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砂時計

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砂時計

1 - 砂時計

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2019年10月20日

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久保田進

俺からの誕生日プレゼントだ

友人の久保田は、野村に小さな箱を手渡した。

久保田に促され中を開けると横に寝かされた状態の砂時計があった。

野村猛

ありがとう

野村猛

こういうの好きなんだよな(笑)

久保田進

野村が気に入りそうだと思って選んだんだ

久保田進

元々は祖母の形見なんだけどもしよかったらと思ってね

野村猛

祖母の形見だって?

野村猛

…やっぱり返すよ

久保田進

大丈夫だから貰ってくれよ

久保田進

うちで埃かぶってるより野村が持ってたほうがきっと祖母も喜ぶよ

久保田進

ただし、観賞用だけにしておけよ

野村猛

なんだって?

久保田進

使うなってこと

久保田進

大分年期も入ってるから砂がこぼれるかもしれないからな

久保田の言葉に少し疑問を抱きつつ、野村は言われた通り砂時計を箱に入れたままにしておくことにした。

数日後の夜、野村は新作小説の執筆に取りかかった。

久保田がプレゼントした砂時計は箱が開いた状態で、作業台の隅にインテリアとして置いてある。

執筆は順調に進んだが、腹の虫が空腹を報せる。

リビングへ行くと妻の麻里がテレビを観ていた。

麻里

執筆は順調ですか、先生?

野村猛

順風満帆ですよ、編集長

お互い冗談を言って笑ってから、野村は台所からカップ麺を取り出し、お湯を入れて部屋へと戻った。

時間を計ろうとして、自然と砂時計に目が行った。

「大分年期が入ってて砂がこぼれるかもしれない」

野村猛

野村猛

こぼれたところで俺には問題ないよ(笑)

野村は笑いながら砂時計を手にすると、作業台の上に立たせた。

上に溜まった砂が中央の管からサラサラ…とかすかな音を立てて下へ落ちる。

計測時間は3分なので丁度よかった。

リビングから聞こえるテレビの音以外、なにも聞こえない静寂に包まれた室内に聞こえる砂の音。

じっと砂が落ちる様子を見詰める野村だったが、突然視線を砂から天井に向けた。

野村猛

野村猛

(足音…?)

天井裏を人が歩いているような足音が上から聞こえる。

野村は怖がりではないが、不吉な予感に襲われ腰掛けていた体を起こした。

すると、作業台が揺れた弾みでカップ麺と砂時計が床に落ちた。

野村猛

あっつ!

熱湯が足に降りかかり熱さで野村は飛び跳ねた。

落ち着いた頃には既に足音は聞こえなくなっていた。

騒ぎを聞いて飛び込んできた麻里に「大丈夫だ」と言い、床に落ちたカップ麺と砂時計を拾い上げた。

それから3週間が過ぎたある日の夜。

麻里がコーヒーを野村の作業台に持って行くと「あら?」と声を出した。

麻里

そこにあった砂時計どうしちゃったの?

野村猛

引き出しにしまったよ

麻里

でも久保田さんからの誕生日プレゼントなんでしょう?

野村猛

あいつには使わないようにって言われてるから

麻里

そうだったわね

麻里

だけど観賞用にって意味だから

麻里

せめて以前みたいにインテリアとして作業台に置いておいたらどう?

野村猛

野村猛

いや、いいんだ

野村猛

目の付く所にあるとうっかり使いそうだからね

麻里

そう…

麻里は残念そうに言い、部屋から出て行った。

ここ数日、野村は久保田から貰った砂時計を使っていない。

使えばまたあのような出来事が起こるからだ。

天井裏から聞こえる足音。

点滅を繰り返すスタンドライト。

ひとりでに転がるペン。

窓が閉まっているのに揺れるカーテン。

勝手に開閉するタンスの扉。

野村猛

(全部あの砂時計を使ってるときに起きてる)

