聞いたことあるんだよね

ナミエ

お父さんは、昔自分でビジネスをやりたかったけど、仲間とこじれ合いがあって、

ナミエ

結局うまく行かなかった、って...

ナミエ

相手のことを大事にしないからそんな目にあうんだよ

アキラ

そんな昔の話を掘り返したところで、何も生まれないだろ

ナミエ

まあ、そうだね

ナミエ

じゃあさ、私も過去のこと振り返っても何も生まれないから、

ナミエ

あとは自分のやりたいことをさせてよね

アキラ

まだ、俺は許してないぞ

ナミエ

でも、もう決めたから

ナミエ

じゃあ、これから海外出張の準備があって忙しいから、

ナミエ

バイバイ

～後日談～

ナミエ

私は、ニューヨークの海外出張で出会ったセレブに気に入られ、

ナミエ

その人が社長のオフィスの玄関の専属でフラワーアレンジメントすることになりました

ナミエ

世界を飛びながら働けるなんて、まったく考えていなかったことです

ナミエ

自分の夢が叶い、本当に夢のようでうれしいです

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結城　真矢

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