さらに、足音に関しては特に不気味だった。

砂時計の砂が落ちている間、足音は彷徨うように天井裏で足音を立てているが、

気のせいか3分が経過する直前になると自分の真上に近付いてくるような気配が感じられた。

そのときは、慌てて砂時計を横に寝かせたが、

そうすることで足音も聞こえなければ、一連の怪奇現象もピタリと収まった。

野村は久保田の言った意味がわかった気がして、3日前に連絡を入れたが一向に繋がらない。

間違いなく砂時計の力が働いていると確信した野村は自分の視野に入らないよう、

砂時計を箱に納めたまま作業台の引き出しにしまっていた。

気を取り直して執筆に戻ろうと思ったが、寒気で尿意を催しトイレへと向かった。

トイレから出ると、台所でなにやら麻里の鼻歌が聞こえる。

野村猛

なにしてるんだ?

麻里

料理炒めてるんだけどタイマー壊れちゃって

麻里

折角だから使ってみようかと思ったの

麻里が指を差した先を見た野村は驚愕した。

あの砂時計だ。

麻里

いいわね、砂時計って

麻里

時間を計りながら砂が落ちるのを見てるのも楽しいものだわ

野村猛

早く横に倒せ!

麻里

え?

砂時計に気を取られていた麻里は気付いていないが、野村にはしっかりと気配が感じ取れていた。

リビングを彷徨っていた足音が台所へと向かっている何者かの気配を…。

野村は慌てて砂時計を掴み上げたが、既に砂は全部落ちていた。

麻里

麻里

あら、停電?

突然、部屋の電気が切れ麻里は拍子抜けしたような間の抜けた声で天井を見上げた。

ただし、野村の視線は天井から妻の背後を向いていた。

恐怖で唇をわなわな震わせた野村の手から砂時計が落ちた。

気付いたときには麻里は姿を消し、

野村は得体の知れない「なにか」に掴まれた足を振りながら床を這っていた。

やがて、静寂のみが残った真夜中の家に響くスマホのコール音。

久保田進

久保田進

今起きてるか?

久保田進

多分留守番電話になってると思うから伝言を言うよ

久保田進

連絡ができなくて悪かった

久保田進

実は色々と調べることがあったものだから…

久保田進

野村、ごめん、申し訳ない

久保田進

あの砂時計、本当は祖母の形見じゃないんだ

久保田進

お前にプレゼントしたあの砂時計、実は外国旅行先で会った宗教団体から貰った物だったんだけど

久保田進

気になって調べにもう一度現地に行ってたんだ

久保田進

そしたら俺が考えてたよりも大変な事実がわかったんだ…

久保田進

あの教団、表向きは正当な宗教活動をしてるんだけど

久保田進

実際は悪魔教を教えていることがわかった

久保田進

で、元信者の人間を見付けて教団から貰った砂時計について尋ねると

久保田進

あの砂時計を使うと身の回りで不可解な出来事が頻繁に起こるらしい

久保田進

ただし、砂時計としての役割が果たせない場合

久保田進

つまり横に寝かせたままなら何事も起こらないらしい

久保田進

お前、いかにも年期が入ってそうな傷んだやつが好きだろ?

久保田進

あくまでインテリアとしていい品物を手に入れたと思って

久保田進

お前の誕生日プレゼントにしようと決めたんだけど

久保田進

結果的にそれは悪魔の砂時計を使ってはいけないという注意書きになってしまったんだ

久保田進

俺はあれにそんな恐ろしい呪いがあるなんて思ってもみなかった

久保田進

まさか砂時計を3分使った場合、あんなことが起こるなんて…

久保田進

何人も同じ被害が現地で起きてるにも関わらず調査が行き届かなかった俺の責任だよ

久保田進

…なぁ、頼むから電話に出てくれよ

必死に呼びかける久保田の声は、誰1人いない家に虚しく響くだけだった。

2019.10.20 作

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